話題をくれる外相の「発言集」

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欧米大国の外相ではない。アルプスの小国オーストリアの外相だが、同外相が語る内容は結構メディアで報道されることが多い、というか、注目されるのだ。ただ、評価されることより、批判されることのほうが多いのは仕方がない。メディアは政治家の発言を称賛することより、批判することに長けているからだ。オーストリアのシャレンベルク外相の話だ。

オーストリアのネハンマー首相とシャレンベルク外相(左)、ロシア軍のウクライナ侵攻を批判(2022年3月1日の記者会見で、オーストリア連邦首相府公式サイトから

シャレンベルク外相は1969年、スイスのベルンで生まれ、外務省事務局長まで務めた外交官の父親に連れられてインド、スペイン、フランスで生活し、1989年から94年、ウィーンとパリで法律を学び、外務省入りした後、ブリュッセルに行き5年間余り駐在。シュッセル政権では外交問題アドバイザーや、プラスニック外相(当時)の報道官などを歴任した後、クルツ氏が外相時代にはその最側近として歩んできた。シャレンベルク氏はアマチュア外交官ではなく、文字通りプロの外交官だ。同外相は複数の外国語が堪能で、英語もアクセントなく話す。オーストリアの歴代外相の中でも言語力ではトップだろう。

ところで、シャレンベルク外相の最近の発言がまた話題となっている。同外相はウクライナの欧州連合(EU)加盟問題で、「加盟に可能な限り近いテーラーメイドな案を作成すべきだ」と述べたのだ。この発言にはウクライナの完全なEU加盟は現時点では難しい、という意味合いが含まれている。

この発言が報じられると、ウクライナのネットメディアは、「オーストリア外務省はウクライナのEU加盟を拒否した」とやり返した。ウクライナ外務省のスポークスマンは、「この発言は戦略的に近視眼的であり、EUの利益に対応していない。オーストリア外相の声明はまた、EUの加盟国が圧倒的にウクライナの加盟を支持しているという事実を無視している」と批判した。

シャレンベルク外相の声明はロシアでも注目され、ロシアのニュースアグリゲート(News.yandex.ru)では同外相の発言はその日の最も重要なニュースの1つに入ったというのだ。いずれにしても同外相の発言は本人の意図とは別に反響があった。

参考までに、同外相のオファーは、完全なEUメンバーシップではないが、例えば、エネルギー、運輸、国内市場など特定の分野ではウクライナが関与できるシステムだ。同外相の発言はEU加盟を希望している他の候補国、ボスニアヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、アルバニアなどへの配慮がある。ウクライナだけを特別扱いできないからだ。EUの他の外相は多分、同じように考えているだろうが、ウクライナ側から批判されることを恐れ、口には出さないだけだ。シャレンベルク外相の発言内容はウクライナから批判され、予想通り、ロシアからは評価されたわけだ。

同外相の発言がロシアから批判を受けたこともあった。シャレンベルク外相は同国の中立主義問題で3月5日、ロシア外務省から「オーストリアは中立主義を守るべきだ」と批判された。それに対し、同外相は、「わが国は軍事的に中立主義を維持するが、政治的には中立ではない」と述べ、モスクワの抗議に反論している、といった具合だ。

問題発言もあった。EU外相理事会に出席したシャレンベルク外相は2月20日、国営放送のニュース番組のインタビューの中で、ウクライナ情勢について、「ウクライナ2022年の危機は1938年のオーストリアのナチス・ドイツ併合時と比較できる」と語ったのだ。ヒトラーが生まれたオーストリアの政治家がナチス・ドイツ問題を不注意に言及すると、批判を受けることが多い。

同外相の発言が報じられると、「オーストリアは、まだナチス・ドイツ政権の最初の犠牲国だったと考えている」といった批判がSNSなどから飛び出した。シャレンベルク外相は早速、「発言内容は誤解されている。私はオーストリアがナチス・ドイツ政権の戦争犯罪の犠牲国とは考えていない。ヒトラーがウィーンに凱旋し、英雄広場で演説した時、オーストリア国民の多数が歓迎したことは歴史的事実だ。ただし、1937、38年、オーストリア政府はナチス・ドイツ政権の併合を阻止するために国際連盟に連帯を要請したが、メキシコ政府以外はどの国も支援しなかった。オーストリア政府は当時、国際社会で孤立していた。ウクライナの現状はある意味で酷似している面があるのだ」と弁明している。

シャレンベルク氏は昨年10月11日、突然辞任したクルツ首相の後継者として一時首相に就任した。当時、新型コロナウイルスのワクチン接種の義務化が最大の議題だった。同氏は昨年11月19日、「社会の少数派ともいうべきワクチン接種反対者が多数派の我々を人質にし、社会の安定を脅かしている。絶対に容認できない」と厳しい口調で強調し、ワクチン接種反対者に対して制裁も辞さない姿勢を滲ませ、喧嘩腰で言い張ったのだ。

そんなことがあったからではないが、当時首相だったシャレンベルク氏は首相56日間という同国の首相在任最短記録を残して昨年12月2日、首相を辞任し、古巣の外務省に戻り、今日まで外相を務めている。シャレンベルク外相の政治スタイルは事の核心を直接語る実務派的だ。ある意味で非外交的な発言が多い。だから、時には批判を受けることになる。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、欧州の外交世界は過去2年間、オンライン会合が主流を占めてきたが、コロナ禍も一応峠を越え、外交の世界でも再び対面会議が増え、外国訪問の機会も出てきた。シャレンベルク外相の発言も生き生きしてきた。さまざまな形で話題を提供してくれるシャレンベルク外相はコラムニストにとって貴重な存在だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年4月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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