元経産省官僚の宇佐美典也さんに「私が○○を××な理由」を、参考になる書籍を紹介しながら綴ってもらう連載。第25回のテーマは、Twitter上で「ヒトラー」に例えられたことで話題となっている元大阪市長の橋下徹氏の評価について。宇佐美さん自身は、主張の鋭さや痛快な弁舌を評価しつつも、どこか「苦手」に感じているといいます。その理由を探ってもらいました。
私が橋下徹さんを超有能だと思うが苦手な理由
共同通信社
かつて日本維新の会の代表を務めた橋下徹元大阪市長や維新の会関係者をヒトラーに例えた発言をめぐって、議論が紛糾している。
きっかけとなった発言というのは、菅直人元首相が橋下氏らをその弁舌の巧みさから「ヒットラーを思い起こす」と評したツイートである。
その発言に維新の関係者が反発し、立憲民主党や菅氏本人に抗議を重ねた。菅氏は一言「すまん、言いすぎた」とでも言っておけばよかったものの、「謝罪することはありえない」などと強弁してしまった。結果、議論は「ヒトラーに例える表現自体が適切かどうか」などという方向に無駄に発展し、蓮舫議員も首を突っ込み始めるなど立憲民主党と維新の争いとして泥沼化している。
できれば政治家にはいい大人として子どもの見本となるように、過激な表現を咎められたら謝って、謝られたら許すという姿を示して欲しいものなのだが、まぁあれくらい歳を取った大人というのは注意してくれる人がいないので案外子どもよりも子どもなのかもしれない。ともあれ、他人のしょうもない喧嘩というものは見ている分には楽しい。
いきなり毒を吐いてしまったが、橋下氏に関しては「主張の切れ味が抜群で快刀乱麻を断つような弁舌」にしばしば痛快さを覚えることがある一方、「態度や物言いが攻撃的」なところは私自身苦手にも感じている。今回はせっかくの機会なので、「橋下徹」という人物をどう評価するか改めて考えてみようという気になった。ということで橋下氏の著した「実行力」という本を手に取り、騒動を肴に一読してみる。
「反対派をそばに置く」橋下氏のマネジメント術
結論から言えば、この本は橋下氏ならではの実務経験に基づく、組織のマネジメント術に関して端的にまとめられた極めて真っ当な良本である。例えばどういうことが書かれているかというと以下のような具合だ。
・ どれだけ怒っても人は動かない。「最後は人事権がある」と思って、部下をむやみに怒ったりせず静かに対応した方がいい
・ 反対派は、あえて積極的にそばにおくこと。反対意見を取り入れて修正すると「より良い案」になる
・ 「最後は従う」を守ってもらうと、多様な意見を取り入れられる。反対意見を聞いた上での決定は、反対者の不安を和らげ、適度な修正がかかってその後の運営がうまくいくことが多い
・ 人間関係や好き嫌いでチーム内の人事を決めていくと、そうした姿勢は必ず部下や組織に伝わるし、本当に実行力のある組織は作れない
・ 部下が言ってることに乗っかっているだけのトップでは意味がない
・ リーダーが現場の実務の細かなことに口出しをすると大概失敗する
・ リーダーの仕事は、部下が気づかない大きな問題点を見つけること
・ これまでのチームのメンバーが、絶対にできなかったことをやる。それがリーダーと部下の信頼関係の土台
・ 組織は口で言っても動かないが、何かを実現させるとメンバーの意識が劇的に変わる
橋下氏のリーダーとしての信条が、大阪府の財政再建、大阪城公園でのモトクロス大会、大戸川ダム建設計画の見直し、公務員の再就職規制の見直し、といった実績とともに説得力をもって語られている。
菅氏は「弁舌の巧みさ」に限って例えているとはいえ、上記を見ていただければ分かるように、その信条に“ヒットラー”的な、議会制民主主義を全面否定し、全体主義/民族差別を全面肯定した要素というものは全く感じない。むしろ民主主義社会を前提として、その中でどのようにリーダーシップを発揮するか、という観点からのマネジメント手法が実例とともに再三述べられている。
私は大阪府民ではないので、言葉だけでしかこうした情報を受け止められないのだが、実際に政治が変わっていく様子を実感した多数の大阪府民にとっては説得力が抜群で、未だに橋下氏の熱狂的な支持者が多いのも理解できるところである。またこういう橋下氏の考えを知ると、彼がいつも挑戦的な態度で激しい言葉を使うのも多少は理解できるような気がしてきた。