古舘絶賛 さんまのすごい言い訳 – PRESIDENT Online

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ビートたけしさんは「長い芸人人生で一番天才だと思った人は?」という質問に、「やっぱり、さんまだな」と答えたことがある。フリーアナウンサーの古舘伊知郎さんは「番組の収録で5時間半ほど遅刻してきたことがある。そのときのさんまちゃんの言い訳もすごかった」という――。

※本稿は、古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

フジテレビが放送の「27時間テレビ」の制作発表で、19年ぶりに総合司会を務める明石家さんま=東京・台場、2008年6月26日
フジテレビが放送の「27時間テレビ」の制作発表で、19年ぶりに総合司会を務める明石家さんま=東京・台場、2008年6月26日 – 写真=時事通信フォト

「見て見て、見てよ」と自分の業を客体化するMC

明石家さんまさんのことは、あえて「さんまちゃん」と呼ばせてもらいます。

お笑いビッグ3の中で、ビートたけしさんやタモリさんの司会は、招き猫みたいな存在で、そこにいてくれればそれでいいという感じですが、さんまちゃんは逆にずっとしゃべる芸風ですよね。

でも、だからといって、そのしゃべりで司会をしているわけでもなければ、進行をしているわけでもない。

『踊る!さんま御殿‼』の進行役は、「イーヒッヒッヒ」と笑いながら机を叩く差し棒の音。あのしぐさと棒の先にくっついた「さんま人形」が司会進行役であって、あれで一区切りついて句読点がつき、

「次。おまえはどうや」

と促しているわけです。それで「さんまちゃんと愉快な仲間たち」というトークショーを構成していく。

古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)
古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)

さんまちゃんは常に、「見て見て、見てよ」って、自分の業を客体化しています。

誰しも心の奥底にある「ウケたい」とか「目立ちたい」とか「自分中心でいたい」とかいう業を笑いに変換して、「俺はそういう人間なんや」って出すのがめちゃくちゃ上手いです。

あれをされたら、みんな「可愛い」って思っちゃうんですよ。でも、さんまちゃんじゃないとやっちゃダメ。

例えば僕がやると、「こいつ、いい歳してイタいな」って思われます。だけどさんまちゃんなら、「可愛い」ってなる。年齢は関係ないんですよ。

転がされながらも自分を出すのが上手い

TBSでやっていた坂上忍ちゃんの番組『1番だけが知っている』でビートたけしさんの単独インタビューをやった時、「長い芸人人生で一番天才だと思った人は?」

という定番の質問に、「やっぱり、さんまだな」

って答えたんですね。『オレたちひょうきん族』の時も、どんなにムチャぶりしても全部返してくれた、ありがたいことこのうえない。さんまのおかげでタケちゃんマンもやれたし、やっぱりさんまは天才だ、みたいな主旨の話をしたんです。

それを受けて気をよくしたさんまちゃんが、別の機会に単独インタビューを受けて、「いや、光栄だわ〜」と、面白おかしく話していたんですが、つくづく天才は天才を呼ぶんだなと思いましたね。

たけしさんは転がすのが上手いし、さんまちゃんは転がされながらも自分を出すのがめちゃくちゃ上手い。自分のわがままさを“弟分”として出せるから。

タケちゃんマンとブラックデビルの関係は、今思えばブラックデビルがどこか弟分なんですよ。

雑談なのに時を超えるタモリとさんまのトーク

昔、『笑っていいとも!』の金曜日に雑談コーナーがあったんですけど、あれはタモリさんとさんまちゃんの天才同士のトークでした。

名曲って何年たっても古臭くならないじゃないですか。トークもそういうところがあって、タモリさんとさんまちゃんの話は、雑談なのに時を超える。今見ても新鮮です。

さんまちゃんが出てきて、タモリさんが迎え入れて、

「それで、どうしたの? 3日前」

「よう言いまんなぁ、タモさん」って、そこからはじまって、完全に弟分になってダダをこねて、それをタモリさんがいじってツッコんで、またワーッと自分中心にしゃべって。

かと思ったら今度は、弟分のさんまちゃんがお兄ちゃんのタモリさんに気を遣ったり。気を遣っているところを、わざとアピールする。タモリさんはタモリさんで、「あんたの手には乗らないの」って感じでかわす。そんなのがずーっと続くんです。

7割ぐらいはさんまちゃんがしゃべっていたんじゃないかな。あれにはすごい弟力を感じましたね。やっぱり、「可愛い」って思わせる天才です。

ちなみに金曜日のその雑談が、伝説になった日があります。

話がいつまでたっても終わらず、時間が押しに押してしまったんですよ。これじゃ他のコーナーは入らないし、CMも入れなきゃいけない。

それでもしゃべり続ける2人に対して、突然「ドーン」という効果音を流して、「CMにいけ」っていう垂れ幕がバーッ降りて来て、強引にCMにいったんです。

スタッフがいざという時のために用意していたんでしょう。テレビがめちゃくちゃ面白かった時代です。

煙に巻くのに本質を突く、それがプロ

お笑いビッグ3は、ただ面白いことを言える天才というだけじゃなくて、世の本質を突いたことを言いますよね。

私事になりますが、さんまちゃんとの忘れられない出来事があるんです。局アナ時代、今から40年近く前のこと。プロレスの実況で売れはじめた頃です。

吉本興業(現・よしもとクリエイティブ・エージェンシー)の東京支社長から「うちに入らないか」と誘われたことがありました。

吉本興業なんてお笑いの王国じゃないですか。

「なんでアナウンサーの僕なんですか?」

と聞いたら、部門を広げたいとのこと。今なら、様々なジャンルの人が吉本と契約していますが、当時はまだお笑い専門。それまで僕は吉本に行きたいと考えたことはありませんでした。芸人さんじゃないんだし。でも、「フリーになりたい」欲はその頃から十分にありました。

そんな時、まだ顔見知り程度だったさんまちゃんと、たまたま廊下ですれ違ったので、

「ちょっとご相談があって……」と、控室に引きずり込んだんです。

「吉本の東京支社長からお誘い受けたんだけど、僕は吉本興業に行ってもいいですかね」

とストレートに聞いたら、言下に、

「やめなはれ」と。そしてたたみ込むように、

「うちなんか来たら大変や。ギャラのほとんどは事務所に持ってかれまっせ!」半分ネタだけど、半分は本当だと思いました。それでチラリとよぎった吉本興業入りはやめました。いきなり相談されたのに、即座に「やめなさい」と答えるさんまちゃんの、あの本質を突く部分はすごいですよね。

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