世界最大の核融合炉「ITER」の建設が進むなど、核融合は未来のエネルギー源として大きく期待されています。ITERに代表されるトカマク型核融合炉は強力な磁気で超高温のプラズマを閉じ込める仕組みとなっており、臨機応変に核融合炉の磁気を調整する必要があります。Googleの姉妹企業で人工知能(AI)開発を行うDeepMindが、トレーニングを重ねたAIによってトカマク型核融合炉の磁気制御を行うことに成功したと発表しました。
Magnetic control of tokamak plasmas through deep reinforcement learning | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-021-04301-9
Latest success from Google’s AI group: Controlling a fusion reactor | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2022/02/latest-success-from-googles-ai-group-controlling-a-fusion-reactor/
トカマク型核融合炉のネックとなるのは、その制御ソフトウェアの開発です。制御ソフトウェアは炉ごとに合わせて設計されなければならない上に、「刻一刻と変化する超高温のプラズマをセンサーで読み取り、その状態をモデル化し、制御して維持する」ことが求められます。そのため、制御ソフトウェアの汎用性は非常に低く、核融合炉内のプラズマの形状を大きく変えたい場合は大幅な修正が必要になることもあります。
そこで、より汎用性の高い制御ソフトウェアの開発のために、AI技術の応用が期待されていました。AIに核融合炉の制御方法を学習させれば、制御ソフトウェアをことあるごとに修正しなくても、研究者はさまざまなプラズマの構成で研究を行えるというわけです。そこで、DeepMindのチームが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のスイス・プラズマ・センターで核融合制御AIの開発に乗り出しました。
ただし、いきなり本物の核融合炉でトレーニングを行うのは非常に危険なので、まずはスイス・プラズマ・センターの核融合炉を再現したシミュレーターを使い、シミュレーター上で不正確な結果を叩き出さずにプラズマを制御するようにAIをトレーニングしました。効率良く制御方法を学習するため、核融合炉の磁気を変化させて期待される結果を出力した時に報酬を受け取る「Critic(批評家)」というアルゴリズムがAIに組み込まれました。
トレーニングが終了した後、実際の核融合炉をまず通常の制御ソフトウェアで高エネルギー状態にもっていき、AIに炉の制御を委ねました。すると、AIがほぼ思い通りに動作することができました。ある実験では、エネルギーを上げてプラズマを安定させた後、プラズマの形状を変えてエネルギーを下げることに成功。また、1つの炉の中で構造の異なるプラズマを同時に2つ維持する実験も行われたとのこと。
研究チームは、これまでのように核融合炉を基準にしてソフトウェアを開発するのではなく、「AIによって望ましいプラズマを構築できるような核融合炉を実現する」というソフトウェア先行の研究スキームを提案しています。また、既に開発済みの核融合炉でも、その性能を最適化することが期待できると研究チームは述べています。
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