呉市議の谷本誠一氏がマスク非着用を理由に飛行機から降ろされた件で、航空会社と警察を相手取って2022年4月28日に民事訴訟を提起した。
YouTubeで谷本誠一議員が裁判に関しての話をされているので、それを聞いて、結構この裁判には期待できるのではないかと私は思った。
まず、最初は弁護士に依頼する予定だったのを本人訴訟に切り替えた理由について。はっきり言わないまでも依頼予定だった弁護士の胡散臭さに気付いたのではないだろうか。
上記インタビューの中で谷本議員は「判決を出すことが大事。裁判所に却下されて判決を出さないことになると、勝ちでも負けでもないのに、マスコミで負けた扱いをされて良くない。」との発言をされている。依頼予定だった木原功仁哉弁護士はこれまでの裁判を見ても、「勝訴判決を出させるために審理を進める」という姿勢が見えないのだ。
当初弁護士に依頼して提出する予定だった訴状と、実際に本人訴訟として提出した訴状では中身が多少変わっている。私は以前HPに掲載されていた「提出されなかった訴状」もダウンロードしていて手元にあり、どこが変わったのかを見ることができる。但し現在削除された旧訴状については、削除されている以上細かく触れることは控えるつもりだ。現在以下のサイトで実際に提出された訴状がダウンロードできるようになっている。
■
ではAIRDO訴訟において、何が裁判の争点になるのかを考えてみたい。
まず前提として、航空会社はマスク非着用だけを理由に搭乗拒否をすることができるのか、について考察する。
私は裁判で判決が出ない限りわからない、というのが現時点での答えだと考えている。理由としては、弁護士によって見解が割れているというが挙げられる。
「搭乗拒否できる」という意見として、以下の記事を参照頂きたい。
それに対し、「拒むのは難しい」という見解はこちら。
ここで書かれている公共交通機関の受託義務に関して、私は楊井人文氏とtwitterで直接やりとりをしたが、「釧路東京の航空便では適用されない」という見解だそうだ。
航空会社の立場からすると、仮に法的にもマスク非着用を理由に搭乗拒否ができると思うのであれば、今回の件でも堂々とマスク非着用を理由に搭乗を拒否し、納得しないなら裁判で争いましょうと最初から言えばいいのだ。
しかし、今までのところ航空会社がマスク非着用だけを理由に搭乗拒否をしたり降機命令を出した事例は聞かない。必ず何か他の理由をつけている。これは航空会社側も裁判になると勝てる自信がないことの裏返しだと私は考える。
現在各航空会社の運用マニュアルでは、健康上の理由でマスク非着用者を搭乗させる手順は用意されているが、今回の事件のように、健康上以外の理由でマスク非着用での搭乗を要求する客のことは全く想定されていないと思われる。
これは現場の社員が迷惑することにつながる。私も航空会社社員の職務を妨害しないよう注意しながら、空港で「マスク非着用を理由に搭乗拒否できる理由は何か」と質問したことがある。30分程度話をしたが、その場での結論として「説明できる理由はない」ということになり、社員の人から「説明できる理由を用意するよう上に伝えます。」と言われた。法律に関わることは現場の社員が個人で判断することは困難なので、航空会社側が専門部署においてきちんと法的にどう説明できるのかの対応マニュアルを用意して、現場に伝えておくべきである。
■
では訴状を見て何が裁判の争点になるかを解説する。
今回の事件でも、あくまで航空会社側はマスク非着用を理由に降機させたとは「機内で」言っていない。理由は「乗務員の職務を妨害し、航空機の安全の保持等に支障を及ぼすおそれのある行為をすること」(訴状2ページ)で、マスク非着用には触れていない。だから、裁判で争点になるのは「原告側が乗務員の職務を妨害したか否か」である。
この限りで原告に非があると主張するのは無理ではいか。原告は空港カウンターでマスク非着用で搭乗することを許可され、指定された最後尾の席に座っていただけだ。それなのに客室乗務員が「マスクを着用しろ」と言い出したのだから、仮に職務を妨害されたとしても、原因を作ったのは原告ではなく被告側である。
そして被告に警察官も入れているが、これは機内に入ってきた警察官が「マスクを着用しないなら降りろ」と言ったことが理由である。
なお、CAが「マスクを着けないと降りてもらうことになりますよ」とか、警察官が「マスクは常識だろう。テレビでも言っているではないか」「降りないと執行しますよ」とかいった言動は、原告らにとっては、「従わないと飛行機に乗せてもらえない」という恐怖の何物でもなく、刑法第222条の脅迫や同第223条の強要とも受け取れるに十分な発言である。
(訴状4頁から引用)
警察官が一般人の乗客に対し「降りろ」と言うのは、普通に考えたら脅迫や強要だと思うのが「一般人」の私の感覚なのだが、裁判官はどう考えるのだろうか。
ちなみにこの後谷本議員および同行していた高橋清隆氏は警察署で任意の事情聴取を受けているが、警察はこの時の調書を破棄して、事件がなかったことにしているそうだ。つまり、刑事事件としては何の問題もなかったと警察側は判断したのだ。
当日どういうやり取りがあったかは、高橋氏のブログに書かれている。
谷本議員らがノーマスクで強制降機! 釧路空港のエアドゥ機、「憲法違反を公然と行う航空各社への行政指導を国交省に求める」
実は当日、AIRDO側は「マスク非着用を理由に降機命令を出した」という文書は何も残していない。あくまで「客室乗務員の指示に従わなかった」ということを理由にしていたのだ。そうであれば、谷本議員側が「機内で騒いだ」ということを立証するだけでよく、「マスク非着用を搭乗拒否理由」とすることの是非について裁判所は判断をする必要がない。
ところが後日高橋氏がAIRDOに出した質問書の回答で「マスク着用の要請・指示を拒否されたこと」と書いてしまったのだ。
弊社国内旅客運送約款第14条第1項第3号(ニ)、(ホ)及び(チ)に基づき搭乗をお断りしたものであり、これに該当する具体的な事由は、弊社乗務員によるマスク着用の要請・指示を拒否されたこと及び弊社乗務員に対する罵声等です。
(訴状3頁から引用)
谷本議員はYouTubeの中で、AIRDO側はあくまで原告側が勝手に降機したと主張して、マスクについては触れないだろうと予想しているが、回答でこう書いた以上は、裁判官の判断によっては、マスク非着用の是非についても判決文に書かれる可能性が出てくる。
谷本議員は上記インタビューで、裁判所は判断を遅らせるだろうと予想していた。これはどういう裁判官に当たるかの運次第としか言えない。例えばグローバルダイニングが東京都を相手に訴えた、緊急事態宣言の営業時間短縮命令が適法なのかという裁判では、裁判官が「コロナ騒動が続いている間に判決を出すことに意味がある」という立場を取ったため、行政訴訟としては異例の早さで審理が終わり判決が出されることになった。
この裁判でもいい裁判官に当たって早く「いい」判決が出されることを私は期待している。