男性セラピストが女性に性的サービスを行う「女性向け風俗」の利用者が増えている。その背景には何があるのか。ノンフィクション作家の菅野久美子さんが男性セラピストに聞いた――。
意外にも性感より「デート」の需要が高い
女性用風俗――。略して“女風”が勢いづいている。私はこの世界を数年にわたって取材しているが、最近は店舗数が増えますます活気を増しているという実感がある。女性用風俗の男性従事者は、セラピストと呼ばれる。
なぜ、彼らはこの世界に足を踏み入れたのか。そして、日々どんなことを考えているのか。セラピストの思いと、そこから見えてくる現代社会を生きる女性たちの生きざまを追った。
女性用風俗のセラピストで多くを占めるのは、あくまで本業は別に持ち、本業の空き時間に働く“兼業セラピ”だ。彼らは昼間、社会人として一般企業に勤めていたりする、いわば普通の男性たちである。兼業セラピストの本業として多いと感じるのは、アパレルや美容関連といった日常的に女性と接する職種だ。しかし、中には一部上場企業やIT関連勤務のサラリーマン、塾講師などもいる。
「風俗」と名がつくと、エッチなサービスである性感をイメージすることが多いが、女風では、意外とデートをメインとするセラピストの需要も高い。彼氏のように一緒に買い物をして、キッチンに立ち料理を作ったり、一緒に映画を見たりして癒やしの時間を過ごす。いちゃいちゃしたりハグしたりはするが、性感はあくまでおまけという位置づけだったりする。
セラピストも玉石混合で、中には芸能人顔負けのルックスを売りにする容姿端麗なセラピストがいたり、逆にルックス度外視で、自らの「なめ技」などのテクを武器として、エロを売りにするセラピストもいる。
女風店舗「シェアカレ」で新人セラピストとして勤めるユニさん(27歳)は、コロナ禍真っただ中に入店した男性の一人だ。ユニさんの女風の勤務歴は、1年ほど。ユニさんの本業はスタイリストだ。ユニさんは、爽やかで清潔感のある少年タイプだが、これまでは風俗の業界とは全く縁がなかったという。
「女性の心や体をもっと知って、人間として成長したい」
コロナ禍のデビューということもあり、経済的な事情での入店かと思いきや、そうではないという。ユニさんは、女風デビューの動機をこう語る。
「これまで自分が人間として未熟だなと感じることがあって、成長したいと思ったんです」
話を聞くと、入店の動機は、最後に付き合った彼女の存在が大きかったという。ユニさんは年上の女性が好きで、これまでも付き合ってきた女性たちのほとんどが年上だった。それは自分の母親のような強い女性に憧れていたからに他ならない。歴代の彼女たちは、母親のように世話を焼いてくれたし、それが当たり前だと思っていた。
しかし最後に付き合った女性は、そんなユニさんの勝手な“彼女像”をことごとく打ち崩したのだという。
例えばこれまでの彼女は、家でご飯を食べるときも料理が出てくるまで待っていれば良かった。しかしその女性は、一緒に料理を作ることを求めてきた。「自立した」男と女の在り方を、ユニさんはそのとき人生で初めて知ったのだ。
「いざ自分がキッチンに立つと、何をどうすればいいのか、全くわからなかったんです。これまで自炊をしたこともないし、そんな自分が歯がゆかった。でも、この自分の幼稚さは料理だけの問題じゃない。自分の人生において全て通じることだと感じたんですよ。このままだと自分は人間として小さいままだし、マズいと焦ったんですよね。女性の心や体をもっと知って、寄り添いたい。女性の欲の根源の部分に触れることで、本質が見えるんじゃないか。それが、僕が女風をやってみようと思った動機ですね」
結局、女性とは別れることになるのだが、その経験がきっかけとなり女風の世界へと足を踏み入れることを決めた。
男女で違う「欲望の質」
ユニさんは一般的にはモテるタイプだろうと推測できる。相手には不自由しないため、「これまでの自分」のままであり続けることもできたはずだ。しかしユニさんは性的なサービスを女性に提供する職種にあえて身を置くことで、女性への一種の甘えを断ち切り大人の男性への階段を上りたいと感じたのだろう。
まだ新人セラピストということもあり、うまく女性をエスコートできずに壁にぶつかることもある。しかし、そんな困難も人生の学びになっている。
「僕たち男は竿に振り回されてる感じがあるけど、女の人って精神的なものを求めていて、欲望がもっと真っすぐでピュアだなと思うんです。そんな女性の欲望と向き合えて、心の底からすごくうれしいんです。誰にも言えなかった秘められた欲望や無防備な姿を晒してもらえるという快感もある。今まさに、ずっと知りたかった女性の本質を知りつつある最中なんです。女風によって、自分の人生の深いところを学んでいるなと感じますね」
日々の努力もあってか、年明けからリピートも少しずつ入り始め、新人という名前からは変わりつつある。初対面では緊張気味だった女性が、帰り際に心も体も解放されてとびきりの笑顔になる。それがユニさんの何よりの喜びだ。ユニさんは女風を通じて、初めて女性たちと真っ正面から向き合い、かつての自分自身からも脱皮しようとしているのかもしれない。