“Alder Lake”こと第12世代Coreプロセッサを使ったゲーミングPCの自作は、性能面や新機能などで面白さ満点。しかし、一方でCPUには高い冷却力が必要、安定動作にはマザーボードのVRM(電源回路)が重要など、パーツを選ぶにあたっては事前に考慮しておくべきことも少なくないため、ハードルの高さを感じている方もいらっしゃるのでは。そこで今回は、CPUに12コア20スレッドの「Core i7-12700K」を使い、ASUSの良コスパ&高耐久で人気の“TUF GAMING”シリーズのパーツを中心とした作例を紹介したい。性能と価格のバランス、これからの季節に気になる温度などに注目だ。
マザーは強固なVRMでもお得なTUF GAMING Z690-PLUS D4
今回の作例で使用するCPUは「Core i7-12700K」だ。Pコア8基、Eコア4基のハイブリッドデザインで合計12コア20スレッドだ。消費電力の目安となるPTP(Processor Base Power)は125W、MTP(Maximum Turbo Power)は190W。Core i9-12900KのMTP 241Wほどではないが、それでも高いことに変わりはない。CPU単体で190Wもの消費電力を高負荷時に安定して維持する必要があるため、Alder Lake対応のマザーボードのVRM(電源回路)は大規模なものが増えているというわけだ。
VRMが強力になるほどマザーボードも高価になるが、今回の作例で使用するASUSの「TUF GAMING Z690-PLUS D4」は、TUF GAMINGシリーズらしいコストパフォーマンスのよさとタフさと兼ね備えている。チップセットはIntel 600シリーズの最上位「Z690」で、VRMは16+1フェーズと大規模で出力も80A SPSと強力だ。これで実売価格3万2,000円前後はかなりオトク。VRMの規模だけ見れば、上位モデルのROG STRIX Z690-A GAMING WIFI D4(実売価格4万1,000円前後)と同じだ。
TUF GAMING Z690-PLUS D4は、VRMには大型のヒートシンクを備え冷却対策も盤石で、M.2スロットは4基とストレージの拡張性も高い。メモリはDDR4対応なのでDDR5に比べて安価にすむし、DDR4世代の自作PCからの移行ということであれば、流用も視野に入る。
なお、今回選んだ製品はWi-Fiを備えていないが、必要なら「TUF GAMING Z690-PLUS WIFI D4」(実売価格3万5,000円前後)を選ぶとよいだろう。
ゲーミングPCなら最重要と言えるビデオカードは同じくTUF GAMINGシリーズの「TUF Gaming GeForce RTX 3070 Ti OC Edition」をチョイス。GPUにアッパーミドルのGeForce RTX 3070 Tiを搭載するファクトリーOCモデルで、実売価格11万円前後だ。ブーストクロックは1,785Hzで、専用ツールを使うことで1,815MHzまで向上も可能になっている。3連ファンで3スロット厚、カード長29.99cmの大型カードだ。推奨電源は750Wで電源コネクタは8ピン×2仕様。
CPUクーラーは、TUF GAMINGシリーズの「TUF GAMING LC 240 ARGB」。実売価格1万4,000円前後とお手頃価格の簡易水冷クーラーだ。2連ファンにラジエータは24cmクラスと、MTP 190WのCore i7-12700Kを冷やしきれるのかという不安もあったが、後半のテスト結果を見れば杞憂だったことが分かる。最初からAlder Lake用のLGA1700リテンションキットを同梱しているのもポイントだ。
マザーボードと同一シリーズにすることでデザインに統一感を持たせられるのに加え、ポンプやファン、ライティングの制御に不安がないのもよいところ。
メモリは16GB以上の容量を求めるゲームが増えていることから、DDR4-3600で16GB×2枚のG.Skill「F4-3600C18D-32GTZN」を選択した。ASUSのAura Syncに対応しているので、マザーボードや水冷クーラーとライティング制御を連動できるのもポイントだ。
SSDは低レイテンシでアプリの応答や処理速度が優秀なState Storage Technology「Plextor M10PGN PX-1TM10PGN」を選んだ。容量は1TBで実売価格は2万1,000円前後だ。PCI Express 4.0 x4対応でシーケンシャルリード7,000MB/s、ライト4,000MB/sと基本スペックも十分高く、実アプリでのレスポンスがよい。
PCケースはTUF GAMINGシリーズの「TUF Gaming GT301」を選んだ。実売価格1万1,000円前後とお手頃価格ながら、左側面は強化ガラス、前面には3基のアドレサブルRGB対応12cm角ファン、背面に1基の12cm角ファン、最大36cmクラスの簡易水冷クーラーの取り付けに対応、最大六つまでアドレサブルRGB対応デバイスを取り付け可能なAura Sync対応コントローラハブ、側面にヘッドフォンフックを装着できるなどゲーミングPCとして魅力的なギミックを満載だ。
最後に電源ユニットだが、ビデオカードが750W以上を推奨していることもあるので、余裕を持ってASUSの850W電源「ROG-STRIX-850W-GOLD」とした。
強烈な負荷も余裕で冷却! 動作も安定
ここからは実際に組み立てたPCの動作をチェックしていこう。比較的ハイエンドの構成に対して、24cmクラスの水冷クーラーにミドルタワーとしてはコンパクトなPCという組み合わせで冷却力や安定性が気になるところだ。テストに関しては、CPUのパワーリミットはマザーボード標準設定である無制限(4,095W)のまま。メモリはXMPを読み込ませて、DDR4-3600動作に設定。ビデオカードのResizable BARは有効にしている。また、今回のビデオカードはカード上にvBIOSをパフォーマンス重視のPモードと静音性重視のQモードに切り換えるスイッチがあるが、すべて「Pモード」に設定して実行。また、ブーストクロックは標準の1,785MHz設定でテストしている。OSはWindows 11 Proを使用している。
まずは、CPUに強烈な負荷をかけるベンチマーク「CINEBENCH R23」と重量級ゲームの「サイバーパンク2077」をそれぞれ30分動作させたときのCPU、GPUの動作クロックとCPU、GPUそしてマザーボードのVRMの温度を確認した。VRMの温度以外はモニタリングアプリの「HWiNFO64 Pro」を使用し、CPUのクロックはPコアが「P-core 0 T0 Effective Clock」、Eコアが「E-core 8 T0 Effective Clock」、温度が「CPU Package」、GPUのクロックは「GPU Clock」、温度は「GPU Temperature」の値を掲載している。VRMの温度はHWiNFO64 Proでは確認できなかったので、AI Suite 3の「VRM Thermistor」の値を掲載した。
CINEBENCH R23はPコアの動作クロックはほぼ4.7GHzで安定、Eコアも3.6GHzで安定した。ところどころ落ちているには処理と処理の合間だ。ちなみに、ほかのコアもほぼ同じクロックで推移している。パワーリミット無制限なので、30分間このクロックが続くわけだが、まったくブレることなく安定動作しているのが分かる。この処理はGPUを使わないので、GPUのクロックは低いままだ。
サイバーパンク2077はCPU、GPUともに大きな負荷がかかる。さすが重量級ゲームというところ。GPUクロックはほぼ1,890MHz~1,905MHzで動作。実ゲームではブーストクロックの1,785MHzを超えて動作するのが分かる。CPUはPコア、Eコアとも1GHz前後で動作。これはすべてのコアが同じような負荷だ。どの処理をPコアにするか、EコアにするのかOSに助言する「Intel Thread Director」が有効に働いているゆえの、うまい処理分散と言える。
そして負荷の高い処理を行なった結果の動作温度だが、まったく不安のないものとなった。CINEBENCH R23はCPUに最大級の負荷が続くベンチマークだが、30分動作させても温度は最大78℃。これはかなり優秀な温度だ。24cmクラスの簡易水冷クーラーでもしっかり冷えている。ケース内のエアフローがしっかり確保されているのと、マザーボードと水冷クーラーが同じASUSのTUF GAMINGシリーズということもあり、ポンプやファンの回転数制御が有用に働いているのだろう(ファン制御はUEFIのAUTO設定)。パーツを同一メーカーで揃える強みが見える部分だ。
GPUも負荷の高いサイバーパンク2077を30分プレイしても最大66.4℃と心配のいらない温度。大型3連ファン&ヒートシンクの冷却力はダテではない。VRMもマザーボードに大型のヒートシンクがあり、エアフローが確保されていることもあり、CPUに負荷がかかる処理が続いても49℃と低い温度を保っていた。
Core i7-12700KとGeForce RTX 3070 Tiを運用する上で、今回の構成でまったく問題ないと言える。
続いて、消費電力も確かめておこう。同じく「HWiNFO64 Pro」を使用し、CPUの消費電力は「CPU Package Power」、GPUの消費電力は「GPU Power」の値を掲載。システム全体の消費電力に関しては、ラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」で測定している。
CINEBENCH R23実行時のCPUはおおむね180W前後で推移。マザーボードのパワーリミットが無制限設定と言っても、実際にはMTPの190Wに近い消費電力で動作するのが分かる。サイバーパンク2077プレイ時はCPUの消費電力は65W前後と一気におとなしくなるが、GPUは273W前後で推移。TUF Gaming GeForce RTX 3070 Ti OC Editionのパワーリミット設定はデフォルトで290Wなので、順当と言える結果だ。
システム全体の消費電力は、CPUとGPUの両方に負荷がかかる3DMark時で435Wまで高くなる。今回の作例では850W電源を使っているので問題ない。
Core i7-12700Kなら24cmクラス水冷でも冷やせる好例
Alder Lakeの上位CPUは、高性能だが発熱・消費電力が大きく、その性能を引き出すには高価な上位マザーボードと28cmクラス以上の大型水冷クーラーを組み合わせる例が多い。しかし今回の作例で選んだパーツなら、3万円台前半のZ690マザーボードに24cmクラスの水冷クーラーの組み合わせでも12コア20スレッドのCore i7-12700Kを十分冷やせて、性能も引き出せることが分かった。
筆者としてもCINEBENCH R23を30分実行してCPU温度が78℃までしか上がらなかったことに正直驚いたほど。同一メーカー、同一シリーズを中心とした自作プランの強さを改めて感じた。これが、Alder Lakeで自作しようと考えている人の参考になれば幸いだ。
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