プーチン氏と核兵器の「復活」

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米国や欧州連合(EU)は26日、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対し、最強の制裁ともいわれる国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークからロシアの一部銀行を排除する制裁を発表した。同時に、欧州の盟主ドイツは同日、ロシア軍の攻勢を受けるウクライナ政府軍へ対戦車ロケットや携行式地対空ミサイル「スティンガー」などの武器供給を決定した。同国にとって戦後から続いてきた紛争地への武器輸出禁止を覆す大決断だ。それに先立ち、ドイツは、米国や欧州の一部の強い要請を受けロシアの天然ガスをドイツに輸送する「ノルド・ストリーム2」の操業開始を中断する決定を下している。

ウクライナ武力侵攻を宣言するプーチン大統領(2022年2月24日)クレムリン公式サイトから

ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、米欧は少し時間がかかったが、「これまでになかった厳しい制裁」という宿題をやり遂げた。一方、ロシア軍はウクライナ侵攻から3日目の26日、首都キエフ近郊まで侵攻したが、ウクライナ政府軍の予想外の抵抗に遭って苦戦しているという外電が流れてきた。米国側の分析では、ロシアは対ウクライナ国境線沿いに集結させてきた兵力の50%を既に投入したという。その一方、プーチン大統領はウクライナ側に交渉のオファーを出したが、ゼレンスキー・ウクライナ大統領から拒否されたという。

以上、ロシア軍とウクライナを支援する米欧の対応を羅列すると、ウクライナ危機はいよいよ決定的な瞬間を迎えようとしているのではないか、といった予感がする。プーチン大統領が、侵攻したウクライナから無条件で撤退するとは考えられない。とすれば、ウクライナ政府軍の抵抗が強まり、米欧が対ロシア制裁で最強のカードを出してきた時、プーチン氏は核兵器を兵器庫から取り出し、使用する危険が高まってくるのではないか。プーチン氏はウクライナに武力侵攻を下す前、「いざとなれば核兵器の使用も辞さない」という姿勢を示唆していた。もちろん、敵に対する威嚇という意味合いが強かったが、ロシア軍の侵攻が止まり、苦戦するようだと状況は違ってくる。

ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏は、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器である核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切ったが、その「もはや価値のない武器」をプーチン氏が「使用できる武器」に復活させる可能性が考えられるのだ。

ロシア軍のウクライナ侵攻は第3次世界大戦の開始を告げる、と見る政治家、外交官がいるが、核兵器が実際の紛争で使用される「悪夢」は、皮肉にも、米欧の対ロシア制裁、欧州諸国のウクライナ政府軍への武器供給が進めば進むほど現実味を帯びてくるわけだ。実際、プーチン大統領は27日、核戦力部隊に緊急警戒態勢に入るように命じている。

その意味で、米国、北大西洋条約機構(NATO)はプーチン氏が核のボタンを押すような事態に陥らないようにこれまで以上に慎重に対応する必要がある一方、最悪のシナリオを予測し、その対応を準備することが重要だ。

ちなみに、ロシア軍がウクライナのチェルノブイリ原子力発電所のある地を制圧した。同時期、ウィ―ンの国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は24日、チェルノブイリ発電所から放射能などの流出はないとの報告を受け取ったと表明し、西側の不安を払しょくしたばかりだ。ロシア戦闘機の爆弾が不注意に同原発周辺に投下された場合の事態を想定し、IAEA側は警戒態勢を敷いている。IAEAは来月2日、ウクライナ情勢に関する緊急理事会(理事国35カ国)を開く予定だ。

プーチン氏が核兵器に手を出したならば、同氏は指導者として終わりとなり、国内からプーチン批判がこれまでにないほど高まってくることは必至だ。同時に、ロシアは長い間、国際社会から孤立を余儀なくされることは明らかだ。また、ロシアが核兵器を実践で使用したならば、他の独裁国家、強権国家にも影響を与えることは避けられない。その後の世界情勢はその前とは大きく異なってくるだろう。

なお、北朝鮮は27日、東方に向けて弾道ミサイルを発射した。今年に入り、8回目だ。金正恩総書記はバイデン米政権の出方次第では大陸弾道ミサイルや核実験の再開を示唆している。北朝鮮が7回目の核実験を実施し、同じ時期にプーチン氏が核のボタンを押すようだと、世界は文字通り、終末の様相を帯びてくる。人類の英知が今こそ問われている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。