なぜStarlink衛星の墜落を引き起こした磁気嵐は予測できなかったのか?

GIGAZINE


by NASA Goddard Space Flight Center

2022年2月、宇宙開発企業のSpaceXが提供する衛星インターネット「Starlink」の人工衛星38基が、打ち上げ時に磁気嵐の影響を受けて大気圏に再突入する事態が発生しました。こんな事態が起きてしまった理由について分析した論文を、国立極地研究所で准教授を務める片岡龍峰氏らの研究チームが発表しました。

Unexpected space weather causing the reentry of 38 Starlink satellites in February 2022
https://eartharxiv.org/repository/view/3208/

スターリンク衛星38機の墜落について|片岡龍峰|note
https://note.com/ryuhokataoka/n/nda700de4d7a7

SpaceXは2022年2月3日18時13分(世界時)、フロリダ州のケネディ宇宙センターから49基のStarlink衛星を打ち上げました。これらの衛星は、まずは動作する軌道よりも低い地上210kmの軌道に展開され、その後で地上340kmの地球低軌道へ上昇する予定でしたが、予期せぬ磁気嵐の発生によって大気抵抗が以前の打ち上げ時より50%も増加。その結果、衛星が正常に軌道を上昇させることができず、結果として49基中38基が大気圏に再突入してしまいました。

「Starlinkの人工衛星40基が地球の大気圏に再突入する可能性がある」とSpaceXが公表 – GIGAZINE

by Official SpaceX Photos

地磁気嵐の影響で衛星が墜落する事例は以前から知られています。2000年7月には日本の観測衛星「あすか」が、巨大な太陽フレアによる地球大気の膨張によって姿勢が崩れ、2021年3月に大気圏へ再突入する事態が発生しました。

太陽フレアなどの影響で地磁気が乱れると、大気の温度と密度が高まって衛星にかかる抗力が増加して、姿勢が崩れたり大気圏への再突入が引き起こされたりすることがあります。そのため、衛星などに影響を及ぼしかねない地磁気の観測・予測が行われていますが、Starlink衛星に影響を及ぼした2月4日の地磁気嵐は予測できなかったとのことで、片岡氏らの研究チームは、一体なぜ今回のような事態が発生したのかを分析しました。

片岡氏らによると、今回の地磁気嵐を引き起こしたのは、2022年1月29日23時32分(世界時)に発生したコロナ質量放出でした。コロナ質量放出とは、太陽から惑星間空間内へ突発的にプラズマの塊が放出される現象であり、片岡氏はこの時点で「数日後に磁気嵐が発生するかもしれません」と予測していました。

久しぶりに地球に向かってコロナ質量放出が。数日後に磁気嵐が発生するかもしれません。 pic.twitter.com/ioBz1TNoWp

— 片岡龍峰 (@ryuhokataoka)


その後、一時は太陽風が空振りに終わり、磁気嵐は発生しないだろうと推測されたものの……

惑星間空間衝撃波は確かに地球にヒットしましたが、空振りに近いような太陽風の見た目です。磁気嵐にはならないでしょう。 pic.twitter.com/v0feeZWWth

— 片岡龍峰 (@ryuhokataoka)


2月3日11時(世界時)に予想外の磁気嵐が発生。


典型的な地磁気嵐は24時間以内に発達するものの、今回は一時的に地磁気嵐が収まった後の2月4日11時(世界時)に再び磁気嵐のピークが到来。問題のStarlink衛星は打ち上げた後にこの2回目のピークとぶつかってしまったため、大気圏へ再突入してしまったという見立てです。

繰り返すSBZ。この太陽風は、かなり面白い。10年以上前にも、似たのを見た記憶が。いまは複数の探査機があるから意味がわかるかも。 pic.twitter.com/c3h4an0Z4M

— 片岡龍峰 (@ryuhokataoka)


今回のコロナ質量放出では、複数のねじれた地場がらせん状により合わされた磁気フラックス・ロープが地球に当たるのが通常より遅れただけでなく、最初のフラックス・ロープが引き起こした磁気嵐が回復した後、2本目のフラックス・ロープがかなり遅れて到着した点が、標準的なケースとは違っていたと論文には記されています。

分離した2本のフラックス・ロープが到来することや、コロナ質量放出による太陽風プロファイルを正確に予測することは困難だったとみられていますが、困難だからといって予測をあきらめることは大きな損害につながる可能性があります。論文は、「このように予測や理解が難しいマイナーなコロナ質量放出の構造を定量的に処理するために、複数の探査機による太陽風観測を活用し、現実的なコロナ質量放出と太陽風のシミュレーションを組み合わせる、新しい時代が到来しています。将来の衛星運用の安全性のためにも、熱圏の最先端シミュレーションで発生しうる誤差や限界について、より深い理解が必要です」と締めくくられていました。

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