来る11月1日、新紙幣が発行される。五千円札と千円札の肖像が、それぞれ樋口一葉と野口英世に切り替る訳だが、どうも新千円札のデザインが気にかかる。何が気にかかるかと言うと、野口英世の立体的な髪型。
どうなってるんだろう? あれ。
色々と調べているうちに、新千円札のモデルとなった写真を見つけた。古い白黒写真なので髪型のディテールまでは分らないが、それを見本にあの髪型を再現してみたくなってきた。ついでに服そうも全部真似て、新札の肖像とソックリになりたい。
という訳で、手間ひまかけて野口英世になりきってみました。
※2004年10月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
新千円札のモデルとなった写真
ネット上で新千円札のモデルとなった写真を見つけた(写真1)。福島県にある野口英世記念館が所蔵している肖像写真だ。
記念館に電話をかけて、肖像写真について伺った。
「この写真は、英世が41、2才の頃に撮影されたもので、英世自身とても気にいっていたようです」
気に入っていたという証拠に、写真の左隅にサインが入っている。現存する野口博士の写真は多数あるが、サインが入っているのはこの写真だけ。
「今から3年前の10月、財務省の人が来てこの写真を借りていったんです」
その時は印刷技術の検証の為という理由だったので、まさか野口博士が新札の肖像になるとは想像もしていなかったとか。しかし一昨年の8月2日、新紙幣発行が発表され、そこで初めて野口博士が千円札の肖像に選ばれた事を知った。
後日、財務省から連絡が入り、この肖像写真をもとに手描きで肖像画を作成するとの説明があった。お札の肖像画は写真印刷ではなく、手描き絵なのだ。確かに、仕上がった見本紙幣(写真2)とモデル写真を見比べると、ヒゲの感じや髪のウエーブ、ジャケットの色など微妙に違う。
写真のディテールを教えて下さい
今回の企画では、この肖像写真を真似て写真に写り、最終的に新札の肖像画にどこまで近づけるか挑戦する訳なので、写真の中の野口博士についてもう少し聞いてみた。
–ジャケットの色とか素材とか、分りますか?
「いやあ、さすがに分らないですね。そういう記録は残っていないので」
–(肝心の)髪型ですけど、これはパーマですか?
「ええ、パーマもあててると思いますが、もともとくせ毛だったらしいです」
野口博士はくせ毛だった。
くせ毛にパーマをあてる事で、あのボリュームを実現していたのだ。
服装についての詳細を知る事は出来なかったが、とにかく、野口博士を真似る為の小道具を調達しなければいけない。
卸問屋が立ち並ぶ日本橋馬喰町に向かった。
まずはロンゲの人毛カツラをゲット
野口英世博士になりきる為の最重要ポイントは、何といってもあの髪型だろう。立体感溢れるあのウエーブを再現しなければ野口博士にはなれない。
短髪の僕が、自毛であのボリュームを出すのは不可能なので、カツラを被る事にした。もちろん、既製品で野口博士の髪型をカツラにしたものなど、ない。
ヘアメイクの友人に相談すると、長髪のカツラがあればそれを加工して野口博士の髪型を作ってくれるという。
やったー! 野口博士の髪型が手に入る。
同友人のアドバイスを受け、美容用品専門店「マスダ増」でカツラを調達することに。ところが、マスダ増さんは美容関係者しか入店出来ないお店。何とか許可をいただく為、電話で企画意図を伝えてみた。
「インターネット上で野口英世さんになりきる、という企画を考えてまして、カツラを購入したいんですが……」
色々と聞かれるかと思ったが、深く突っ込まれる事もなく入店許可をいただく事が出来た。多分、面倒臭かったんだと思う。
お休みの美容院が多い火曜日という事もあり、店内は大混雑だった。
僕は入店許可証をもらい、カツラ売り場へまっしぐら。どれを買えばいいのか、まったく見当もつかなかったので店員さんに助けを求めた。
「この写真の髪型をカツラで作りたくて」
野口博士の肖像画を見つめる店員さんと僕。
「うーん、人毛カツラじゃないと無理ですね」
化繊のカツラは熱に弱いので、パーマをかける事が出来ない。多少値は張るが人毛カツラの長髪タイプを購入する事にした。
くせ毛で長髪な人毛カツラがあれば更に本物に近付けたのだが、それはなかった。
この直毛が野口博士の髪型になるのか? 少し不安だったが、友人の腕を信じる事にした。
続いてツイードのジャケットをゲット
カツラの次はジャケット。
マスダ増のすぐそば、衣料品を安く販売するサカゼン本店で探す。
ここでも店員さんに野口博士の写真を見せて、選んでもらう事にした。店員さんの推測による野口博士のジャケットの特徴は以下。
・生地はツイード、色はグレー
・ステッチは0.8センチステッチ
なるべくその特徴に近いジャケットを探してもらい、購入した。
ついでに黒のニットタイも奨めてくれた。きっとこんな感じだったはずですよ。
店員 さんが得意気に笑った。
ヒデヨヘアーを作る
今回、野口英世ヘアー(以下ヒデヨヘアー)を作ってくれるのは、カツラ購入からアドバイスをくれていた佐々木さん。ヘアメイク歴15年のベテランだが、野口英世の髪型を作るのは初めてだ。
「くせ毛にパーマをかけてるらしいんですけど……」
「そうだね、結構強いパーマだし、ボリュームもある」
「この直毛カツラで大丈夫ですか?」
「うん、何とかなるでしょう」
きっと、彼の中ではヒデヨヘア-完成へのロードマップが出来ているのだろう。ためらう事なく剃刀で髪を切り落としていく。
「カットしてからコテで巻いていくから、ちょっと時間がかかるよ」
佐々木さんを作業部屋に残し、僕は一旦仕事に戻った。
2時間後、クルクルとボリュームのあるヒデヨヘアーが出来上がった。あんなに直毛だったカツラが嘘の様だった。15年の経験は伊達じゃない。佐々木さんに頼んで本当に良かった。
試しに被ってみて、その仕上がりを実感する。おおーっ! ヒデヨだ!!
「もう、これは、どこから見てもヒデヨですよ」
「うん。ヒデヨだね」
ヒデヨへアーとヒデヨジャケットを持って、近所の写真館に向かう。
そこで、あの肖像写真とまったく同じアングルで撮影してもらうのだ。
写真館で撮影
写真館の控えスペースでヒデヨヘア-の最終調整。
お手本の肖像写真と見比べながら、もっと左にボリュームを、とか、右のウエーブがちょっと強すぎる、とか。
カメラマンさんがそんな2人のやりとりを不思議そうに見ている。
そうだ、説明していなかった。
「野口英世さんになるって企画で、この肖像写真と同じ様に写りたいんです」
「そ、そうですか」
「あっ、ほら、新札が出るじゃないですか、だから」
「わ、分りました。じゃあ、この写真の雰囲気で照明をつくります」
今になって思えば、「新札が出るじゃないですか」って全然フォローになってない。
それでもカメラマンさんだってプロだ。言われた通りの仕上がりを目指し、照明を作ってくれた。
「じゃあ、いきますよー。カシャッ」
そしていよいよ完成です
撮影された何枚かの写真の中で、一番ヒデヨに近いものを選びプリントしてもらう。プリントはA4版フルカラーで1950円。
やった!やった!ヒデヨだ!!
仕上がったプリントを見て、僕は小躍りする。
しかし、これで完成ではない。
カラーで上がったプリントを持ち帰り、お札の印刷に合わせ単色に加工する。
そして遂に、野口英世博士(偽)の肖像写真が出来上がった。
若干宝塚っぽい感じもしますが、どうでしょう。割とヒデヨじゃないでしょうか?
11月1日以降、こういう肖像画の印刷された千円札が出回るのです。楽しみに待ちましょう。
野口博士の髪型は、今女子高生の間で流行っているアンシなんじゃないだろうか? と仕上がった写真を見たスタッフが言った。アンシとはアンシンメントリー(非対称)の略語。確かにそうだ。それに、今ってツイードのジャケットも流行ってますよ。と同スタッフ。
そうなのか? 時代はヒデヨなのか? ヒデヨがきてるのか?
ヨン様のヅラみたく、ノン様(野口のノン)のヅラを売り出したらどうでしょうか?