ライターのほしあさひさんと、お互いの地元をツアーし合う企画をやった。私はほしさんに池袋を案内し、ほしさんは私に市川と本八幡を案内してくれた。
今日は、私が案内してもらった市川・本八幡ツアーのもようをお届けする。
前の記事:ヴィーナスフォートにあった現代アート
> 個人サイト Note
新企画・地元もてなしツアーとは
地元の気に入っている場所、とっておきの場所を案内しあう記事企画です。第2回の組み合わせはこちら。
青春をたどって
ほしさんが案内してくれるのは市川駅・本八幡駅周辺。名前は聞いたことがあるが、一度も降りたことはない。
電車を降りて改札で待っていると、ほしさんが手を振りながらやってきた。
元気である。
ほしさんは、
「市川駅のこのあたり、もっと汚かったんですよ!」
と、快活に言う。ネガティブな言葉も快活に言うとなんだか気持ちいい。
そして、そのまま矢継ぎ早に、
と言った。
中高生がデートや遊びで行くようなところ、それはたぶん大きなガイドブックには載っていないし、かといってデートや遊びで使われるぐらいだから魅力がないわけではない。その絶妙なラインに位置する場所を案内してくれるのだ。
しかもほしさんは、
「私も中高生のころ辿ったルートです!」
と、付け加えた。
つまり、今日私たちが歩くのは、ほしさんの青春の1ページでもあるのだ。これは、がぜん、楽しみになってきた。
市川随一のビュースポット
最初のスポットは駅からすぐに行ける場所だという。
ほしさんが大きな声で言う。
「ここ、夜になるとゴキブリがめちゃくちゃ出るんですよね!わたし、前、ここでゴキブリ踏みました!」
おい、今日のコースはデートスポットじゃなかったのかよ、と言いたくなる気持ちを抑える。夜になると広場にカップルがいっぱいいるとか、そんな内容かと思ったら不意打ちだ。
そのまま、そのゴキブリ広場を横切ると、前方にやけに高い建物が見えてくる。
このビルが最初のスポットだという。ゴキブリ広場じゃなくてほんとうに良かった。
ここはI-linkタウンいちかわという複合商業施設で、このビルはその中核施設となるツインタワーの一つなのだという。
「ここの展望台がいいんですよ、地元の中高生がデートでよく行くんです」
とほしさん。たしかに、上まで行ったら景色は良さそうだ。
展望台フロアを降りて少し歩くと、視界にたくさんのビルや山や川が見えてきた。思った以上の景色だ。
展望台は360度回ることができて、向きによっては、富士山だったり東京スカイツリーだったり、東京湾だったりが一望できる。東京近郊で、こんな気軽に本格的な景色が楽しめる場所はないんじゃないだろうか。
私がすっかり展望台からの景色に見惚れていると、ほしさんが、展望フロアの中央あたりにあるベンチを指して言う。
市川の青春は甘酸っぱかった。
ヤマザキに助けられた青春
展望台から降り、市川駅の反対側に行く。
次に向かったのはヤマザキパンのショップである。デートで行くというわけではないらしいが、ほしさんが中高生のときにお世話になった場所だという。
店内に入る。中は広く、出来立てのパンが売っていたり、お歳暮商品がずらりと並べられていたりする。
中でも面白いのがランチパックの特設コーナーだ。
中には、全く見たことのない味や、大盛りサイズなどもあって、ランチパックの多様性に驚く。
ほしさんが学生時代助けられたのは、このスペースだそうだ。200円しないぐらいのパンを買えばこのスペースが使える。お金のない学生にとっては、この上ない場所だろう。私が市川の学生だったらたぶんヘビーユーザーになってるな。
地元のゲーセンはなんかいい
ヤマザキの本社を出て、その横の商店街に入る。この商店街の中に別の観光スポットがあるという。それがこれ。
地元の中高生御用達のゲームセンターである。ほしさんも高校生の頃、よくプリクラを撮りに来ていたという。こういう、地元のゲームセンターってなんかいい。適度な堕落感と、どこか安心する感じ。
装飾が凝っているのも良い。
ゲームセンターはどうしてこういう華美な装飾が好きなのだろうか。店内も華やかな装飾に事欠かない。
わたし 「ほしさん、見て見て!天井に花が咲き誇ってる。花園ですね!」
ほしさん「ほんとだ!全然気がつかなかった、アハハハ」
ゲームをしていないのにゲームセンターを誰よりも楽しむ一行。
本八幡に行く
さて、ここまでが市川の観光案内である。この後は、地元の中高生がよく行くショッピングモールに案内されるらしい。そのモールは市川の隣駅・元八幡が最寄駅だという。
「本八幡」。東京で地下鉄に乗っているとよく目にする名前だが、実際に行ったことはない。
「本八幡は市川よりもごちゃついた感じです」
ほしさんのざっくりした説明を聴きながら電車を降りる。
ショッピングモールは駅から15分ほど歩くという。結構歩くな、と思ったが、それもそのはずで、ほんとうは車で行く場所なのである。
駅から出て、高架下に沿ってずっと歩いていく。
中高生のころ、ほしさんはこのショッピングモールに自転車で通っていたという。中高生といえば自転車である。私たちは当時、自転車さえあればなんでもできる気がしていた。それが中高生というものであることを思い出す。
この世の全てが、コルトンにはある
通りをずっと行くと倉庫のような大きな建物が見えてきた。あれがショッピングモールだという。
すごい、めちゃくちゃでかい。私は大きいものが好きである。デカいは正義である。興奮する。さらに進むと、だんだんとその全貌が明らかになり始める。
このショッピングモールは「ニッケ コルトンプラザ」。ニッケとは日本毛織物株式会社のことで、その工場跡地にできたのがこのショッピングモールだという。
コルトンプラザの中には飲食店から本屋、アパレルに映画館、果ては病院まで、生活に必要なありとあらゆるものが揃っている。
「しかも、ゴルフの打ちっぱなしとかバッティングセンター、それから科学館も近くにあるんです」
と、ほしさんが紹介してくれる。
「それと、クリスマスにはイルミネーションをけっこうがんばってて。中高生がデートでよく行きますね」
この世の全てがあると言っても過言ではない。
ショッピングモールのイデア
中に入る。とにかく広い。
日本には多くのショッピングモールがあるが、その中でもかなりショッピングモールらしいショッピングモールだといえよう。つまり、ゾンビ映画に出てくる外国のショッピングモールらしさがある。ここは、ショッピングモールのイデアだ。もし、ゾンビに追われたら迷わずコルトンプラザに籠城したい。
すっかり興奮していると、ほしさんが傍らにあったベンチを指差して
「ここでカップルがイチャイチャします」
と教えてくれた。
すっかり観光テーマである「中高生のデートコース」ということを忘れてしまっていた。
青春はバッティングセンターにある
次に向かうのは、バッティングセンター。コルトンのすぐ近くにある。中高生のデートコースとしてのバッティングセンター。なんだか情緒があっていい。ドラマの主人公たちが、夢を語り合いながらボールを打ち続ける情景は、「ザ・青春」として私たちの脳裏に焼き付いている。
そんな青春の一コマにやってきた。
ほしさんはたまにバッティングセンターに行くようで、非常にうまい。かなり当てている。嫌なものに当てるようにスウィングすると、とても気持ちいいそうだ。
ほしさんに引き続き私もトライしてみる。私は野球をしたことがない。人生初打席。それを本八幡で迎えるのである。
難しくないか、バッティングセンターよ。なかなかいい感じに当たらない。途中一度だけカキン!といい音で当たったが、それがなかなか続かない。これが青春のほろ苦さか。
結局あまり当たらず恥ずかしい気分でバッターボックスを降りることになった。なんだったんだ、俺の青春。
打率はひどかったが、確かにこれは良いデートコースになりそうだ。コルトンでショッピングをして、バッティングセンターで楽しむ。
市川と本八幡のデートコースがかなりわかってきた。もし私が今、市川か本八幡の中高生だったらモテモテに違いない。しかし問題は、私は中高生でもなければ、市川や本八幡に住んでいるわけではないことだ。悲しい。
科学館ではしゃぐ
さて、予定されていた観光ルートはここまでで終わったのだが、まだ時間に余裕があった。そこで、最後に科学館に行くことにした。
中は広く、科学技術の発展がジオラマで展示されていたり、遊びながら科学実験を楽しめる施設になっている。
ここは当初の予定には入っていなかったが、ほしさんも行ったことがなかったし、私もこういう場所は嫌いではないので行ってみようということで来たのだった。
2人ともかなり疲れており(本気でバッティングをしているので)、サラッと見ようか、と話していたのだが、科学実験のコーナーでめちゃくちゃ楽しんでしまった。
子ども連れが多かったのだが、どの子供よりも我々がはしゃいでいた気がする。子どもの後ろに並んで科学実験を心待ちにする大人とはいったい……という感じであるが、とにかくこれが楽しくて仕方がないのだ。
デートコースにはならないそうだが、市川や本八幡の中高生よ、ここもデートコースに入れたらどうだろうか。楽しめると思う。
最後にめちゃくちゃ楽しんでツアーは終了した。
思い出を追体験した
最初から最後まではしゃいでしまった。
市川も本八幡も何も言われずに行ったら、「ああ、ふつうの街だな」としか思わないだろう。それがほしさんの案内でめちゃくちゃ面白く、そしてハイテンションに見ることができた。逆に、ほしさんも私の素朴な疑問に驚いたりして、地元の新しい姿を再発見した様子だった。
それと、中高生のデートは工夫に満ちていることに気付いた。お金がないぶん、なるべくお金を使わずにどれぐらい楽しめるのか、どうやって楽しむのか、どうやっていい雰囲気になるのか。そんなことを様々な中高生が考え抜いた結果が今日のルートなのだと思うと、感慨ひとしおである。
そしてなにより、それをわざわざ思い出して案内してくれたほしさん、ありがとうという気持ちでいっぱいだ。