低反発、そば殻、横向き用。これらのキーワードに共通するものといえばなんだろうか。
そう、枕だ。
枕には実に様々な種類のものがある。その中でもあまり現代人になじみのない箱枕という枕を今回使ってみた。というか作ってみた。
※2008年4月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
寝ぐせがすごい
とにかく僕は寝ぐせがすごい。写真はごく最近の朝の光景だ。アトムか。
もちろんこのまま外出するわけにもいかないのでシャワーを浴びたりドライヤーかけたりする必要があるのだが、そのために出かけるまでにかなりの時間をロスしてしまうのだ。寝ぐせさえつかなければ起きてすぐ家を出られるのに。なんとかならないものだろうか。
寝ぐせの原因について少し調べてみると、驚くほど簡単にその解決策に行き着くことになる。「寝る前に髪をちゃんと乾かすこと」だ。なんと的確な。そしてそんなの調べなくてもうすうすわかっていた。確かに僕は夜髪を洗った後、面倒くさいので半乾きのまま寝てしまうことが多いのだ。要するにこれさえやめればいい話なのだが、ここを正すのは自分のライフスタイルを否定することを意味するだろう。そんなの嫌だ。他の要素を変えることで寝ぐせが治るのならばそちらを優先したい。
例えば枕を変えてみてはどうだろうか。寝ぐせのつきにくい枕ってないものだろうか。
これが僕のこれまで使っていたまくらだ。正直とても寝心地がいい。しかし改めて写真で見てみると、横になっているときに頭と枕との接地面が広いことがわかる。そしてそのエッジ部分で髪の毛がはねている。これが寝ぐせの原因と思われる。
ならば枕の形を変えたら寝ぐせがつかないんじゃないか。幸い僕は枕が変わると眠れないとかそんなデリケートな人間ではないので、寝ぐせがつかない枕を模索してみようと思う。
そこで箱枕だ
いろいろと枕の形を思案していたとき、箱枕という存在を知った。箱形の枕、つまり時代劇に出てくる武士や殿様が使っている木でできた枕のことだ。
もちろん現代では特殊な用途をのぞいて一般的に使われているものではない。特殊な用途というのは、たとえば日本髪を結った女性が夜をまたいで髪型をキープしたいときに、この箱枕で寝ることがあるのだという。つまりはこれで寝れば髪型がくずれないということだろう。まさに僕の目的にぴったりじゃないか。
しかしそんなある意味特殊な枕、普通にデパートの寝具売り場とかでは売っていない。インターネットでアンティークな箱枕が販売されていたりしたが、これは実用というよりも骨董品としてだった。実際、ほとんど需要がないのだろう。ならば自分で作るしかない。
ないものは作ろう、これがデイリーのモットーだ。都合のいいことに箱枕はとてもシンプルな作りをしている。木箱があって、その上に細巻きの枕が乗っかっているだけだ。まさに箱、そして枕。昔は人が眠っているとき、その魂は肉体から抜け出していると考えられていた。その魂を収納する場所、これが箱枕だったわけだ。寝ぐせをつけないためにこんな神聖なものを作るのは少々気が引けるが、僕にとっては深刻な問題なのだ。許してもらいたい。
それではいざ箱枕を作りたいと思う。とにかく資料が少なくて寸法などは適当なのだが、現存するものの写真や当時描かれた絵などからおおよそのサイズを決定した。木箱部分の高さは10~12センチ程度と思われる。あまり高いと首が痛そうだし、あまり低いと意味をなさない。
作業の様子がちまちましているのは作業場所が自宅のベランダで、しかも日が暮れた後だったからだ。派手にぎーこぎーこやっているとなにかバラバラにでもしているんじゃないかと誤解されそうだったから。都会の生活に気遣いはマストなのだ(都会じゃないけど)。
箱枕は別名船枕とも呼ばれているらしく、その名の通り箱が船の形をしているものがある。これには訳があって、船型をしていると寝返りしやすいのだとか。なるほど。ただの木箱ではさすがに寝づらいだろうとは思っていた。先人の知恵にあやかって適度に箱の側面部の角をとって船型に加工する。そして各部材をビス留めすると、箱枕の土台部分の完成だ。ここまでの所要時間、約30分。
意外なほど短時間で台座部分ができてしまった。手で押してみるとちゃんと船をこぐように力を入れなくても左右に揺れる。これならば寝返りをうっても大丈夫だろう。
木で作った台座の上に小さくまとめた枕を設置して箱枕の完成だ。時代感を出すために和柄を選んだのは正解だったと思う。僕としては満足なできなのだが、わかってもらえるだろうか。実はこれ、布団と一緒に置くとその存在感を発揮するのだ。
ほら。
箱枕を使う上で一つ注意事項がある。普通枕は敷き布団の上に置くと思うのだが、箱枕は布団の外に置くのだ。そうしないと安定しないし、こうるすことで箱の高さを相対的に低くできるというメリットもある。
しかしどうだろう、箱枕一つでいつもの寝室が一気に時代絵巻だ。よいではないか、よいではないか。
ではいざ眠ろうぞ。
ではまずこのまくらの一つの自慢である船型カットによる寝返りの打ちやすさを検証してみよう。この状態がほぼ仰向け状態だ。ここから左に寝返りを打つ。
ほうらどうだこのスムーズな回転。船型カットの威力発揮だ。ほとんど力を加えることなく、頭の重心を軽く移動させるだけで寝返りを打つことができた。これは低反発枕とかおかしくって使っていられないぜ。
どうなんだ、箱枕
しかし横から見ると一気に不自然なのでびっくりだ。箱枕の高さについては十分に検討したはずなのだが、それにしてもこれはつらい。
布団をかけてみてもその異様さは明らかだ。完全に視線はつま先を向いている。このまま眠ったら確実にいやな夢見そうだ。というか眠れるのかどうかすら不安。
しかしこうして見る限り、寝ぐせの原因である枕と頭との設置面積は通常の枕に比べて非常に小さい。ほぼ首だけで支えているといってもいいだろう。対寝ぐせ効果は期待できそうだ。
不自然な体勢に「これでは眠れないだろう」と思っていたのだが、ふと気を抜いた瞬間、もう目覚ましが鳴っていた。朝が来たのだ。信じられないが熟睡だった。もしかしたらこの箱枕、より快眠を誘ってくれるのではないか。そう思ったくらいだ。
枕、なくなっていました
起き上がるまでは。
目覚めてみてびっくりした。僕にしてはめったにないうつぶせ寝になっていたからだ。なんとなく両肩と首が痛いのは、途中までがまんして箱枕で寝ていたせいだろうか。一度夜中にびくっとして目が覚めたように思ったのは、たぶん落ちた瞬間だ。
もういい、寝心地がよくないのはなんとなくわかっていた。では肝心の寝ぐせはどうか。劇的に効果があるのならば、捨てたもんじゃないぞ、ということにならないか。
昨日はわざわざいつもよりも髪に水分を多く残した状態で寝たのだがどうだろう、ほら、あまり寝ぐせがついていないではないか。
わかっている、これはうつぶせ寝による効果だっていうんだろう。そう、期せずしてうつぶせで寝たら寝ぐせはさほどつかない、ということを発見してしまったのであった。
とにかく寝ぐせはつかなかったです
箱枕、うまく使えば髪型をキープしたまま次の朝を迎えることができるのかもしれない。単に僕の寝相が悪かったのか、もしくは我慢が足りなかっただけなんじゃないか。ただ、今は寝ぐせなんかよりも肩と首の鈍痛の方がずっと朝の時間をむしばんでいるのでした。あと寝ぐせが気になる人はちゃんと髪を乾かしてから寝たらいいと思うよ。