裏庭で収穫した山芋がこちらです。
天然の山芋を掘るのが長年の夢なのだが、なかなか実現してくれない。山歩きをしていて山芋の蔓を見かけることはあるものの、自分の土地ではないので勝手に掘ることは許されない。
ならば山芋の蔓に実るムカゴを取ってきて、自宅の掘りやすそうな場所に植えて、山芋が育つのを待って掘ればいいのでは。
掘れぬなら、育つまで待とう、ヤマノイモ。
だいぶ前にムカゴを植えた
2012年11月のある日。自宅の近所を散策中、道端で雑草に混ざって金網に絡みついた蔓が目に留まった。ハート形の葉っぱだし、ムカゴがついているし、上に向かって反時計回りの蔓だし、山芋に間違いないだろう。
この蔓をたどって地面を掘れば憧れの山芋とご対面できるのだが、明らかに掘ったら不審者扱いされそうな場所なので断念せざるを得ない。人生で何度目の断念だろうか。
芋が無理ならムカゴだけでもといくつかいただき、上着のポケットに入れて持ち帰った。
そして帰宅後、ポケットの中はわざわざ料理して食べるほどの量でもなかったので、前にニガウリを育てていた狭い裏庭に植えてみることにした。
あまり期待はできないが、このムカゴから蔓が伸びることで毎年自宅でムカゴが収穫できるようになり、いつの日か憧れの山芋を掘れるかもしれない。
子供の頃にクヌギのドングリを庭に植えて、いつかカブトムシやクワガタがたくさん来ることを夢見たことを思い出した。
六年後、気が付けばムカゴが実っていた
裏庭にムカゴを植えたことなんてすっかり忘れていた2018年の秋、知り合いが山でムカゴをとった話をSNSで見て、俺も山に行こうかなーと思いつつ台所で洗い物ををしていたら、すりガラスの向こうにムカゴらしきものが見えた。
あれ、なんでこんなところにムカゴが生えているんだろう。ムカゴを取りたすぎる故の幻覚か。いやでもだいぶ前にムカゴを植えた気もするぞ。その後も山などでムカゴを見つけると、なんとなくそこに植えていたような。
ムカゴじゃなくてカタツムリかもと思いながら裏に回ってみると、それは確かに山芋のムカゴだった。気まぐれで植えたムカゴが、いつの間にかここまで成長していたのだ。
ちょっとしたへそくりを見つけた気分である。しかも高利回りだ。植えたのは六年も前の話なので、もしかしたら私が今日まで気が付かなかっただけで、去年も一昨年もムカゴは実っていたのかもしれない。
ありがとう、ありがとう。ほったらかしでも育ってくれた山芋に手を合わせて感謝しつつ、ムカゴを収穫させてもらった。
ムカゴが実るほど山芋が育ったということは、この下に山芋のができているかも。だが蔓はまだちょっと細い。
ここは焦らずもっと育ててから掘ってみようではないかと、その根元にホームセンターで買ってきた園芸用の土をドサドサとかぶせた。
そして山芋は立派に育った
翌年はまだ早いだろうとムカゴの収穫だけにして、迎えた2020年の春。裏庭を確認すると何度か追加した土のおかげか、かなり立派な芽が出ていた。この調子なら秋には食べるに値する山芋が掘れるかも。
ただ硬い土の中で育った山芋に対して、その上から柔らかい土をかぶせたことが、下へと伸びる芋にどれだけ効果があるのかは怪しい。今更だが掘り返してから土を足せばよかったかな。
立派な芽は立派な蔓を伸ばし、とても立派なムカゴをたくさん実らせてくれた。
おかげでこの秋はムカゴが食べ放題。もし芋が掘れなくても十分な収穫だ。いやでもやっぱり芋が掘りたい。
八年物の山芋を掘ってみよう
年を跨いで蔓が枯れた頃(昨年2月)、気まぐれでムカゴを植えてから丸八年以上が立った山芋を、ようやく掘るときがやってきた。成長型タイムカプセルとのご対面である。
これは最近になって知った話だが、山芋と呼ばれる芋には、大きく分けて二つの系統があるそうだ。
ひとつはヤマノイモ科ヤマノイモ属の「ヤマノイモ」。山に生える在来種で、自然薯の呼び名でお馴染みの細長いタイプ。
もうひとつはヤマノイモ科ヤマノイモ属の「ナガイモ」。栽培されている山芋の多くはこっちで、芋の形状によってナガイモ群、ツクネイモ群、イチョウイモ群に分かれる。
ナガイモは日本原産という説と、大昔に中国からやってきたという説があり、栽培種が野生化したものが河原や公園でよく見られる。我が家の山芋はムカゴをとってきた場所がその辺の道端なのでナガイモの可能性が高い。葉っぱの形もナガイモっぽい。
もし仮に自然薯だったら、八年物だし1メートル位伸びているかも。そんなのを掘ったら家が傾きそうだ。
蔓が生えていた痕跡から芋の先端を見つけ出し、丁寧にシャベルで掘ってみる。
さてどれくらいの深さまで育っているだろうかとドキドキしていたのだが、あっさりと抜けてしまった。
おいおいおい、おい。
あまりの短さにびっくりしたが、おそらくこれは最初に植えた八年物ではなく、私が追加で蒔いたムカゴか、ここで育った山芋からこぼれ落ちたムカゴで増えた若輩者だろう。だよね。
もっと立派な芋があるはずだと土を払うと、明らかに大物を予感させる頭を発見。これは期待ができる。
だがこれも小さかった。続けて何本が掘ってみたが、どれもジャガイモくらいの大きさどまり。
食べられないこともないが、想像とちょっと違った。
円柱型ではなく円錐に近い芋の形から、硬すぎる地面にこれ以上の成長を諦めた気配が感じられる。気持ちはわかる。
来年に向けて深さ1メートルほど耕そうかとも思ったが、それこそ家が傾いてしまう。自宅での山芋栽培はムカゴ目当てと割り切った方がよさそうだ。いやでも芋が掘りたいんだよ。
最大の山芋が埋まっていた
もっと太い芋はないのかと探しまくると、太すぎて雑草だと思った蔓が山芋であることに気が付いた。今度こそ八年物の大物に間違いない。
慎重に掘らなくてはと心では思っているものの、芋掘りにだいぶ飽きてしまっている体は、残念ながら雑にしか動いてくれない。中腰の姿勢が辛いのだ。
大物っぽく見せておいてどうせ竜頭蛇尾芋なんだろうという諦めムードもあって、せっかくの芋をザックリと切ってしまった。武士で例えたらちょんまげの部分だ。
どうにか全体を掘り起こし、これなら食べられるかなというサイズであることを確認。先ほどの芋に比べれば立派な大物だ。ジャガイモサイズからサツマイモサイズにランクアップ。
もしこんな不格好な山芋が道の駅とかで売っていてもたぶん買わないけど、自分で蒔いて育てて掘ったと思えば値千金。これぞプライスレスな価値である。
せっかくの大物だったので、もう少し丁寧に掘ればよかったと反省しているが、どうせすりおろして食べるからいいよねという気持ちも強い。自分は山芋掘りに向いていないんだろうな。
自家製の山芋を食べよう
小さい芋は裏庭に埋め戻し、うっかり五分割してしまったビッグワンをすりおろす。さすが硬い土に耐えながら育った八年物だけあって、見事なまでのドロンドロンの粘りである。
おろした芋を出汁で割っても粘り強い。麦飯に乗せてとろろ芋(と実家で呼んでいたもの)を久しぶりにいただいた。調子に乗ってたくさん食べたら、口の周りが若干痒くなった。
味は普通の山芋だったが、その辺のムカゴを撒いた結果、普通に食べられたのだから大ラッキーである。買ってきた土代が結構かかっているけど。
ここまでずいぶん時間が掛かったが、食べるのは一瞬。でもこの思い出は一生だ。そんな適当なことを言えるくらいには収穫の喜びがあった。
この山芋のを掘った話は去年の2月で、その年は掘らずに様子を見ている。きっと今年も春になればまた太い芽を出して、秋には丸々としたムカゴを実らせることだろう。
このままほったらかしの手抜き栽培を貫くか、より大きな芋を収穫できるように一捻りするか(長い筒状の容器で育てるなど)、まだちょっと迷っている。