「8Kと4Kの違いってわかるものなの?」専門家に聞いてみた

GIZMODO

4Kの次に行くべきなのかどうなのか。

TVってハードウェアだけでも、この四半世紀で大きく変わりましたよね。巨大で重いブラウン管TVがほとんど絶滅して、画面はフラットになり、解像度もどんどん上がってきました。ちょっと前まで「4Kはまだ要らない」みたいな話があったのに、今じゃその2倍の8KのTVが普通に売られてます。

でも、4Kでもすごいキレイだな〜って思ってるのに、8KTVは4Kの2倍キレイってことなんでしょうか? それとも画質っていうのは、どこかで頭打ちになるんでしょうか? 専門家に聞いてみました(以下、太字は訳者)。


すごく大きいテレビに近づくなら見分けられる

カリフォルニア大学バークレー校心理学教授で視覚的認知・意識・記憶を研究するStephen Palmer氏はこう言います。

その疑問への答えは当然ながら、(1)TVの大きさ、(2)TVから見る位置までの距離、によって違います。

8Kのメリットは、すごく大きなTVを間近で見ればはっきりわかりますが、小さなTVを遠くから見てもほとんどわからないはずです。同様のことは、4KTVと2KTV(1920 x 1080、別名「1080p」)の違いに関しても言えます。4Kもまた、大きなTVを近くで見るときにメリットが出ます。

普通のリビング環境では見分けられないはず

マサチューセッツ工科大学(MIT)の視覚・コンピュテーショナル神経科学の教授・Pawan Sinha氏は、人間の視力も含めて説明してくれてます。

技術的な細かい部分を説明しときましょう。正常視力(よく視力1.0と呼ばれるもの)は、ふたつの点を「60分の1の角度」で見分けられることを指します。どういう意味でしょうか? 人の親指の幅は、腕を伸ばして見るとだいたい「2度」に相当し、1度は60分に分けられます。つまり、親指の幅の分だけ120個の点々を描いて、それを腕の長さの距離から見ると、ひとつひとつの点がかろうじて見えるといったところです。それ以上遠くになると、または点の数を増やすと、それが点なのかつながった線なのかが見分けられなくなるでしょう。

この計算をTVに置き換えると、幅60インチ(約1.5m)の画面を5フィート(約1.5m)の距離から見るなら、解像度の限界は4Kだとなります。この距離ならHDと4Kの差が見分けられますが、4Kを超えると(たとえば8Kにすると)、違いがわからなくなるはずです。4Kと8Kを見分けるには、TVぎりぎりに近づく必要があります(非常に不自然です)。なのですごく巨大なスクリーンを買おうとしてるのでない限り、またはTVを間近で見るつもりでない限り、4Kで十分なんです。(4Kから)8Kへのステップアップは、普通のリビングルームでは違いがわからないはずです。

8Kの恩恵はあるけど条件による

カリフォルニア大学バークレー校 Optometry & Vision Scienceの准教授、Emily Cooper氏も、単に解像度だけじゃない、いろんな条件が影響すると言ってます。

我々は誰でも、視力の限界に挑むような経験があるはずです。食品ラベルの小さな文字を読もうとしたり、人混みの中で友人を探して目をすがめたりしたことがあるんじゃないでしょうか。人間の視覚システムは素晴らしいのですが、世界の一側面を実質見えなくするような数々の制限もあります。ディスプレイの設計においてこうした制限を理解することは、どんなディスプレイがよく見えるかを理解するうえで不可欠です。

8KTVと前世代のディスプレイの違いは、突き詰めれば画素数の増加です。現代のTVディスプレイでは、個々の小さな画素がグリッド状に隣り合って配置されています。グリッドの各画素が少しずつ色を発し、それらが一体となって像を作るのです。みなさんがTV番組を見ているときは、個々の画素に気を取られずに映像の細かいディテールまで見たいですよね。つまり、映像はビビッドに、でも画素は見えずに、と望んでいるのです。

8KTVがこの要望によりよく応えるかというと、いろいろな条件によって違います。たとえばディスプレイのコントラスト、各画素の大きさ、見るときの距離、見る映像の種類や、映像の変化の速さにもよります。たとえば、画素を見分けられないくらいくらいTVから離れて見ているなら、ディスプレイが4Kでも8Kでも100Kでも画素は見えません。

距離を測って三角法を思い出せば、自分の視聴環境における視角あたりの画素数を簡単に計算できます。今の環境が視角1度あたり60画素以上あるなら、8Kにしてもそれ以上改善しない可能性が高いです。一方、より多くの画素が詰まったディスプレイは、パネルがより大きい場合、または間近で見る場合には、より多くのディテールが見えるようになります。これはもちろん、もともとの映像自体が8K以上の解像度であるという前提の上になります。

画素数を増やせば恩恵もありますが、どう見るか、何を見るか、どこで見るかといった条件によって、目に見える恩恵が決まるのです。

8Kの恩恵を受けられる人はレア

カリフォルニア大学バークレー校 Optometry, Vision Science, Neuroscience, & Psychology教授のMartin S. Banks氏は、画素数と視角の関係から8Kの意義を解説してくれました。

TVディスプレイや携帯電話などなどの解像度には推奨値がありますが、これら推奨値はたいていひとつのことに集約されます。それは、画素は視角の「角度の1分」より小さくすべきという考え方です。「角度の1分」とは技術用語で、「分」といっても時間のことじゃなく、空間における1分です。角度の1分は、光でできた小さな円錐形で、それがTVから目の1点に向ってくると考えてみてください。1分とはその円錐形が、目からピクセルに向かって作る角度のことです。HDTVの横幅には2,000画素あり、UHD TVには4,000画素、そして8KTVには8,000画素があります。私の分野の多くの研究者は、画素が「角度の1分」より小さくあるべきだという推奨には問題があると考えています。

視聴距離も考慮する必要があります。計算を省くと、2K(HD)のTVがあり、その高さが3フィート(約90cm)なら、その解像度を楽しむには9.3フィート(約2.8m)以内の距離で見る必要があります。20フィート(約6m)離れると、2KTVとそれより解像度の低いTVの違いがわからなくなります。高さ3フィートの4KTVだったら、違いを見分けるには4.5フィート(約1.3m)以内で見る必要がありますが、そんな近くでTVを見る人はまずいません。8Kまでいくと、高さ3フィートのTVの場合、2フィート(約60cm)の距離まで近づかない限り解像度の違いはわかりません。つまり8Kの恩恵を受けられる人とは、かなりレアな人ということになります。

全体的に、専門家はそんなに8K推しじゃないというか、もうよくない?的なトーンです。

4Kと8Kがあったら8Kのほうがすごいんだろうけど、現状のTVの見方(そこそこのサイズのTVをリビングに置いて見る)だと、4Kの先の解像度の差はあんまり意味がない、ってことなんですね。