日本は核武装できるの?

アゴラ 言論プラットフォーム

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ウクライナ情勢をめぐって「こういうことにならないように日本も核武装すべきだ」という話が出てきました。安倍元首相は核シェアリングという言葉を使って話題になっています。

Q1. 日本は核武装できるんですか?

憲法では戦争を放棄していますが、政府は1978年に真田法制局長官の見解としてこう表明しています。

自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法第九条第二項によっても禁止されておらず、したがって、右の限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項の禁ずるところではない。

つまり「自衛のための必要最小限度」であれば、核兵器も保有できるという立場です。

Q2. 国際的には核兵器を保有できるんでしょうか?

日本も結んだ核拡散防止条約(NPT)では、当時の核保有国(アメリカ・ソ連・イギリス・フランス・中国)以外の国が核兵器を保有することを禁じています。したがって日本政府が核武装するには、NPTを脱退するしかありません。これは日米安保条約も脱退しないといけないので、現実にはできません。

Q3. 核兵器の製造はどうなんですか?

1971年に行われた非核三原則という国会決議では、こう決めています。

政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守するとともに、沖縄返還時に適切なる手段をもって、核が沖縄に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである。

ここでは核を「持たず」だけではなく「作らず」と「持ち込ませず」を含めた3原則を宣言しています。これは法律ではなく、閣議決定もしていませんが、佐藤栄作首相は「非核三原則で平和に貢献した」という理由で、ノーベル平和賞を受賞しました。

Q4. 非核三原則はなぜ法律にしないんでしょうか?

それは「持ち込ませず」という原則が、実際には守られていなかったからです。1960年に日米安保条約を改正したとき、日本に核を配備する密約が口頭で行われ、それを前提に条約は改正されました。その後も沖縄の米軍基地にはずっと核兵器が配備されていました。

Q5. ではなぜ「持ち込ませず」という原則を決議したのですか?

それは沖縄などの国民感情に配慮したのでしょう。密約といっても、悪いことをしたわけではありません。核武装は安保条約で禁止していないので、別に秘密にする必要はなかったのです。

Q6. つまり核兵器をアメリカから持ち込むことはできるんですね?

安倍さんもいうように、アメリカは核兵器の共有は容認する方針です。現実にNATO諸国では、アメリカの保有する核兵器をたとえばドイツに配備し、ドイツと共同でコントロールする体制がとられています。これが核シェアリングです。

Q7. 具体的には何を持ち込むんでしょうか?

太平洋の戦略核兵器は、アメリカ西海岸の原子力潜水艦に搭載された弾道ミサイル(SLBM)とグアムの戦略爆撃機に搭載されていますが、これでは台湾や朝鮮半島で何か起こった場合に即応することがむずかしい。

NATOでは地上戦に使う小型ミサイルのような戦術核兵器を共有していますが、これは日本では意味がありません。戦略爆撃機に核ミサイルを搭載し、日本の米軍基地に配備するのが合理的でしょう。

Q8. 政府は核シェアリングを考えてるんでしょうか?

岸田首相は国会で「敵基地攻撃能力の選択肢に核兵器は含まれるか」という質問に「非核三原則はわが国の国是と認識している。核兵器を使用する、保有する選択肢はない」と答弁しました。

あれ?と思った人もいるのではないでしょうか。三つ目の「持ち込ませず」が抜けてますね。これは岸田さんが忘れたとは思えないので、わざと抜かしたんだと思います。つまり政府は核シェアリングの選択肢は残しているということでしょう。

Q9. これから日本で核シェアリングはできるんでしょうか?

技術的にはまったく問題ありません。アメリカも容認する方針です。核シェアリングはヨーロッパでもやっているので、NPTにも違反しません。非核三原則には、法的拘束力はありません。障害は国民感情というか、野党とマスコミが騒ぐだけです。

Q10. 日本で核武装は必要でしょうか?

野党は「日本が核武装しなかったら他国は核攻撃してこない」といっていますが、これは何の根拠もありません。現実に日本を守ってきたのはアメリカの核の傘ですが、ウクライナ情勢をみても、アメリカが他国への侵略に対して核兵器で報復することはむずかしい。

通常兵器では抑止力にならないこともわかりました。抑止力を強めるには日本がコントロールできる核兵器が必要だと思いますが、今から核兵器をつくる必要はありません。アメリカの核兵器を借りればいいのです。

中国と台湾の関係はロシアとウクライナによく似ています。今すぐさし迫った脅威があるとはいえませんが、同じような事態が起こる可能性はあります。安倍さんは「核兵器の議論をタブーにしてはいけない」といっていますが、彼が首相のとき議論してほしかったですね。