アサリ産地偽装 偽物売る流儀を – 毒蝮三太夫

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アサリの産地偽装問題発覚を受け、記者会見する熊本県の蒲島郁夫知事(共同通信社)

本物に対して、いかにもそれを本物らしく装ったものを「ニセモノ」「まがいもの」「パクリ」「偽装品」、関西のほうでは「パチモン」なんて言うよな。信用あるブランドを装って、実際は他所で作ったニセモノを売るのはれっきとした犯罪だからね。

しかし、世の中そういうウソが相変わらずはびこっている。摘発されても次々に出てくる。終わらないモグラ叩きみたいなもんだ。

最近世間を騒がせたのが熊本県産のアサリだ。いざ調べたら全国に出回っているほとんどが中国産だったんだろ。97%だっけ? ちょっとやり過ぎだよな。他にもデータが出てたよな。

編集部)――はい、農水省の調査によると、2021年10~12月の3ヶ月間に全国で販売された「熊本県産」表示のアサリは2485トン。2021年の1年間の熊本県でのアサリの推定漁獲量が35トン。つまり、3ヶ月で売られたアサリが1年間で獲れるアサリの70倍。単純に概算すれば1年間で売られた熊本産のアサリは、1年間で熊本で獲れた量の280倍です。

もう、呆れるしかないな(苦笑)。日本人って昔からアサリを食べてきたけど、アサリの需要と供給っていったいどうなってんだ?

編集部)――はい、国産アサリの漁獲量ですが1980年代頃はだいたい年間13万トンぐらいだったそうです。それをピークにして90年代から次第に減少し始め、2020年にはざっと4400トン。ピーク時から30分の1です。つまり、今や本物の国産アサリは稀少品になっていると…。

なるほど、国産はかなり少なくなってしまったのに、普通にスーパーで売っているのはおかしかったのか。そういえば去年の後半は、北海道の大規模な赤潮でウニが大量の被害にあって、全国にウニが出回らず、ウニが買えないとか、回転寿司からウニが消えたとかあったよな。ニュースで「ウニが不漁で不足です」って報道してたよ。そうすると、ああそうなんだなってウニの現状が理解できる。だけどアサリは「ただいま深刻なアサリ不足です」なんてあまり聞かなかったよ。

でも、関係者はデータを見れば明らかにおかしいってわかるよな。たぶん前々から気づいてたんだろうな。ホントはアサリ不足なのに、中国から輸入してきたものを国産扱いにしてごまかしてるって。中国産をそのまま売るより国産ってしたほうが売りやすいからそうしてるって。

だけど、中国産を国産だって言い切っちゃうのはまずいよ。ちょっとぼやかして「国産ふう」ってするとか、「国産風味」とか、もうちょっと言いようがあるだろ。それを堂々と「国産」って言い切っちゃダメだよ。

そんなウソがまかり通ったことで国産アサリを獲っていた漁師は、中国産といっしょくたにされてワリを食ったわけだろ。国産は国産、輸入品は輸入品できちんと扱って、どっちも本来あるべき価格で出回らないとまずいよ。俺は常々口にしてるけど、正直者がバカを見るような社会は絶対ダメ。ウソつきがまかり通る社会は絶対ダメだよ。今回を機に、まずは日本のアサリは少ないって現状をみんなが知って出直すしかないよ。

昔からあったパチモン商売

こういう、本物か本物じゃないかってのは昔っからあるんだよな。本物は価値がある。それをなんとか安く手に入れたい。そこで登場するのが本物もどきってやつだ。歴史的にその最たるものが「悪銭」とか「ニセ金」だよな。

俺の身近なところでは、ウルトラマンにはザラブ星人が変身したニセウルトラマンが登場したし、ウルトラセブンにはサロメ星人が作ったニセウルトラセブンが登場したよ。

あと、戦後によくあったのは衣類が「純毛」か「化繊」かって話だな。純毛は本物、化繊は純毛に比べたら格落ちの安物という位置づけだ。これを扱っていたのが映画「男はつらいよ」の寅さんみたいな啖呵売(たんかばい)だ。

寅さんは流ちょうな口上で客を集めて道端で物を売るだろ。「もののはじまりが一ならば、国のはじまりが大和の国、島のはじまりが淡路島、泥棒のはじまりが石川五右衛門なら、スケベエのはじまりがこのおじさん!」なんて言いながら。あんなふうにテンポよく啖呵を聴かせながら客を引き込んで物を売る。寅さんだと人相手相の本とか、傘とか、サンダルとか、正月は熊手とか破魔矢なんかの縁起物とかな。

最近はあまり見かけないけど、ああいう啖呵売で吊るしの背広とかズボンとか路上で売ってたんだよ。「さあお客さん、見てごらんよこのズボン、一流デパートの三越で買ったら1本が5千円はする品物だがそうは言わない。4千円でどうだ!3千円!2千円!えーい、今日は商売抜きだ、千円でどうだ、もってけドロボウ!」なんてね。

すると客が「それ純毛かい?」って聞いたりしてさ。すると啖呵売が「触ってごらんよこの手触り、正真正銘の純毛だよ。だけど雨の降った日に穿いちゃあいけないよ、半ズボンになっちゃう」なんてね(笑)。純毛じゃないってことをさらっと匂わせて笑わせるの。客もバカじゃないからさ、そんな安い値段のものが高い純毛だとは思わないよ。ワケありだって感づいている。どうして安いのかをわかった上で買うんだな。

そういう安いものを売る商いにはその道の流儀があるんだよ。暗黙のルールというのかな。それは本物だって言い切らないこと。言い切ったら詐欺だからね。だから時計だって「この時計、スイス製にも引けを取らない正確さだよ。一日つけてごらんよ、時間がピタリと二度は合う」なんて人を煙に巻くようなことを言ったりしてね(笑)。

叩き売りっていうのは前に置いた台を平たい棒きれみたいのでバンバン叩いて、それで道行く人の足を止めて話を聞かせるんだ。その大元を辿るとバナナなんだよ。明治の終わりから大正時代かな。モノは台湾バナナでね。当時のバナナは庶民には高級品だよ。これが台湾から船便で北九州の門司港に運ばれる。まだ熟してない青いバナナだ。それを程よく寝かせて熟し全国に運ぶ。売られる時にちょうど黄色く熟して甘くなってるという寸法だ。

だけど中には早く熟してしまったり、キズが付いてまともには扱えないキズモノも出てくる。こういうのをもったいないから少しでも早く金にしようってんで露天商に流す。それが叩き売りになっていった。だから門司がバナナの叩き売りの走りだって聞いたよ。なんでも門司には「バナナの叩き売り発祥の地」の記念碑が建ってるってね。

このバナナの叩き売りとか、落語にも出てくるガマの油売りとか、そういう「もの売り」「香具師(やし)」の口上、大道芸をネタにして、寄席や舞台で見せていた昭和の芸人が坂野比呂志さん。ずいぶん前にお亡くなりになったけど、当時はテレビにもよく出てたよ。

俺もガキの頃は、バナナの叩き売りに見入って買ったことがあった。台にバナナがひと房置かれて「さあどうだ、これが〇円だ!」って。その値段でバナナひと房買えたら安いもんだぞって思って、言われるままにポケットから小遣いの金を出したら、渡されたバナナは一本だった(苦笑)。向こうのほうが一枚うわ手。叩き売りの大人がガキを手玉にとってからかったようなもんだよ。こっちも出したお金はバナナ1本みたいな小銭だったけどね。

それで言うと、うちのおふくろ、たぬきババァは負けてなかったな。叩き売りだろうがなんだろうが、ああ言えばこう言い返すで張り合ってさ、まけさせるのがうまかったよ。

いずれにしてもワケありのモノを売る時には、昔からそれにのっとった売り方があるんだ。売るほうも買うほうもお互い様っていうようなね。それを隠してウソをつけば詐欺。熊本のアサリも一から出直して、アサリだけに砂もウソも全部吐き出して、アッサリ解決してほしいね(笑)。

(取材構成:松田健次) Source

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