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Amazonは、アジアにおいてソーシャルコマースアプリに地位を奪われつつある。
マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)により共有されたアプトピア(Apptopia)のデータによれば、シンガポールのショーピー(Shopee)とインドのミーショー(Meesho)の2社は昨年飛躍的に発展し、世界で第1位と第3位のショッピングアプリに成長したeコマースのプラットフォームだ(第2位はファストファッションの巨大企業シーイン[Shein]、Amazonは4位に転落)。
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どちらも、オンラインショッピングの売上を伸ばすためにソーシャル機能に傾倒した。インドのミーショーは2015年に設立され、リセラーがサプライヤーの卸売カタログからファッションや家庭用品などの商品を、ソーシャルメディア上で友人や家族に販売できるようにした。これに対してショーピーは低コスト商品向けのモバイル中心のマーケットプレイスで、ライブビデオや、顧客が出品者をフォローしてメッセージを送れるなどの広範なソーシャル機能を提供している。
ショーピーとミーショーのダウンロード数は昨年にそれぞれ46%と744%増加したが、Amazonのダウンロード数は12%減少して1億4800万件になり、総合で4位に低下した。Amazonの海外での成長が減少している理由については、いくつかのヒントがある。激しい競合にもかかわらず、Amazonはいまだアジアでソーシャルコマースを取り入れていない。これに対して競合他社は、主なライバルであるウォルマート(Walmart)所有のフリップカート(Flipkart)も含め、いっせいにソーシャルコマースを取り入れつつある。これを行わないと、インドで急増しつつあるソーシャルコマース市場を取り逃がす恐れがある。テッククランチ(TechCrunch)により共有されたバーンスタイン(Bernstein)の予測によれば、この市場は2021年において10億ドル(約1140億円)から15億ドル(約1710億円)に成長したが、2025年には200億ドル(約2兆2800億円)相当になると期待されている。
ソーシャルコマースの台頭
ソーシャルコマースという言葉を聞いたことがない人のために説明しておくと、ソーシャルメディアで商品を販売または再販することだ。この用語は10年以上にわたって使われているが、Facebook(ミーショーへの初期の投資者)、TikTok、およびGoogleのYouTubeなどの企業がオンラインでのショッピング機能のロールアウトを開始したことで、近年になって普及が進んだ。それ以前には、ウィーチャット(WeChat)などの中国製のメッセージングアプリが、食料品配送などのサービス用のミニアプリの形でプラットフォームにeコマースを追加していた。
一方で、Amazonはよりコントロールされキュレーションされた形でソーシャルコマースに取り組んだ。同社は2019年に、Amazon Liveと呼ばれるインタラクティブなライブストリームのショッピングサービスと、「ザ・ドロップ(The Drop)」というインフルエンサー主導のスタイルセクションを開始している。
インドでの戦略
独立の小売および消費者テックアナリストのサティッシュ・ミーナ氏によれば、Amazonはおそらく、インドでのソーシャルコマースにおいても同様に注意深く対応を進めると思われる。同社はAmazon Liveのようなビデオコマース機能をインドで立ち上げることから参入を開始するかもしれないと、同氏は語っている。
しかしその場合、この決定は、ライバルであるフリップカートのソーシャルコマースへの参入に対する対応と見られる可能性が高い。ウォルマートが所有するオンラインショッピングサービスである同社は、インドで最大のeコマースプラットフォームであり、ショップシー(Shopsy)という専用のソーシャルコマースプラットフォームを昨年立ち上げている。その時点で、同社は2023年までに2500万のリセラーを集めることを目標としていると述べていた。
ミーナ氏は次のように述べている。「Amazonは時期を待っている。同社はすでに自社の既存モデルをインドで拡大し、プライム(Prime)の浸透も拡大させた。明らかに、同社の現時点での戦略は成功している」。
Amazonは、同国に65億ドル(約7410億円)以上を投資している。同社は2020年に、インドにおけるプライムのメンバー数が8月のプライムデー(Prime Day)のセールで倍増したと語っているが、具体的な数値は明らかにしていない。同社の世界全体での収益は9月30日までの9カ月で905億ドル(約10兆3000億円)に達し、前年の669億ドル(約7兆6300億円)より大幅に増加した。同社のインドにおける戦略は、主に現地のキラーナと呼ばれる小規模店舗に対して、カタログをオンライン化し、非接触型のチェックアウトを実装してデジタル化することを焦点としてきた。
ソーシャルコマースの価値についての議論
ミーショーとショーピーは、世界最大のeコマース市場のふたつにおいて、自社の現地ユーザー向けに商品と機能をカスタマイズすることで、ソーシャルコマースを新たな高みに押し上げた。インド・ブランド・イクイティ・ファウンデーション(India Brand Equity Foundation)によれば、インドのオンラインショッピング分野は、2020年の462億ドル(約5兆2700億円)から、2025年には1114億ドル(約12兆7000億円)に成長すると予測されている。Facebookおよびベイン・アンド・カンパニー(Bain and Company)からのレポートによれば、東南アジアでのオンライン消費者の数は、今年末には3億5000万人に達すると予測されている。
ミーショーのプラットフォームには、最新のカウント時点で1300万の起業家が存在していた。ミーナ氏によれば、同社の最近の成長のうち多くは、女性の出品者と、人口の少ないティアー4市と呼ばれる地方の市場における衣服や合成宝石などの低額商品への需要により促進されている。
ショーピーの第3四半期の収益は、同社が昨年ブラジル、ポーランド、フランス、スペイン、インドなど新しい国々に事業を拡大したことから、前年比で一気に167.6%も増加し、14.5億ドル(約1653億円)に達した。しかし同時に同社は損失も大きく、物流と広告の経費から、純損失は2倍以上の7億4140万ドル(約845億円)に達した。
タイミングとリスク
しかし、ソーシャルコマースの売上額には上限が存在する可能性もあり、より大手のeコマース企業にとっては実験以上の価値を見いだせないことも考えられる。この分野での成長を続けるためには革新が必要であるということを示すかのように、ミーショーは現在純粋なeコマースプラットフォームへの転換を試みていると、ミーナ氏は語る。同社は秋に、資金調達ラウンドで5億7000万ドル(約650億円)を調達し、49億ドル(約5590億円)の評価額に達したあとで、食料品などの新たなカテゴリーへの参入を計画していることを明らかにした。このため、フリップカートやAmazonなどの大手業者は、ソーシャルコマースを新しい試験的な機能や、自社の大規模なビジネスのごく一部としてテストするだけに留まるかもしれないと、同氏は言及している。
ただし、すべての関係者がこのような圧力を感じているわけではない。中国のウィーチャットは同国のスマートフォンユーザーのほとんどに使用されているが、同社のサービスのミニアプリには毎日4億5000万人のアクティブユーザーが存在する。同社は2022年1月に、ウィーチャットユーザーが2021年にミニプログラムにアクセスする頻度は、前年よりも32%増加したことを公表した。
一方で、ソーシャルコマースの成功を無視することはAmazonにとって大きな損失となるだろうと警告する人々もいる。
シンガポールを拠点とするファッション分析およびインサイトソフトウェアであるオムニリティクス(Omnilytics)の共同創設者でCEOを務めるケンドリック・ウォン氏は次のように述べている。「ショーピーなどのeコマース企業はアプリの世界で生まれ、その世界では注目がもっとも優先され、ギミックが大きな役割を果たす。このような世界で生まれた企業は、まだ進化していない大手有名企業の安定した地位を崩せる位置にいる」。
[原文:Amazon Briefing: Is Amazon missing out on the rise of social commerce in Asia?]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:猿渡さとみ)