「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです
「人の追跡を想定していない」と聞いていたAppleのAirTagを、まさかの人(子ども)の追跡用に購入した。
きっかけは、筆者の3歳の子どもが勝手に家を出て近所で行方不明になったことだ。中学のマラソン大会以来、あんなに全力で走ったことはないし(たぶん)、持てる声帯のポテンシャルを全開放して子どもの名前を叫んで探した。幸い、20分という短い時間で保護されていた我が子を発見できたが、人生で一番生きた心地がしなかった。
筆者には5歳の息子と3歳の娘がいるのだが、前々から我が子らの自由奔放さに困らされてきた。恐怖心というものを残念ながら持ちあわせておらず、親の手は絶対につながないという確固たるポリシーをお持ちの我が子らは、繁華街に行けば消え、広い公園では消え、狭い公園ですらも消える。世が世なら立派な忍者になっただろう。
子どもの見守り用GPSというものは市場にいくつかある。筆者もGPS BoTという製品を使ってみたことがあるのだが、あれは非常に正確で、しっかりと常に位置が把握できる優れものだった。しかし、冬でも着こんだもの全てを道路に投げ捨てTシャツ1枚で「雷の呼吸」とか言いながら全速力で走って消える5歳児と、ポケットの中にはどんぐりしか入れたくないとおっしゃる3歳児に持たせるには存在感がありすぎる。
このままではただでさえか弱い筆者の心臓が持たないので、3歳児が行方不明になったことをきっかけに、限りなく小さくそして当人が邪魔だと思わないもので、親が彼らの位置をざっと把握できるものは何かないのかとネットで探し回った。10分くらいだが。そこで発見したのが、この記事だ。
AirTagが発表された際、「人の追跡を想定していない」と書かれた記事を読んでいたので、実際に子どもの見守りに使っている人がいるとは思っていなかった。しかし、検索してみるとかなりの人が子どもの見守りに使えるかを検証していて驚いた。
検証記事の結論は様々だった。結局誰かのiPhoneが近くにないと探せないので、広い公園や山の中などでいなくなった時は意味がないようだが、人がそこそこいる場所では割と役に立つようだ。しかし、こちらの記事には「ショッピングモールへの人出が多い休日で、iPhoneユーザーが多いと期待したのにもかかわらず、まったく検出されなかった」という記載がある。
うーーーーーーーーーん。
……まあ、1個3,800円だし。月額費用もかからないし。大雑把な位置さえ分かればいいし。子どもの追跡に使えないなら財布にでも入れておけばいいし。と思い、筆者のiPhoneに入っているApple Storeのアプリからポチった。
発注からおよそ6日で刻印入りのAirTag到着
筆者がAirTagを注文したのは12月15日だったのだが、Appleからの注文確認メールには「出荷日:1営業日」と書かれていたので週末には届くのかと思いきや、同じメールに「お届け予定日:12月21日」とも書かれてある。実際に届いたのは12月21日だったので、「出荷日:1営業日」の記述は一体何なのか分からないが、ここに必要な情報でないのはよく分かる。
そんなことはとりあえずまあいいとして、届いたので実物の大きさや厚みなどを確認したい。
大きさは、500円玉と同じくらいで、厚みは缶バッジくらいだった。
子どものジャケットに置いてみた画像。サイズは110(4~5歳児用の服)でこのくらいの大きさなので、大人だと気にならない大きさでも、小さい子供にとってはなかなかの存在感であることが分かる。
さて、自由を好む子どもにどうやって装着させるのが良いのか
一番いいのは靴だ。靴であれば服のように暑いからと脱ぎ捨てることもないし、落とすこともないし、ポケットに入れたAirTagに気づいた3歳児が捨てることもない。しかし子どもの靴につけるにはAirTagは大きすぎるし、縫い付けるとしても「今日はスパイダーマンの気分だから赤の靴~♪」とか言いながら靴をしょっちゅう履き替える我が子には向いていない。
外出時だけに限るなら、ペンダントやバッジのようなものが良いと思われる。ペンダントなら首からかけるだけだし、バッジならTシャツの裾の部分にでも付けられる。しかし、そもそもAirTagは「人の追跡を想定していない」ものであり、そんな都合の良いAirTagケースなど市場にないので、装着させるとなると子どもにとって魅力的なものを自作するしかない。面倒だな!!!
しかも、子どもは自分の装着しているものに何かが入っていると絶対に取り出したくなるはずなので、取り出されないようにそこそこの強度を保ちつつAirTagの通信の邪魔にならないものを作らなければならない。……面倒だな!!!(2回目)
自作するとなると色々面倒(3回目)なので、まずは「人(子ども)の追跡に使えるか」を試してみたい。試したうえで使えそうならば、持てる創造力をフル発揮して自作してやろうじゃないか……(震え声)。
はたして迷子の追跡に使えるシロモノであるのか
実際にどうだったのか、検証を行なってみた。とりあえずは子ども達のジャケットのポケットにこっそり入れて子ども達と行動を共にしてみた。
人と人との距離が遠い広い公園では意味がないと先ほど書いたが、人との距離が比較的近い狭い公園ではどうか。検証する予定はなかったが、そこそこ人のいる狭い公園で3歳の娘がいつも通り消え、「まじかよ! どこに行ったんだもう!」とオタオタと探していた時「そういえばAirTagをしのばせていた」ということを思い出し、iPhoneの「探す」アプリを開いた。
このオバケの絵文字が、消えた3歳のジャケットに忍ばせたAirTagに設定した絵文字だ。このオバケの位置で、AirTagの位置が分かる。写真内では公園のど真ん中を示しているが、それは筆者が3歳と最後にボールで遊んだ位置だった。最後に感知したiPhoneが筆者のiPhoneだったのだろう。
公園内に約5名、公園の周りにはウォーキングや井戸端会議や掃除を行なう複数の大人がいたが、誰もiPhoneを持っていないのか、3歳のAirTagに近い人間がいなかったのか、AirTagが示す位置が変わることはなかった。ちなみに子どもは公園の裏の階段(公園からは見えない)で昇り降りしながら遊んでいた。
保身のために書いておくが、筆者が子どもをちゃんと見ていなかったから消えたわけではなく、だいたい5歳息子が北に向かって走っていったら3歳娘が南に向かって走っていく感じなので、より危険な方向に向かった方の行動を注視したり追いかけて止めていたりしたら、その隙にもう一方が視界から消えるのがチョロる子どもを複数持つ親の日常だ。どちらもきちんと行動と位置の把握をしようと思ったら、追加の目玉もしくは追加の自分が必要である。
そもそも動くものを追跡できるのか
次に、iPhoneを持つ家人に子どもたちを幼稚園に送ってもらう際、AirTagがアプリ上でどう動くのかを見てみた。以下の写真が、家を出る時のAirTagの位置。次の写真が、次にAirTagが示した場所だ。ちなみに次の写真は子どもの幼稚園だ。つまり、移動している間(約10分間)はiPhoneを持つ人間が近くにいても全くAirTagが機能していなかったことになる。
人の多い場所ではどうか
幼稚園の送迎は車で行なっているので、人が多くて徒歩で移動する場所であればもしかしたら追跡できるかも、と思い、ららぽーとにでも行こうかと考えたが、ららぽーとのようなショッピングモールは複数階層あるのでおそらく正確な位置なんか分からないだろうなーと思っていたら、家人が「オムツを買いたいからコストコに行きたい」と言い出した。そうだコストコだ。週末のコストコはとんでもない人手な上、階層は1階のみ。そして子どもが消える率ほぼ100%で、こんな最適な検証場所はない。
保身のために書いておくが、この記事の検証のために人の多いところで子どもから目を離したわけではないし、毎回コストコで子どもを自由にさせているわけでもない。毎回毎回コストコに入る前に「走らない」、「手を離さない」と約束をさせているが、「はいっ!」という元気な返事をしたくせに入った瞬間に全力で雷の呼吸を使われるのが親の言うことを秒で忘れる子どもを持つ親の日常だ。
さて、肝心のコストコでの検証結果が以下の写真だ。もう一度言っておくが、この記事のためにわざと子どもを野放しにしたわけではない。
……ですよね!!
施設のフロアマップのような詳細な地図上に位置が出ると思っていた方が間違いだ。
一応、他の人のiPhoneを認識はしているようで、筆者のいる場所から離れた場所で認識はされていた。しかしもはや「とりあえず施設内にいる」ということしか分からない。ちなみに子どもたちは無事オモチャのコーナーで捕獲した。そのくらいAirTagがなくても分かる。
それにしても、設定した自分が悪いのだが、追跡がきちんとできなかった時にこのオバケの絵文字を見るととてもカンに障るので、絵文字はカンに障らないものを選んでおくことをおススメする。
チョロチョロと動く生物にはAirTagは向いていない
結論としては、「迷子追跡装置」としては使えないことがよく分かった。しかし迷子ならまだしも、親として一番心配なのが「連れ去り」であることは間違いない。連れ去り犯がiPhoneを持っていなければ意味はないが、もし持っていたり、彼/彼女らの近くにiPhoneユーザーがいて、AirTagに気づかなければ短時間で確実に見つけることができる。何も持たせていなければ、短時間で見つけることはまず不可能なので、ある程度条件が限られているものの、この「条件がそろえば短時間で確実に」という部分が親側に大きな安心を与えると思われる。
要は「お守り」程度の役目だが、ないよりは心配がある程度減るし、もし活躍したらそれはそれでよい事だ。まあもちろん、そんな事態が起きないようにすることの方が重要だが、不測の事態というのはなにをどうしても起きる時には起きるものだ。
恐らく、この製品を見守りに使う場合は「携帯はまだ持たせられないけれど、家から学校/友達の家/公園/習い事など1人で行けるようになった小学生」くらいがベストだと思われる。学校や友達の家や、自宅に帰ったかなど、ある程度決まった場所で一定時間滞在していれば使えるはずだ。
だが、いずれにせよ近くに誰かのiPhoneがないといけないし、ついでに「自宅に帰ったか」を把握する場合、結局iPhoneを持った人間(近親者)が自宅にいるわけなので、わざわざAirTagで子どもの安否確認をする必要はない。さらに言えば、1人で行動できるくらいの年齢の子どもならば、先ほども話題に出したGPS BoTのような確実にGPSで追跡できる少し大きめの装置を持てるので、AirTagのようなものを持たせる必要はない。
しかし、3,800円という安価で充電の必要もなく(電池交換が1年に1回くらい必要らしいが)、しかも月額料金がかからないという点を考えると経済的だし、細かい追跡まで求めていないというのであればAirTagで十分だ。
とりあえず筆者は、喫緊の目的である「迷子追跡」には使えないことが分かったので、連れ去りに対する安心材料としてAirTagを持たせつつ、その他迷子追跡が可能なソリューションを引き続き探し求めることにした。……とか言ってるうちに子どもが大きくなってそのようなものが必要なくなりそうな予感がするが……。
というわけで、面倒だけど(4回目)、これからAirTagを子どもに持たせられるようバッジやペンダントを自作する。案の定ジャケットに忍ばせておいた間、何度も何度もポケットから出され、家の中を探し回った。いくら10m以内にあればどこにあるかが見つけられるとはいえ、ガラクタが雑多に入ったおもちゃ箱や、無数にある子供用のゲームやパズルの箱の中から見つけ出すのは、なかなか骨が折れたし心も折れた。
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