強盗被害のAV女優 犯人へエール – 阿曽山大噴火

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強盗被害について、涙ながらに話す女優の里美ゆりあさん(共同通信社)

裁判傍聴芸人の阿曽山大噴火です。今回傍聴したのは1月17日から東京地裁で行われた伊藤浩寿被告人(22)の住居侵入と強盗致傷の裁判員裁判。東京都目黒区のタワーマンションの女性宅に宅配業者を装った男2人が押し入って現金600万円を強奪した事件で、指示役が逮捕されたと報じられた事件の初公判になります。

被害女性がセクシー女優の里美ゆりあさんという著名な人物というのも話題になり、里美さんが顔出しでニュース番組や週刊誌の取材を受けて被害を伝えるというのも従来にはない事件の報道パターンで、2020年10月当時はかなり注目を集めていました。そして事件から3ヶ月後、指示役と報じられた被告人が逮捕された頃にはあまり騒がれなかったかなという印象ですかね。

まずは1月17日の初公判。
開廷時間の30分以上前から法廷の入り口には行列ができ、法廷のドアが開いてスタート時刻になると傍聴席は満席。事件から時間は経っていても、それなりの注目度の高さがうかがえます。

起訴されたのは2件。1つ目は、2020年10月26日に伊藤被告人が共犯者4人と共謀し、被害女性の部屋に入った件。2つ目は、目黒区内のマンション1階で共犯のAとCが被害女性に対して佐川急便の宅配を装いエントランスのドアを開けさせて部屋に侵入し、AとCが「1億脱税してんでしょ?回収しに来た」「これ以上抵抗すると手を出さなきゃいけなくなる」などと被害女性を脅して現金600万円を奪い、被害女性に加療2週間の怪我を負わせた件です。

逮捕当時は否認していると報じられてましたが、罪状認否で被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、2020年10月19日に被告人は少年院で知り合った友人のカザミ(法廷では実名でしたが、被告人より年下で未成年者っぽいので仮名)から「タタキの仕事がある。資産家の女が脱税してるので回収する内容。脱税の金なので通報はされないし、逮捕もされない。3人用意して欲しい」と強盗を持ちかけられたといいます。

そこで被告人は未成年の悪友であるAに連絡をすると、すぐにAは友人のBとCを勧誘。AとCが被害女性の部屋に入ってお金を奪う役、Bが運転手役に決まったそうです。被告人は実行犯ではなく、カザミからの命令を共犯者3人に伝達する役割を担うことに。ちなみに被告人も共犯者ABCも被害女性とは面識がないとのこと。

犯行2日前の10月24日には、カザミから千葉県内の公園のトイレ内に佐川急便の制服を用意したと連絡があり、被告人は共犯AとBに制服を回収しに行くよう伝達したそうです。さらにカザミから追加で、神奈川県内に犯行当日使う車を用意したので取りに行けと連絡があり、AとBが車を取りに行ったと。

そして犯行当日の10月26日。
1時35分に共犯者が千葉のドン・キホーテでガムテープ、結束バンド、黒手袋2つ、タトゥー隠しシール、ズボンを購入し犯行に使う道具を準備したとのことで、10時過ぎにBが運転する車が現場近くに到着。被告人と共犯者Aは電話を繋いだままの状態にして、犯行を開始しました。

10時22分に私服のダウンを着たAと佐川急便の制服姿のCが現場のタワーマンション1階ロビーで、インターホンを鳴らして「佐川急便です」と名乗り、被害女性にオートロックを解錠させたと。

AとCは被害女性宅のある階に上がり、被害女性がドアを開けたスキに部屋に入ると「1億脱税してんでしょ?」「オレら上から言われて回収に来てるから」と脅したといいます。Aは逃げようとする被害女性の手首をつかんでリビングの方に引っ張り転倒させ、この時に怪我を負わせたらしいのです。

AとCは部屋中を物色してクローゼットから250万円が入った封筒1つ、100万円が入った封筒1つ、手さげ金庫から250万円を発見。さらに新宿に住んでる知人の住所を聞き出して鍵を持ってないかを被害女性に確認したのだとか。

その頃、被告人は被害女性宅に1億円がなかったことをカザミに報告すると「後で内通者が助けに来るから、被害女性を縛っておけ」と指示を受けたそうで、被告人がAとBとCにそのことを伝えると3人は指示を待たずに勝手に現場を離れ、お金の受け渡し場所の山梨県に向かっていたといいます。

さらにAとBとCは受け渡し場所に向かう途中で被告人と連絡を取っていたスマホを湖に投棄。その後指定されていた公園で誰かにお金を渡し、その日の夕方に職務質問を受けたAとBとCは逮捕。被告人は湖から見つかったスマホを元に2021年1月19日に逮捕されたというのが事件の流れになります。

ニュースでは指示役が逮捕されたと伝えられていましたけど、被告人はカザミからの指示を実行犯3人に伝える伝達役みたいな役割ですよね。指示役と言われると組織のトップの雰囲気があるけど、被告人はあくまで仲介役。被告人の上にも人がいて被告人を動かしていたという訳です。

ちなみに共犯者はすでに処分を受けていて、Aは懲役3年以上6年以下という不定期刑の判決、BとCは少年院送致。カザミは現在も逃走中だそうです。

遅刻に変装なし 被告人の計画通りに動かない共犯者たち

写真AC

冒頭陳述が終わると、証言台の周りに衝立が設置されて共犯者Aの証人尋問の準備。この時点で被害女性も法廷にやって来て、衝立の向こうにいるAに会釈してから検察官の隣に着席です。

検察官「なぜこのタワーマンションに入ることになったんですか?」
共犯者A「被告人から強盗をやって欲しいと電話があったので」
検察官「なんて言われたんですか?」
共犯者A「3人集めて、資産家の女から脱税した1億円を取ってきて、と」

その誘いをすぐに了承したそうです。お菓子の買い出しでも頼まれてるかのような軽い印象を受けますね。

検察官「犯行当日ですけど、Bが朝6時に車で家に迎えに来たと?」
共犯者A「はい」
検察官「現場には何時に行くように言われてたんですか?」
共犯者A「9時です」
検察官「マンションには9時に着けそうでした?」
共犯者A「いいえ。渋滞で…」
検察官「被告人に遅れることを伝えるとどうでした?」
共犯者A「イライラしてました」
検察官「結局着いたのは何時頃?」
共犯者A「10時過ぎ…」

指定された時間に1時間以上も遅れての到着という、最初から緊張感のないグダグダな犯行だったようです。

検察官「犯行後のことを訊きます。お金を奪って車を走らせている時に被告人からどんなやり取りがありました?」
共犯者A「お金ないから出てきちゃいましたと伝えると『被害女性を縛ったか?』と訊かれて、縛らずに出て来た答えると戻って縛るように言われました」
検察官「実際タワーマンションには戻った?」
共犯者A「マンションの前までです。すでに警察がいて、職質されそうになったので走りました」
検察官「それで受け渡し場所の山梨の方に向かった訳ですね。その車を走らせてる時、被告人から奪った金額を訊かれていくらって答えました?」
共犯者A「286万円ありました、と」
検察官「なぜウソを言ったんですか?」
共犯者A「被告人に全部持っていかれると思ったので」
検察官「元々取り分はいくらって言われてたんですか?」
共犯者A「1億円の25%です」
検察官「それはあなた方メンバー全員で2500万円?」
共犯者A「はい」

強奪金1億円の予定が600万円だった時点で共犯者Aらは報酬が少なくなると考えて、被告人には過小報告していたようです。

検察官「元々被害女性を縛るように言われていたのに縛らなかった理由は?」
共犯者A「可哀想だなぁと思って」
検察官「Cは佐川急便の制服姿なのに、あなたが私服だったのはなぜですか?」
共犯者A「佐川の制服に合うズボンがなくて」
検察官「あと、なんでケータイを湖に捨てたんですか?誰かの指示?」
共犯者A「捕まったら被告人とのやり取りが全部見られるなと思って咄嗟に」

勝手な行動ばかりしているんですよね。犯罪をちゃんと計画通りやれと言うのは変だけど、遅刻するし制服着ないし縛らないし。全員で一丸となって目標を達成しようという協調性が全くない共犯者だったようです。

続いて弁護人からの質問。
弁護人「カザミが関わってるのはいつ知りました?」
共犯者A「逃げた後に被告人から伝えられました」
弁護人「被告人が1人で計画したものではないと思ったのはいつですか?」
共犯者A「車を回収する時に思っていました。川崎市に車が置いてあったし、(被告人が)免許を持っていないと思ってたので」
弁護人「奪った金は山梨で上の人に渡してと言われていたんですか?」
共犯者A「上って言ってたかは忘れましたが、山梨で渡してって」
弁護人「もし失敗したらオレらの責任にされるって言われました?」
共犯者A「あ〜…言ってましたね」

共犯者たちは被告人の上には指示を出す人がいるようだと勘付いていたようです。

弁護人「600万円盗って、被告人には286万円って伝えたのはちょろまかそうと思ったからですか?」
共犯者A「そうですね」
弁護人「そんなことがバレたら殺されるとか考えませんでした?」
共犯者A「そこまでは考えなかったですね」
弁護人「あと、あなたは佐川の制服を着なかったと。それも怒られると思いませんでした?」
共犯者A「ん〜…バレようなくない?って思ってました」
弁護人「犯行の時にモデルガンを持って行ってますけど、これは誰の指示?」
共犯者A「ボクが考えました、何かに使えるかなと思って」
弁護人「この犯行は被告人に無理矢理やらされてると思ってましたか?」
共犯者A「命令がちょくちょくあったので半々くらいですね」

年齢差はあるけど特に上下関係と呼ぶ程のものはなく、共犯者は指示なしでも勝手に行動していたんだと弁護人としてはアピールしたいようです。確かに被告人の意思で指示を出していた感じではないし、共犯者たちも計画にない勝手な行動は多め。被告人がリーダーという印象はちょっと薄いですかね。

初公判はこれで閉廷です。

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