ミサイル実験を繰り返す北の狙い – 舛添要一

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 北朝鮮は、今年になってから、1月5日と11日には極超音速ミサイルを、14,17,27日には短距離弾道ミサイルを、25日には巡航ミサイルを発射しており、30日には中距離弾道ミサイル「火星12」を日本海に向けて発射した。

 最高高度2000㎞のロフテッド軌道での発射で、通常軌道の場合は射程が5000㎞に及び、グアムを攻撃できる。2017年5月には、同じ「火星12」をロフテッド軌道で発射している。

 この連続したミサイル発射の狙いは何なのか。金正恩政権の最大の目的は、今の独裁体制の維持である。それは、祖父の金日成、父の金正日以来変わっていない。21世紀にもなって世界でも希有な独裁体制(金王朝)を継続させるためには、世界最強国で人権、民主主義、反独裁の旗手、アメリカからの攻撃を抑止する能力を持つことが不可欠である。それはアメリカを核攻撃することのできる軍事力を持つことしかない。

 具体的には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)である。前者は「火星14」、「火星15」であり、後者は「北極星3」であり、全てロフテッド軌道で発射した実績がある。

 2018年4月には、金正恩は核実験とICBM発射の中止を宣言し、その後、4,5月には板門店で南北首脳会談、6月にはシンガポールで米朝首脳会談が開かれている。しかし、経済制裁の緩和や経済支援といった成果を得ることはできず、今日に至っている。

 今回の「火星12」の発射は、核実験やICBMの実験再開への序幕となるのかもしれない。5年前には、8,9月に「火星12」を通常軌道で発射し、日本上空を通過させている。また、同年9月には6回目の核実験を行い、11月には「火星15」を発射している。

 相次ぐ北朝鮮のミサイル実験に対して、今の日本の弾道ミサイル防衛(BMD)体制では十分に対応できないことが露呈している。ロフテッド軌道でも極超音速ミサイルでも迎撃は困難である。敵基地攻撃能力を保有することも1つの手段であるが、それで日本の防衛が十分になるわけではない。たとえば、鉄道を使った移動式のミサイル発射システムに対しては、ピンポイントで攻撃することは容易ではない。

 日本もアメリカの核抑止力に頼るしかないのである。北朝鮮が同盟国日本を核攻撃すれば、必ずアメ
リカから核の反撃を受けるという確証が必要である。

 2017年のときには、アメリカのトランプ政権は強い調子で北朝鮮を非難し、それが核実験やICBM発射を中断する金正恩の決定に、そして米朝首脳会談に繋がってる。しかし、バイデン政権はウクライナ問題や米中関係とりわけ台湾問題に勢力を集中しており、北朝鮮問題の優先度は低い。

 中朝間の鉄路による貿易を再開させた中国の習近平政権は、今は北京五輪を成功させることに集中しており、北朝鮮に影響力を行使するような余裕はない。

 バイデン政権は、昨年8月のアフガニスタンからの撤退に始まり、中国との対立、ウクライナ問題と、外交防衛上は大きな成果を上げていない。

 日本としては、アメリカのみならず、ヨーロッパ諸国、ロシア、中国とも対話の道を模索し、北朝鮮との外交的チャンネルを確立する努力を放棄してはならない。多角的外交と自らの防衛力整備が不可欠である。