東京駅の丸の内南口から「荒川土手」に向かう路線バスがあるという。
荒川土手。荒川土手の近くにバス停があるんだろうと想像がつく。そういう意味ではわかりやすい名前だ。
でも、それってつまりどういう状況なんだろう。土手にぽつんとパス停が立ってたりするのか。絵面が思いつきそうでつかない。妙にぼんやりとしている。
考えているうちに、一度この目で見てみたい気持ちが止まらなくなってしまったので、何も検索せずに出かけてきました。
乗ったことのないバスに乗ってみたい
ことの発端は、私が急に「乗ったことのないバスに乗ってみたい」と思い立ったことである。
肝心の行き先だが、第三者に選んでもらったほうがより想像外のバスに乗れそうな気がしたので、当サイトのライター西村さんにおすすめのバス停を教えてもらった。なんと4つも教えてもらえた。
そのなかでも特にこころ惹かれたのが荒川土手行きバスである。
行き先も行き先だが、出発点も最高で、東京駅の丸の内北口なのだという。東京のど真ん中からもさもさの土手に連れていってもらえる路線……ってもうそれだけで胸が高鳴ってしまう。
荒川土手に着くまでは、インターネット検索はしないと決めた。東京駅で迷子になったらどうしよう……という不安もあったが、丸の内北口にさえ着いてしまえば、目的のバス停はものの数分で見つかった。
思えば都バスに乗ること自体が久々だ。じつに10年以上ぶりである。その間に都バスはすっかり進化をとげ、車内の前方に液晶画面が設置されるようになっていたので驚いた。
まじまじと眺めていたら、都バスいわく、眠れない夜には都バスのマスコット「みんくる」を数えるといいよという。まじか。みんくるに羊のような効能もあるなんてまるで知らなかった。衝撃である。
途中、神保町でバスのドアが開いたとき、カレーの香りが車内全域にたちこめてくるという事件も起きた。まさか、神保町のアイデンティティを、荒川土手に向かうバスの中でキャッチする日が来るなんて。
そんなこんなで、へらへら車窓を眺めているうちに、バスは終点「荒川土手」に到着。かかった時間は1時間と少しくらいだろうか。景色を楽しんでいたせいか、そんなに長くは感じていない。
空が大きい。
さけびたくなるくらい立派な土手が目の前にあらわれた。
道が広い。草の生え方も絶妙だ。なるほど、これはたしかにバス停で荒川土手を名乗るしかないわ!と納得しきりの土手である。
あまりにあっぱれで清々しい。
おにぎりを気にする鳩たちのいじらしさ
さて時計は12時を回っている。おにぎりを広げるのにぴったりな時間ではなかろうか。
困った。
おにぎりを開けたら、周囲にいた鳩たちがわらわらと、私のまわりに集まり出したのである。全然予想していなかった事態だ。
脳裏に「鳩がおにぎりつつきにきたらどうしよう」という不安が広がっていく。いや、鳩って横暴なことはしなそうだけど、でも彼らの動きからは、隠しきれないおにぎりへの思慕が滲み出ているのだ。「僕たち全然気にしてないから」って態度で、時に目を逸らしつつ、私の様子をじいっとうかがい続けている。
奥ゆかしいけどわかりやすく、なんともかわいい奴らである。
滞在時間は約20分。風が強すぎて長時間すごすのは無理だった。
だけど、なんでだろう。何するわけでもなく、ただ土手にいるだけで、なんだかとても気分がいい。
もしかして、こういう場所を人はパワースポットと呼ぶのだろうか。心ゆくまで、ぼうっとしたい時に来たら元気になれる場所。
……おし。また行くぞ!
大きな道路が雄大な土手のそばにあるというのもまた、たまらないのだろう。大きなもの同士が近くにあると、開放的さに拍車がかかり、肩の力がすうっと抜けていくような感じがするのだ。
あなたもぜひ、よかったらぜひ、なんも考えたくないなって日とかにふらっと出かけてみてほしい。
荒川土手も荒川土手行きのバスも、すごく、すごくよかったのだ。