「クリエイティブは、エンゲージメントを獲得できるか否か」 : メディア・バイ・マザーのD・ゲインズ氏

DIGIDAY

メディア・バイ・マザー(Media by Mother)の創業者で、最高経営責任者(CEO)を務めるデイヴ・ゲインズ氏は、長年、持株会社(おもにWPP)傘下のエージェンシーで経験を積んできた業界の古参だ。同氏はこの1年、業界に大きな変化を迫るコロナ禍のただなかで、新たなメディアエージェンシーをゼロから立ち上げるという難しい課題を楽しんできた。

変容するメディア環境を背景に、ゲインズ氏は新しい形の創造性と、その創造性を表現するための人材探しに力を注いでいる。ゲインズ氏によると、新たに創業したメディア・バイ・マザーは、クリエイティブエージェンシーのマザー(Mother)から分派した独立系のメディアエージェンシーとして、なにかと要求の多い巨大企業ではなく、新しいタイプのクライアントを意図的に選んでいるという。

米DIGIDAYは、ゲインズ氏にインタビューをおこない、今日のメディア環境がもたらす課題とチャンスについて語ってもらった。なお、同氏の発言内容は、読みやすさを考慮して要約・編集している。

――メディア・バイ・マザーは最近、新規のクライアントを獲得したと聞いている。どのような企業か?

サウスダコタ州のプレミアバンクカード(Premier Bankcard)という企業だ。彼らはサブプライム(低所得・低信用者)層向けのクレジットカードを扱っている。正直なところ、当初はこの顧客層についてある種の先入観を持っていた。しかし蓋を開けてみれば、離婚や多額の医療費請求に直面して、信用スコアを落としてしまった人々の興味深くも悲しい話が山ほどあった。プレミアバンクカードは自分たちの顧客がすべて一時的な顧客であり、彼らを信用の世界に引き戻すことが自分たちの使命だと承知している。彼らはエージェンシーというものに馴染みがなく、我々の仕事についても、これは良い、これはだめといった先入観を持っていない。

幸いなことに、クラウドファンディングプラットフォームのゴーファンドミー(GoFundMe)と、アパレル販売のエヴァーレイン(Everlane)とも取引がある。幸いとはいっても、5000万ドル(約50億円)を超えるような仕事とはまったく縁がない。それはそれで嬉しいことだと思っている。

――この規模のクライアントの場合、仕事の内容は変わるのか?

運用で金を稼ぐことはしないと決めている。そのうえで、我々が顧客に代わってバイイングを設定する場合、サーチでもソーシャルでも、プログラマティックに買い付けできるメディアは必ずクライアントの名前で買い付ける。その買い付け先のアドテクを通じて予算を運用するのは我々のバイイングチームだが、アカウントの所有者はあくまでもクライアントだ。我々にとってのマイナス面があるとすれば、広告支出が我々のパイプを経由せず、クライアント名義でおこなわれるため、我々とGoogleやFacebookとのあいだに信用関係ができないことだが、それもたいしたマイナスとは考えていない。一方、メディアエージェンシーへの考え方を変えた。いまもメディアエージェンシーの仕事をしていることに変わりはなく、それはむしろコンサルタントの役割に近いのだが、そこには学びがある。パワーポイントの資料を見せて、「さあこの通りにやってくれ」というだけの存在ではない。

――メディアエージェンシーがコンサルタント寄りのサービスを提供する傾向は強まっている。この傾向について、メディア・バイ・マザーはどう考えるか?

この半年間に複数のクライアントと仕事をしたが、いずれのケースでも、メディアバイイングエージェンシーとして関与したわけではない。我々が担当したのは戦略立案と、取引先のメディアバイイングチームの運営だったが、我々のアナリティクスチームは、買い付けをおこなうプラットフォームにアクセスすることはできた。そのため、「オーディエンスの設定が正しくおこなわれていない」とか「ここはこうしたほうがよい」と助言することが可能だった。メディアバイイングエージェンシーの仕事をこちらに丸投げしたといえなくもないが、おかげで自ら戦略を実行し、「これがその戦略の成果だ」と示すことができた。買い付けだけをおこなうメディアエージェンシーに戦略の実行を任せたら、「我々の知ったことではない、我々が書いた戦略ではない、我々の仕事はバイイングだ」といわれていたかもしれない。というのも、彼らは戦略とはなんの関係もない、効率を測る指標で評価されるからだ。我々のエージェンシーでは、このような案件が増えている。

――その場合、従来とは異なる人材が必要になるのではないか?

インターネットの黎明期以来、その機能や仕組みに関するリテラシーが十分でないという問題は常にあった。ブランドビルディングに関するリテラシーはあっても、「それをデジタルエコシステムのなかでどう実行するか」となると、すべてがばらばらに切断されてしまう。

メディア・バイ・マザーでは、マザーとは異なるクリエイターが必要になるだろう。従来的なクリエイティブの制作プロセスでは、当初のアイデアをインターネットで通用するクリエイティブに変換することは難しい。多くの場合、そのアイデアはエンジニアか誰かに引き継がれ、バラバラに解体されてバナーやボタンに加工される。当然、見た目は最悪だ。しかもそれは引き算の産物でもある。小さい場所に押し込まれるたびに、どこかを切り詰めなければならないからだ。コンセプトを90秒のマニフェストにまとめることから始め、そこから引き算に引き算を重ねる。我々の提案はこれとは真逆だ。基本のアイデアを練って、そこから引き算するのではなく、足し算することを提案したい。当初のアイデアはシンプルに。そうすれば、ブランドの進むべき方向を示す北極星ともなるだろう。当然、このような文脈でより多くの仕事ができるクリエイターが必要になる。

個人的には、コピーライターの台頭を感じる。ミームはピカソのような芸術作品ではない。だがほんの24時間でいい。好き嫌いは別として、「いまネットで一番ホットなコンテンツはこれだ」と誰もが思うようなクリエイティブが必要なのだ。本に載る必要はない。要はエンゲージメントを獲得できるか否かだ。

――デジタルを理解し、今日のデジタルポップカルチャーの共通言語に通じた人材が必要ということか?

あるクリエイティブチームの制作過程をじっくり観察した。彼らは何百何千というコピーを書きまくり、最終的に「これだ」という1本を書きあげていた。それがポジショニングを決めるコピーとなる。ではボツになったコピーが99本あるとして、その99本を私がもらい受けよう。その99本があったからこそ、究極の1本にたどり着いたのだ。究極の1本に連なるものである限り、私がその99本を生かす道を考えよう。長々と配信するものではない。ほんの数カ月もてばよい。私が出会ったクリエイターで、このことをよく理解している者たちは、フォード(Ford)やリンカーン(Lincoln)のキャンペーンで原稿を書く人々とは根本的に異なる。

一方、クライアントにも従来とは異なる資質が求められる。クリエイティブを見て、「これでいこう」と即決するだけの胆力が必要だ。0.2秒で配信されるコンテンツの承認に、6週間もかけてはいられない。

[原文:Media Buying Briefing: Media by Mother’s Dave Gaines seeks out a new generation of talent to handle the ’90-second manifesto’

MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:小玉明依)

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