中国研究班がイーロン・マスクの通信衛星「Starlink」爆撃戦略を公開

GIZMODO

穏やかじゃないけど、領空は領空。

SpaceX社のStarlinkが国家の安全を脅かした場合、中国はこれを無効化あるいは破壊できなければならない。1基1基の追跡・監視・無効化のケーパビリティを備える必要がある」という趣旨の論文が、査読付き学会誌Modern Defense Technologyに掲載され、英字媒体のSCMCによって海外に広まり、大きな反響を呼んでいます。

論文はすぐ削除されましたが、英訳がこちらで読めますよ。

イオンエンジンで中国の宇宙船が吹っ飛ばされる

論文は北京誘電大学のRen Yuanzhen研究員らがまとめたものです。低軌道を飛ぶ衛星編成隊が国家の安全に及ぼす「目に見えないリスクと課題」をつまびらかにし、「ソフトキルとハードキルの両アプローチによって、Starlink衛星に機能停止をもたらし、コンスタレーションのOSを破壊できる体制を整えなければならない」と主張。また、Starlinkが「攻撃」目的に使われて、衛星搭載のイオンエンジンで中国の宇宙船や衛星を軌道外にノックアウトされる恐れもあると警鐘を鳴らしています。

イーロン・マスク率いるSpaceXが開発しているのは、地球低軌道を周回しながら世界中どこでも高速インターネットを提供するStarlinkコンステレーション(衛星編隊)。同社のFalcon 9ロケットで計4万2,000基の打ち上げを目指しており、すでに2,547基が打ち上げ済み。無傷で軌道上を回っているのは、2,200基あまりとされます。

一般にはインターネット用と見られていますが、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの宇宙物理学者、Jonathan McDowellさんに取材したら、「軍部に属し任務が宇宙戦争の人から見ると、Starlinkはまったく別の厄介な問題なのだ」と言ってました。

撃っても撃っても減らない

一番の問題は、Starlinkが多すぎること。数基撃ち落としたぐらいじゃ全システム停止は望めないし、SpaceXの手にかかれば、撃墜分を回復するのも時間の問題でしょう。衛星コンステレーションをまるまる破壊しようと思ったら、攻撃ミサイルが何個あっても足りません。極端な話、衛星を補充するほうが「対衛星攻撃ミサイルよりコストがかからない」(McDowellさん)のが現実です。

ニアミスで高まる警戒感

中国がStarlinkコンステレーションを憂慮するようになったのは、2021年に天和(Tianhe)宇宙ステーションにStarlinkがぶつかりそうになる事故が2度起こったことがきっかけでした。2回とも中国側が道を譲って事なきを得ましたが、Starlinkは無人なので、数が増えるとこういうニアミスも増えそうですよね…。地球低軌道はそのうちSpaceXに占拠され、米軍による支配を同社が支援するかもしれないと論文でも述べられています。

ウクライナでは軍事利用?

Starlinkといえば、ロシア軍に通信網が破壊されてネットがつながらなくなったウクライナに向けて3月から急きょネットサービスを提供中ですけど、中国軍部はそれさえも快く思っていない様子。5月に中国中央軍事委員会系のWebサイトに公開された論説では、Starlinkのカバーエリア拡大を憂慮し、「専門家の推論によれば、Starlinkは通信支援に加え、ビッグデータと顔認識技術を使ってUAV(無人機)と交信することも可能。ウクライナの対ロシア軍事作戦ですでに何らかの役割を果たしていることも考えられる」(China Military Online)と述べて警戒を強めています。

敵国の通信網破壊工作は戦時の常套手段ですが、メガコンステレーションの時代になって途方もないスケールになってしまった感がありますね。しかもStarlinkは使いようによっては、軍事上のアドバンテージにもなります。「脅威というより、アセット(資産)として見られているように感じる」とMcDowellさんも話していました。

イーロン・マスクはどう捉えている?

ウクライナ支援後、Starlinkが攻撃対象になるかもしれないという思いは、イーロン・マスクのなかにもあるようです。3月にはBusiness Insiderにこう語って余裕のあるところをアピールしていますよ。

「Starlinkは撃墜しようにも容易じゃない。なにしろ2,000基だ。おびただしい数の対衛星ミサイルが要る」

「実証に至る有事は起こらないことを祈るばかりだが、個人的には対衛星ミサイル発射より速く衛星を打ち上げられると思う」

本当の脅威

さしあたって一番の脅威は、低軌道が戦場になること、地球周辺が衛星だらけになることのほうかと思います。

低軌道に小型衛星のコンステレーションを作る動きは米軍も独自に進めていて、そちらの名前は「Blackjackプロジェクト」。打ち上げる軍事支援用衛星は300~500基を予定しています。中国もインターネット通信用衛星のメガコンステレーションを計画中。こちらは1万2,000基です。