書き出し小説大賞第236回秀作発表

空に切手を貼り君に届けたい初夏。

ぐるりん

溺れる夢。塩素が匂う。

みよおぶ

トランペットの音が外れたのを感じながら、ペットボトルの炭酸に口を付けた。

星雫々

あのひとの名前で、VTuberになった。

鮫井

彼女は畑も墓地も横切り最短距離で通勤する女の子。

井沢

皿の上の餃子が羽化して、餃になった。

モンゴノグノム

わたしは死んでものまねが残った。

野焼き

雨の日のウィンクは届きにくい。

正夢の3人目

三度目の掃除機

Ｓ.虚無

虹がこちら側に倒れ、家々を七色に濡らした。

紀野珍

たんぽぽの綿毛は今夜、一列になって月への路を辿る。

タカタカコッタ

これはあなたの猫ですか？いいえ、これは私が炙った烏賊です。

葱山紫蘇子

砂漠に打ち上げれたくじらが朽ちる途中で、このオアシスは出来たという噂についてなんだが…

キキ

観覧車から降りそびれたハエが昇っていく。

午前0時

ただ、直線を描くんだ。

山本晴比古

虎屋の紙袋を提げた猫が銀座四丁目の交差点に立っている。

xissa

私のどストライクなのに、貴方はいとも簡単にホームランを打ちやがる。

村上 耽美

グローブからこぼれ落ちていく打球を見て、僕らの夏がおわった。

八王寺義昭

ここで私がストライクと言えば、彼らの夏は終わる。

殺戮ラジオ

社会に出てからもずっと、自分がトンネルした球を拾いに外野の奥まで走っている。

寺庄拓也

急な豪雨にみまわれなかったら、相手中学の校舎で弁当を食うなんて体験は出来なかっただろう。

高田

おれだけ野球の話をしていた。

suzukishika

河川敷を見ると涙が出る。

ウチボリ

スポーツドリンクの前では、嘘をついてはいけないような気がする。

七寒六温

曇天がキャッチャーフライを吸い込んだ。

みよおぶ

背中に夕陽。魔球の時間だ。

はらけん

投げる。打つ。走る。捕る。戻る。挟む。一瞬の静寂。審判の声。

はらけん

隣の女子高生みたいに祈りたくなってくる。

人馬一体勘

最高の見せ場で放送が終わる。

モリダイ

ストライクゾーン狭けりゃ額まで狭い

ビールおかわり

「ボーク」と言われたので「ボーク」と言い返した。

いそうろう

部長がカツラを脱ぎ捨てて、野球拳は佳境に入った。

えむけい

スイカ割りに金属バットを持った男が現れた。

あの

試合開始のサイレンは鳴り止まなかった。

自由人

大将の握りから閃いたのが魔球「スシボール」だ。

g-udon

振った振ってないで最高裁。

g-udon

浜辺を彷徨いていた男は、身元不明のまま今日もバッターボックスに立つ。

寂寥

高校球児たちがビュッフェを蹂躙していく。

住民パワー

仏間のりんの音と、ホームランは同時だった。

タカタカコッタ

ネタが面白かったので、ホームベースを二枚もらった。

タクタクさん

ボールボーイの恋はグローブ越しに育っていった。

もんぜん