The Price of Coal
Jen Adcockの『The Price of Coal』は、特にお気に入り。ゲームの舞台は、1920年代のウエストバージニア州の炭鉱(ウエストバージニア州の石炭生産量は全米2位)。炭鉱と会社の板挟みにあう人間関係を、史実に沿って描いているそう。キャラクターを設定したプレーヤーが、当時に起こったことが書かれているカードを引いて、歴史に沿ってゲームを進めます。
ゲームの最後には、1921年に起こった炭鉱労働者の武装蜂起による「ブレア山の戦い」にたどり着きます。この出来事は米史上最大の労働争議と言われており、対応するために米軍が招集されたそう。衝突によって100人近くが死亡し、多くの労働者が逮捕されました。3~5人用のゲームで、3~4時間かけて歴史をたどります。
STRIKE! The Game of Worker Rebellion
個人的に大好きな『Space Cats Fight Fascism』と同じように、Tesa Collective社はSFチックなひねりを加えた、集団で楽しめる政治的ゲームをつくることに定評があります。
この『STRIKE!』も2~4人で一緒に遊べます。主人公が「ストライキ委員会」の一員として、地域を企業城下町にしようと企てるHappyCorp社をやっつけるゲームです。舞台になる街を学校から歩道にいたるまで完全に私有化して、住民をすべて従業員として扱うために活動しているHappyCorp。実現すれば最低賃金も公共サービスも労働組合もなくなってしまいます。そんな巨大企業に対して、プレーヤーはそれぞれ特徴のある8人のキャラクターを使って、ストライキを起こすことで対抗します。
遊び方は簡単。プレーヤーはストライキを行なうために住民を組織化するなどのアクションを起こし、企業側はそれをひたすら妨害します(企業側のアクションはあらかじめ用意されています)。プレーヤー側が15ポイント獲得できるだけのストライキを決行するか、企業側が15ポイント分の妨害を行なえばゲームは終了します。企業から街と労働者を守るために住民が協力してたたかう、緊張感あふれるボードゲームです。
’Twas The Last Labour Dispute Before Christmas
こちらのゲーム、Jonathon Greenallによる皮肉がたっぷり含まれています。
カードの指示に従って、ひとりで遊びます。プレーヤーは、クリスマス直前のバタバタしたなかで、労働組合結成を目指す小人を演じます。現代社会でも見られる雇用主側の組合潰しに抵抗しながら、仲間と労働条件の改善を求めてたたかいます。来年も同じことを繰り返さなくてもいいように…。
Comrades: A Revolutionary RPG
『Comrades』は、ロールプレイングゲームのフレームワークであるPowered by the Apocalypseを使ってデザインされています。
このゲームでは、プレーヤーが学生や労働者、兵士やプロの革命家、芸術家やパトロンなどの中からキャラクターを選択し、時代と場所を決めて革命を起こします。実際に起こった革命を別の方法でやり直すのもよし、自分が住んでいる場所で革命を起こすのもよし、時代をさかのぼるのも今すぐ革命を起こすのもありです。テーマについても、労組結成やストライキ、クーデターまで、自由に設定できます。それぞれのプレーヤーが語る緊張感たっぷりのストーリーを、ゲームマスターがとりまとめながら進んでいきます。
162ページあるルールブックは、初心者でもすぐにゲームの仕組みや遊び方を理解できるような、わかりやすい表現で書かれているそうです。ハードルが低いのはいいですね。
Beat the Boss
『Beat the Boss』は、33年間にわたってゲーム開発を行ない、労働組合のまとめ役を約20年務めてきたベテランのダンジョンマスター、Doug Geislerが、その経験をフルに生かしてデザインしたゲーム。
先ほどの『Comrades』と同じく、ベースはPowered by the Apocalypseのシステムを用いています。このゲームでは、プレーヤーが演じる労働者や地域の構成員が協力して、労働環境を改善するために雇用主や議員などとの交渉や労働争議などを行ないます。立場の違うプレーヤー同士の会話が別の誰かとの会話につながり、決断を下す立場の人との交渉につながっていく。そうやって職場環境を改善し、より良いコミュニティーをつくり、次の世代へと受け継いでいく。争いごとや激しい感情の動きをフィクションで表現するのではなく、リアルな職場や地域で労働組織をつくるために必要なことを教えてくれるゲームになっているそうです。
派手な革命ではなく、地道な草の根運動を経験できるゲームと言えそうです。3~6人くらいでプレーします。
Bay
『Bay』は、短いのにズーンと重たい気持ちになる、インパクトの強いゲームです。プレーヤーは、暴力にあふれる革命の街で暴動犬を追うという、重苦しい体験を提供します。2~6人でプレーできるゲームで、1人が「The Dead(死者)」、残りのメンバーは「The Dog(犬)」を演じます。
ルールはほとんどなく、「死者」は対立するふたつのグループの争いの中に「犬」がどのように巻き込まれていくのかを決めます。「死者」はふたつのグループがなぜ争っているのか、どうすれば争いが終わるのかを説明することなく、ただ両者がどのような環境の中でどのように争い合うのか、その場の雰囲気や音、どのような感情を抱くのかなどを「犬」に説明します。「犬」はどのように人間が関わり合っているのか、それに対して「犬」がどんなリアクションを起こすのかを決めます。その説明を聞いた「死者」が次に何が起こるかを決めて、ゲームは進んでいきます。
「犬」がひたすらその世界の残酷さに耐えるか、ゲームから抜けることで流れを変えていくしかないそうです。自由度が高すぎて、マニュアルを読めば読むほどイメージできなくなるパターンですね、これ…。
Bitches in the Club
タイトルにインパクトありすぎというか…、不適切な表現なので訳せません。『Bitches in the Club』は、強欲な経営者のクラブで働く女性たちが、現状を打破するために団結して立ち向かうゲームです。
プレーヤーは、ダンサーやバーテンダー、DJ、バウンサー、マネージャーなどの中から自分の演じる役割を選び、クラブの状況やそれぞれの従業員が抱えている問題などについてゲームマスターが決めたシナリオに沿ってゲームを進めていきます。
クラブの従業員は基本給が低いので、プレーヤーは生活のために自身の特徴や知恵、与えられたツールを駆使しながらチップを稼いでいきます。ゲームをつくったSteffie de Vaanは、サービス業の根っこにある家父長制や性による役割の強要、性的搾取の問題にフォーカスしていて、チップのために働く女性への偏見に対して、ゲームを通して政治的な批判を行なっています。
Paterson, 1913
シモンズ大学のMary Jane Treacy教授がつくった『Paterson, 1913 』は、教育的な要素が色濃い実写型ロールプレイングゲームです。
このゲームは、これまでに読んだ本の中で最もしっかり研究された情報を提供している作品のひとつです。ゲームは、1913年にニュージャージー州パターソンのシルク工場で労働者が起こした労働争議を再現しています。労働時間の短縮と労働環境の改善を求めて行なったストライキは5カ月続き、1850人が逮捕されたそうです。ストライキは失敗に終わりましたが、ヨーロッパからの移民や女性の参加者が多かったことが成功への道を妨げたのではないかと言われています。このゲームからは、20世紀初頭に企業とたたかったマイノリティーの思いや苦難が伝わってきます。