バロンズ:米経済は堅調も、金融引き締めを警戒し米株は急落

アゴラ 言論プラットフォーム

バロンズ誌、今週はイーロン・マスク氏によるツイッター買収を取り上げる。マスク氏は世界で最も成功した電気自動車(EV)メーカーの最高経営責任者(CEO)なだけでなく、民間宇宙船による初の有人宇宙飛行を実現したスペースXを率いる。そのマスク氏が、440億ドルでの買収で成功を収めるという異なる種類の難しい挑戦に直面している。ツイッターと言えば、1日の利用者数は2億2,900万人超えとはいえ、上場から9年以上経つが黒字化を達成しておらず、1~3月期の営業赤字は1億1,800万ドルという状況だ。

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マスク氏の買収が成功し、ツイッターを非公開化すれば財務リスクが浮上する。ツイッターは、レバレッジド・バイアウトの資金調達により125億ドルの負債を負うことになるためだ(筆者注:マスク氏は、テスラ株を担保にとした融資で125億ドル調達)。何より、マスク氏は広告に重点を置いてきたビジネスモデルから転換する可能性を示唆する半面、詳細は明らかにしていない。ビジネス・モデルを転換する局面ではキャッシュフローに問題が生じ、債務を支払えなくなるリスクも懸念される。

こうした状況を踏まえ、マスク氏傘下のツイッターは、費用が1~3月期に前年同期比35%増だった一方で売上高が同19%増だった状況を踏まえ、コスト削減に走りうる。特に従業員はコンテンツ・チェック業務を中心に過去3年間で2倍の7,500人超に増加しており、言論の自由の観点から削減対象となり得よう。その他、財務や株価の観点も含めた分析と展望は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はFedの引き締め策と金融市場への影響に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

今月は株価に大きな打撃を与えたが、実体経済には影響を与えず―A Tough Month Hits Stocks Hard but Spares the Real Economy.

T.S. エリオットがかつて語ったように、4月は残酷な月で株式市場に大打撃を与えた。S&P500は8.8%安と、月足で2020年3月以来の落ち込みを記録し、ナスダックも13.3%安と2008年10月以来の急落を迎えた。

5月は、中国の連休や5月3~4日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を迎え、4月と同様に興味深い展開が予想される。今回のFOMCは何を決定するかよりも、パウエルFRB議長の記者会見で明らかになる通り、金融政策が今後どのような道筋を描くかを非常に重要だ。

3月FOMC明けの6週間にわたり、Fed高官は大きくタカ派へシフトし、2023年末までに物価は2.7%へ戻し、失業率は上昇しないと見込まれた3月分の経済金利見通しと一線を画す。

チャート:3月FOMCの経済金利見通し

(作成:My Big Apple NY)

足元、FF先物市場によれば5月FOMCでの50bp利上げは99%織り込まれている。ただ我々が知りたいことは、50bpだけでなく75bpの利上げが視野に入っているのか、また保有資産の縮小をどのように進めるかだ。

FF先物市場は、2022年末に2.75~3.0%(筆者注:75bp利上げ1回)を57.6%織り込み、3月時点のFF金利見通し・中央値の1.9%、並びに2023年末時点の2.8%を上回る。

チャート:5月1日時点でのFF先物市場は2022年末までに2.75~3.0%が51%、1週間前は3.0~3.25%(75bpの利上げ2回)が優勢だったが逆転

(作成:My Big Apple NY)

(作成:My Big Apple NY)

こうしたFF金利見通しの大幅な上方修正は米10年債利回りを押し上げ、4月に56bp、年初来で139bpも上昇し2.93%をつけた。安全資産である米債利回りの変化は、株式のようなリスク資産に急激な調整を引き起こしている。

5月FOMCまでに米4月雇用統計を予定しないものの、米1~3月期実質GDP成長率を含め、既に様々な重要指標が発表された。ただし、Fedは今回の結果が純輸出や政府支出、在庫投資に押し下げられていただけに、最終需要の力強さに注目するだろう。

チャート:最終需要はQ1に前期を上回り、前期比年率2.6%増

(作成:My Big Apple NY)

何より注目すべき点として、米1~3月期雇用コスト指数が前期比1.4%上昇、前年同期比では4.5%上昇し統計を開始した2000年以降で最大の伸びを記録したことが挙げられよう。パウエル氏は21年12月FOMCにて、同年7~9月期の雇用コスト指数の上昇がテーパリング加速をめぐる決定につながったと説明していたものだ。

パウエル氏は、5月FOMCの記者会見で保有資産の縮小について言及する見通しだ。J.P.モルガン・チェースのクオンティテーティブ・デリバティブス・ストラテジー・チームは、年間で1.1兆ドルの縮小を見込み、今後4年間の圧縮による引き締め効果は210bpの利上げに相当すると試算する。

リサーチ・アフィリエイツのクリス・バーグマンCEOによれば、Fedは利上げを含めた金融政策の正常化に遅れた以上、インフレを抑制する上で急速に動かねばならない。仮にFedがハードランディングを回避すべくインフレを長期化させれば、バーグマン氏いわく「パウエル氏は1970年代にインフレを2桁台へ急伸させたアーサー・バーンズ氏のようになってしまう」

金融市場はFedの積極的な引き締め政策をにらみ大きく崩れているが、逆に米経済は活況で失業率は3.6%と過去最低水準にあり、求人数は求職者数を上回る。少なくとも、現状では乖離するが、果たして今後はどうなるのだろうか。

――FF先物市場での年末利上げ織り込み度は、75bp利上げをめぐり思惑が錯綜しています。現時点で、50bp利上げを主張したFOMC参加者はセントルイス地区連銀のブラード総裁のみで、タカ派と目され今年の投票メンバーであるクリーブランド地区連銀のメスタ―総裁は「現時点で不要」と明言アトランタ地区連銀のボスティック総裁も、世界景気の不確実性を意識し、利上げなどに慎重であるべきと言及しました。確かに、米3月PCE価格指数や米1~3月期雇用コスト指数は上振れしましたが、コアPCEは鈍化の兆しがみられ、米雇用統計4月ベージュブックによれば賃金上昇率も上昇ペースに翳りがみられています。個人消費支出も貯蓄率の低下や、ガソリンや食費など生活必需品での根強い物価上昇圧力がボディブローのように響くと想定され、且つ量的引き締めの効果を見極める必要もあって、75bpの利上げには慎重な姿勢を維持するのではないでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年5月1日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。