アメリカ・マサチューセッツ州で販売される2022年生のスバル車・起亜車に、音楽再生機能・ナビ機能・ロードサイドアシスタンス機能・衝突回避センサーなどが搭載されなくなったことが話題を呼んでいます。スバル・起亜の2社がこのような特殊な措置を講じたきっかけは、アメリカ全土で広がる「修理する権利」にあります。
Litigation Over Massachusetts’ “Right to Repair” Law Continues | Data Privacy + Cybersecurity Insider
https://www.dataprivacyandsecurityinsider.com/2022/02/litigation-over-massachusetts-right-to-repair-law-continues/
Subaru buyers caught up in right-to-repair fight over autos | AP News
https://apnews.com/article/technology-business-lifestyle-massachusetts-fecfbffa9ec4cbc4ff87e5c69592377a
「ディーラーからの忠告はありませんでした」と、新たにスバル「アセント」を購入したジョイ・テュークスベリー=パブスト氏は語ります。テュークスベリー=パブスト氏が以前に所有していた2019年モデルはリモートスタートとリモートロック機能が搭載されており、スマートフォンアプリからワイパー残量やタイヤの空気圧、走行距離を確認することも可能でした。しかし、新たに購入した2022年モデルには、通信システムを介してインターネットに接続してさまざまな関連サービスを利用できるようにする「テレマティクス」に紐付く機能は搭載されていません。
スバルと起亜がこのような特殊な車両を販売しだした理由は、アメリカで拡大している「修理する権利」に関連しています。修理する権利とは製造メーカーが修理を独占しているという現状を打破するために求められている権利のことで、メーカー側に修理情報の開示や修理用パーツの販売などを義務づけるものです。
修理する権利 – iFixit
https://jp.ifixit.com/Right-to-Repair/Intro
今回の舞台であるマサチューセッツ州では、電子部品へ誰でもアクセスできるようにすることをメーカーへ義務づける法律が2013年に制定されていましたが、各自動車メーカーから「車両データをメーカーにワイヤレスで送信する」といった機能をもつコネクテッドカー技術に対応する形で、2020年に「テレマティクスシステムのデータへのアクセス権を消費者と一般修理業者にも拡大すべし」という改正法案が提出され、賛成75%という圧倒的な有権者からの支持を受けて可決に至りました。
この法改正に強固に反対したのが自動車業界です。フォード・GM・トヨタ・スバル・起亜などが名を連ねる業界団体・自動車イノベーション協会は「テレマティクスシステムのデータへのアクセス権を拡大するというのはサイバーセキュリティ上の観点から危険である」「サードパーティの修理業者がテレマティクス・システムにアクセスすることを認めるならば知的財産権の観点から特定の安全機能を無効化せざるを得ず、その結果として連邦安全基準に違反することを余儀なくされる可能性がある」と訴訟を開始しています。
修理する権利がアメリカで推進されている背景には、「メーカー側の修理の独占」の問題があります。スマートフォンに代表されるように、メーカーが修理に必要なパーツや修理方法などを独占しているならば、修理料金を不当につり上げることが可能です。2021年7月に修理する権利に向けた規則立案を連邦取引委員会に指示したバイデン大統領は、2022年1月に「修理する権利を否定することは、市場価格を釣り上げ、独立系修理ショップがビジネス競争で勝ち残れる機会を奪ってしまいます」と修理する権利の意義を改めて強調しています。
バイデン大統領は”修理する権利”の支持を明言しています。 | iFixit ニュース
https://jp.ifixit.com/News/56850/バイデン大統領は修理する権利の支持を明言し
しかし、前述のように自動車業界としてはテレマティクスシステムのデータを広く公開するというのは受け入れられないという認識です。そして、双方の要求に矛盾しない解決策としてスバルと起亜が実行したのが「車両からテレマティクスシステム関連の機能を除去する」という苦肉の策なわけです。
このようなスバルと起亜の対応について、苦境に立たされているのが自動車ディーラーです。マサチューセッツ州の属するニューイングランド地方はアメリカ国内でも特に雪深いエリアとして知られており、雪道に強いスバルは同州でも広く愛されているメーカーでしたが、テレマティクスシステム関連機能の消滅によってディーラーには多数の苦情が届いている状況とのこと。そして誰よりも被害を受けているのが、新車購入時にこうした事情について通告されなかった消費者で、前述のテュークスベリー=パブスト氏は「スバルの対応は、ボール遊びが自分の思い通りにならないときにボールを勝手に持って帰ってしまう子どものようです」と強く非難しています。
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