先日、SNSで10年ぶりに懐かしい声を見かけました。
田端塾長@tabbataが解雇規制のせいで日本の年収は上がらないとツイートし、いつも同様の主張をしている城繁幸氏@joshigeyukiもリツイート。しかし、日本の正規雇用の解雇規制は弱く(OECD38か国で強い方から27番目、弱い方から12番目)その上に賃金も低いというのが事実です。https://t.co/Q7OsVWSn5K pic.twitter.com/eswWtx9uRa
— 井上伸@雑誌KOKKO (@inoueshin0) April 8, 2022
10年前にピックアップしてあげたんですけど、懲りずに同じこと続けてるんですね(笑)
【要約】本丸の「正社員の解雇の難しさ」指標を除外したデータのつまみぐいで日本の雇用規制が低いように見せかけてるだけ。
ちなみに現在このランキングからは問題の「解雇の難しさ」が既に抜けて告知期間とか補償額といった「解雇にかかわる諸手続きの手厚さ」に変わっているので解雇規制とは無関係です。
「解雇の難しさ」とは無関係なデータをわざわざ持ってきて弱者を出口の無い迷路に誘導し続けてるわけで、人間性って10年たっても成長しないもんですね(苦笑)※1
とはいえ、そういう声を信じたい人はどうぞ信じちゃってください。と言うのも個人がどう生きるかはあくまで自己責任だから。社会はもう「ポスト終身雇用」に向けて動き出しています。
「そうじゃない道がいい」と言う人はそっちに行けばいいんじゃないでしょうか。その代わり、この先何が起きても自己責任ですけどね。
というわけで、キャリアをどうデザインしていくか、いや、これからどう生きていくのかについて考えるいい機会だと思うので、今起きている変化や次のステージについてまとめておきましょう。
労働者も企業も、終身雇用・年功序列にNOを突き付けはじめた
「世界でほとんど唯一、日本の賃金だけが30年間ほぼ横ばいである」という事実は大きな反響を呼びましたが、その原因が終身雇用・年功序列制度にあるというコンセンサスはちょっと前から既に社会に織り込まれつつあります。
たとえば、東大・京大生の就職人気ランキングでは、最も選択の幅の広い6月段階ではほぼ毎年外資が上位を独占する状態が続いています。
(外資の方が選考が早いので)時期が下るにつれ日系大手が増えていくんですが、初期段階では優秀層はみんな外資を向いているということです。
当然ですね。彼らは終身雇用でリスクを低く抑えるよりもリターンを追求する方がトクだからです。
数年前にNTTの研究職の3割がGAFAに流出しているというインタビューが話題となりましたが、これも同じ構図ですね。「クビにしないから!定年まで雇ってあげるから!」というのは優秀層にとって「=低賃金で我慢」ということを意味し、メリットどころかデメリットでしかないわけです。※2
もちろん、それでも終身雇用Love!な人材はいっぱいやってきます。どんな人かと言うとこんな人達です。
「自分は稼げる自信ないんで終身雇用で十分です。やりたいことは特にありません」
はい、こういう人達だけでグローバルにやっていくのはどう考えても無理があります(苦笑)
ではどうするか。年功ではなく現在の働きに応じて処遇を払うわけです。働かない人の年功賃金は引き下げる一方で、出来る人には勤続年数関係なしで相応しい額を払うしかありません。
そう、それがまさにジョブ型というわけです。
経団連もジョブ型の必要性を明言し、既に多くの大手企業がジョブ型への移行を表明しています。
【参考リンク】経団連、ジョブ型雇用「検討必要」 春季交渉方針
今回の報告では、年功型賃金について「転職等の労働移動を抑制」「若年社員の早期離職の要因の1つ」と指摘したのも特徴だ。新卒一括採用、終身雇用など日本型雇用システムの見直しを一層加速させる必要があるとした。
要するに、選択肢のある若い世代と、彼らを取り込もうとする企業は、遅ればせながら終身雇用・年功序列という古い上着を脱ぎ捨てつつあるわけです。
10年前をジョブの時代ステージ1とするなら、筆者からすると今はもうステージ4か5くらいの感覚ですね。終身雇用バンザイ識者ももう完全に絶滅した感あります。
もう議論の中心は新たな世界=ジョブの価値観の中でいかに勝ち上がるか、どうそれを消化吸収していくかという点ですね。古い仕組みもしばらくは残るんでしょうけど、泥船といっていいでしょう。
さて、冒頭の「終身雇用は悪くない」派の人たちは、ちょっと冷静にこの10年間を振り返ってみてください。なにかいいことありました?たぶんいいことなんて何もなく、相対的にどんどん落ちていく一方じゃないでしょうか。
全労連系の主張でいうと、他には「内部留保で賃上げさせろ」とか「輸出還付金は大企業優遇なので召し上げろ」とかですか。はぁ。
まあなんというか、何年続けたところでなんにもいいこと無さそうですね。
この先10年も落ち続けるか。それとも新たな時代で勝負するか。一度しかない人生、そろそろ身の振り方を考える時期なんじゃないでしょうか。
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※1「解雇の難しさ」は2008年時点で日本は加盟国中第一位で、ご存じの通りその後わが国で解雇規制緩和なんてされてないので、もしその後も指標があったならトップレベルの解雇困難さなのは変わらないと思われる。
※2 フォローしておくとGAFAの草刈り場になっているNTTは今でも国内トップレベルの新卒採用を維持できていると思われる。「ウチは人材流出なんて起きてないぞ」という会社は単に優秀層が採れてないだけだろう。
以降、
次のステージでは“脱・時間”がテーマに
10年後、日本はステージ10とステージ1の混在する社会へ
Q: 「事務系は中途採用の方がマッチしているのでは?」
→A:「事務系はいずれ中途採用がメインになる気がします」
Q: 「20代で転職5社目は多すぎますか?」
→A:「多すぎるという会社はスルーしてOKでしょう」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2022年4月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。