東芝を崩壊させた経産省の罪深さ – PRESIDENT Online

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「モノ言う株主」が実質株主になっている

東芝が迷走を続けている。昨年11月、グループを3分割する計画を公表したものの海外ファンドなど大株主が反対したことから2月には2分割案に修正した。それでも混乱が収まらず、3月1日に綱川智社長と畠沢守副社長が同日付で突如退任する事態に陥った。3月24日に予定している臨時株主総会は実施し、従来方針のまま2分割案を議題として諮るとしている。もっとも、否決された場合は、新分割案を修正するともしており、東芝がどんな形で存続していくのか、見通せない状況が続いている。

廃炉作業が進められている東京電力福島第1原子力発電所。中央左から1、2、3、4号機の原子炉建屋=2021年2搈14日、福島県廃炉作業が進められている東京電力福島第1原子力発電所。中央左から1、2、3、4号機の原子炉建屋=2021年2月14日、福島県 – 写真=時事通信フォト

東芝の大株主上位には2021年3月末現在、証券保険業務を行う金融機関の名前が並び、「モノ言う株主」と言われる海外の投資ファンドが実質株主になっている。提出されている大量保有報告書によると、旧村上ファンドの幹部だった高坂卓志氏らがシンガポールで立ち上げたエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが実質筆頭株主、シンガポールの資産運用会社、3Dインベストメント・パートナーズが2位、米国の資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントなどが上位を占める。東芝が公表したデータでは、発行済株式の50.44%を「外国法人等」が保有している。

会社分割案を決める前に、経営執行体制を整えるのが筋

また、24.14%を第一生命保険や日本生命保険など「金融機関」が持つ。こうした国内金融機関も「スチュワードシップ・コード」によって保険契約者の利益につながるかどうかで投票方針を決めるため、必ずしも経営陣支持に動くとは限らない。

昨年の株主総会では、会社側が提案していた、取締役会議長だった永山治・中外製薬名誉会長の取締役再任議案が否決された。結局、社外取締役で永山氏の後任を引き受ける人物は現れず、綱川社長が議長を兼ねた。今回、綱川氏は社長を退任したものの、取締役会議長にはとどまる。東芝はガバナンス体制の強化に向けて社外取締役から議長を選ぶとしてきたが、混乱が続く中で、社外の経営者が誰も引き受けない事態が続いている。

綱川氏は退任の理由について会見で「引責辞任ではない」と強弁していた。「新体制が見えないと(臨時総会で)投票しにくいという声があった」としていたが、本来は会社分割案を決める前に、東芝の経営執行体制を整えるのが筋だという批判は根強い。一方で、綱川氏ら現経営陣は、海外ファンドなどが選ぶ社外取締役が経営の実権を握ることに強く抵抗している。投資ファンドの多くは、短期的な資金回収を狙っており、東芝が持つ事業の売却などで利益を得ようとしているという。

会社を破綻処理しなかったことに元凶がある

経営側は、発行済み株式の4割を保有する半導体大手キオクシアホールディングスの株式売却で株主への利益還元を行うことでファンド側の理解を得て、分割した新会社を上場させることで、海外ファンドの呪縛から解き放たれようとしていると見られる。どれだけ株主還元するかが、ファンド側との条件闘争のような様相を呈しており、エレベーター事業や照明事業の売却でその利益を株主還元に回すとしている。

なぜ、ここまで東芝はボロボロになったのか。

会社を破綻処理せず、形の上で存続させることにこだわったことが大きな要因だろう。粉飾決算と子会社だった米ウェスティングハウスの巨額損失が表面化した2016年の段階で、いったん会社更生法を申請し、債務処理を行っていれば、再生できていたかもしれない。東芝メディカルシステムズのキヤノンへの売却を始め、優良な事業の売却で辻褄を合わせ、会社を存続させることに終始したことから、事業の多くを切り売りするハメになった。破綻処理をすれば債権放棄などが求められる銀行主導で再建策が作られたことが大きい。

極め付けは資本不足を補って上場維持をするために2017年末に大規模な第三者割当増資を実施。海外機関投資家を呼び込んだことだ。これによって会社は存続し、上場も維持されたが、その後、投資ファンドに翻弄されることになった。

株式マーケットデータ※写真はイメージです – 写真=iStock.com/phongphan5922

存続を支えていた経産省の責任も大きい

東芝の経営者が会社の形上の存続にこだわったのは、破綻処理すれば自身の責任が問われることが大きかったが、裏で存続を支えていた経済産業省の責任も大きい。

ウェスティングハウスの買収は、経済産業省の原子力発電政策の一環として、いわば「国策」で進められていたことは明らか。2015年に発覚する粉飾決算も、リーマンショック時に経営危機に陥っていた東芝を経産省など霞が関が「救済」していたことが遠因になっている。事実上、破綻していたものを存続させるためのやりくりのひとつが粉飾決算だったと見られている。これも、国の原子力事業を担ってきた東芝に対する経産省の「意思」が反映されていたと見ていい。

その後、モノ言う株主の排除に向けて経産省の関係者が「介入」していたと見られる問題が発覚し、米国メディアなどでも報じられたが、それも、原子力事業へのファンドなどへの関与を回避したい経産省の思いがあったと見られている。

背景にあるのは「国の原子力事業への方針」

逆に言えば、今の東芝の迷走も、国の原子力事業への方針が定まらないことが大きい。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故以降、政治は原発の将来の方向性について議論することを避け続けている。安全性が確認されたものから再稼働するとはしているものの、将来的には原発依存を下げていくともしている。そうした中で、原子力技術を将来にわたってどう継承していくのか。抜本的に考えることすら放棄している。国民世論を二分する原発に「前向き」な政権だとなれば、選挙に響くと考えているからだろう。

国会議事堂※写真はイメージです – 写真=iStock.com/maroke

民間電力会社に原発を維持させている原発政策にしても、今後どうするのか不明なままだ。現状の原発は、いずれ稼働年限が来て廃炉になっていくが、原発の新設の可否どころか、リプレイス(建て替え)の議論すら事実上タブーになっている。仮にリプレイスをするにしても、それを民間の「事業」として行うのか、国の事業として行っていくのかも、まったく議論されていない。経産省の一部には原発をすべて国有会社に集約すべきだという意見もあるが、政治が議論を避けている中で、一向に方向が定まらない。

日本の原子力政策の混乱を象徴している

そんな状況の中で、原子力技術の研究開発や、原発新設、廃炉などの事業を東芝や日立などの民間会社に「独自に」行わせる体制を続けられるのか。東芝は福島第一原発の廃炉作業に大きく関与しており、会社のあり方が定まらない中で、本来、国が責任を持たねばならない廃炉作業が宙に浮く危険性もはらんでいる。

本来は、会社を分割するなど東芝が事業形態を見直す前段階として、国が今後の原発事業をどうしていくのか、方向性を明確にする必要がある。さもなければ、東芝の持つ原子力事業や技術を将来にわたってどうしていくのか、より国の管理に近い事業体に変えていくのか。あるいは日立などに集約していくのか、議論が進まない。

ロシアによるウクライナへの侵攻で、原油価格が高騰を続けている。また、西側諸国がロシア産原油・ガスの輸入停止に踏み切れば、価格高騰だけでなく、エネルギー確保にも重大な支障を来しかねない。そんな中で、将来のあり方を議論することなく、原発へのなし崩し的な依存へと進んでいく可能性もある。そうなれば、東芝はまたしても国策に振り回されることになるかもしれない。

東日本大震災からまもなく11年。東芝の混乱は、日本の原子力政策の混乱を象徴していると言ってもいいだろう。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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