脳をコンピューターに「アップロード」して生き続けるようになる日は来るのか?

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SFの世界では人間の精神をコンピューターに移してデータとして永遠に生き続けたり、ロボットの肉体にコピーしたりする技術が描かれることがあります。「脳をコンピューターにアップロードできるようになる日が来るのか?」という疑問について、イギリス・バンガー大学の認知神経科学教授のGuillaume Thierry氏が解説しています。

When will I be able to upload my brain to a computer?
https://theconversation.com/when-will-i-be-able-to-upload-my-brain-to-a-computer-184130


「人間の意識は脳内の電気信号によって生じる」という言説を聞くと、人間の意識も簡単にコンピューターへ移せそうな気がするかもしれません。実際に、「脳を薄くスライスして高解像度の電子顕微鏡でスキャンする」という方法で正確な脳細胞と脳接続のマップを作成する手法も考案されており、アメリカのアレン脳科学研究所の研究チームは2019年、「1立方ミリメートルのマウスの脳を2万5000枚にカットしてから電子顕微鏡でスキャンし、すべてのニューロンの3D構造をマッピングする」という実験に成功しました。

この実験でわずか1立方ミリメートルのマウスの脳から収集された総画像枚数は1億枚にのぼり、記録されたニューロンは10万個でシナプス10億個に達しました。電子顕微鏡は5カ月間連続で稼働し、完成したデータセットのサイズは2ペタバイト(200万ギガバイト)になったとのこと。

人間の脳には1000億個ものニューロンがあるといわれていることから、3D構造のマッピングにかかる時間や生成されるデータセットのサイズは2019年の実験の比ではありません。また、コンピューターの動作を脳に似せるためにはこれらのデータを大容量のHDDではなく、すぐにアクセスできるランダムアクセスメモリ(RAM)に格納する必要がありますが、これまでにそれほど大きなRAMを搭載したコンピューターは構築されていません。

また、この方法では物理的に「脳を薄くスライスする」という作業が必要となりますが、実際に人間が脳をスライスされることに同意する可能性は非常に低い上に、約1260立方センチメートルに達する人間の脳を読み取り可能な精度で正確にスライスすることはほぼ不可能です。

そもそも、脳をスライスするにはその人が死んでいる必要がありますが、脳は死んだ直後から化学的な変化が生じており、構造的・機能的特性が生前のものと同じとはいえません。加えて、「まだ比較的若々しい20歳の時に脳をアップロードするのか、それとも人生経験をたっぷり積んだ80歳の時にアップロードするのか?」という難題も存在することから、Thierry氏は「おそらく、脳のアップロードは今後しばらく無理だろうと納得していただけたのではないでしょうか」と述べています。


さらに、脳活動をデータ化する試みに立ちはだかる最大の障壁となっているのが、「結局のところ脳活動の根底にあるメカニズムはほとんどわかっていない」ということです。たとえ1000億個ものニューロンの完全な構造とそのシナプスを再構築し、コンピューターに保存・転送できるようになったとして、これがどのように機能すれば「脳」として復活できるのかはわかりません。

もちろん、ニューロンが局所的な電気的変化によって互いに通信を行い、ニューロン同士やシナプスを介した情報伝達を行っていることなど、脳活動の一部は解明されつつあります。それでも完全に理解されているわけではなく、データ化されたニューロンにどう当てはめるのかも不明であるため、脳をコンピューターにアップロードして永遠に生き続けることは困難です。


さらにThierry氏は「脳をコンピューターに移して生き続けたい」という考えそのものにも疑念を呈しています。たとえ技術的なすべての事柄が解決され、脳が文字通りコンピューターにコピーされて脳機能の完全なシミュレーションが可能になったとしても、脳をスライスした時点で当人は死んでいると指摘。

「なぜなら、人間や動物などの生き物は、生きているからこそ存在するからです」「生きている心は感覚を通して世界からの情報をインプットします。それは物理的な感覚に基づいて世界を感じる身体に不随しています。これにより、心拍数の変化・呼吸・発汗などの身体的変化が現れ、それらが感じられ、内なる経験に寄与することができます。体のないコンピューターにおいて、これはどのように機能するのでしょうか?」とThierry氏は述べ、身体と孤立した脳データのみが存在してもそれは生命や意識にならない可能性があると主張しています。もし、感覚情報を提供するセンサーや運動システムが作り出されたとしても、現実の体と完全に同一なものにはならないとのこと。

Thierry氏は脳をコンピューターにアップロードしたいと願う人に対し、「あなたが長く健康的な人生を送ることを願っています。それがあなたの脳によって実行される限り、あなたの心は間違いなく存在し、成長し続けるのです。アンドロイドが決して持たない喜びと夢がありますように」と述べました。


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