国際宇宙ステーションが空回りしたり、人工衛星が宇宙ゴミに体当たりされたり、なにかと宇宙でのトラブルが多かった2021年でした。
ロケットで宇宙をめざすなんて一昔前は夢物語でしたけど、今ではコストがどんどん下がってきていて民間人が宇宙旅行の切符を手にすることだって普通にアリ。そのぶん発射されるロケットの数も、地球を周回する人工衛星の数も、宇宙ゴミの量もジャンジャン増えてきていて、宇宙空間でとんでもないトラブルが続出しているんですけどね。
今年人類が宇宙でなにをやらかしちゃったのかを米ギズモードがまとめてますので、以下どうぞ!
国際宇宙ステーション、空転する
国際宇宙ステーションの21年間の歴史上、最大級のピンチが訪れたのは今年の7月19日。ロシアの多目的実験モジュール「ナウカ」がドッキングした際スラスターが誤作動し、宇宙ステーションごと後ろ向きに540度回転してしまうトラブルがありました。
回転し続ける恐怖のなかロシアのフライトコントロールが懸命に制御を試み、47分後には収束。しかし、ちょうど逆さまになったまま停止してしまったので、さらに180度前向きに回転させる必要がありました。
ロシアによれば、原因はソフトウェアのバグだったそうです。NASAは当時宇宙ステーションに在中していた65名の宇宙飛行士たちの生命に関わる問題ではなかったと説明していますが、もし回転速度がもっと速かったら宇宙ステーションの損傷は免れなかったでしょうし、最悪手をつけられないほどスピンしちゃったかもとのこと…。
ちなみに10月にもロシアのソユーズカプセルが同じようなスラスタートラブルを起こし、国際宇宙ステーションを60度回転させてしまっています。
アマゾン王ベゾス、NASAを訴える
「アルテミス3」ミッションで月への有人飛行を目指すアメリカは、月着陸船のコンセプトを民間企業6社(ブルー・オリジン、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、ドレイパー、ダイネティクス、スペースX)から募って審査した結果、スペースX社に28.9億ドルの契約を発注しました。ところがこれに怒ったのがブルー・オリジン社を率いるジェフ・ベゾス氏。NASAを相手取って提訴に踏み切りました。
ベゾス氏によれば、NASAはブルー・オリジン社にいくつもの民間契約を約束していたとのこと。さらに、スペースX社が提案している月着陸システムが「飛行安全基準を度外視している」とも訴えていました。
アメリカ合衆国連邦請求裁判所はベゾスの訴えを最終的に棄却したものの、この一件で「アルテミス3」ミッションは大幅に遅延するハメに。なぜなら7ヶ月間の裁判期間中、スペースX社の有人着陸システム(Human Landing System)の開発にストップがかかってしまったからです。開発は再開しているものの、2024年に予定されていたミッションは2025年以降に延期される見通しとなっています。
史上最大の人工落下物
4月29日、中国の長征5号のコアステージ(全長30メートル)が地球の低周回軌道に誤って侵入しました。制御不可能となってそのまま数日後には大気圏へ再突入し、人口密集地域に落下する可能性も出てきたから大変!専門家が追跡を試みるも落下地点を特定しきれないまま、5月9日にはインド洋に落下して事なきを得ました。
これを受け、NASAは「自国の宇宙ゴミに対して十分な責任を果たせていない」と中国を批判。重量23トンにして、人工物としては史上最大の落としものでした。
宇宙のトイレ問題
今年9月、「インスピレーション4」と銘打たれた史上初のオール民間人ミッションがスペースXのクルードラゴン船に乗って宇宙旅行に出かけました。万事オーライでしたが、ひとつだけクルーメンバーをヒヤッとさせたのがトイレ問題でした。
何か「重大」だけど特定できない問題が起こっていることを知らせるアラーム音が鳴り、楽しげなムードは一変。それでもインスピレーション4のクルーメンバーは冷静さを失わず、グラウンドコントロールと相談しながらアラームの原因を突き詰めていったところ、トイレの「メカニカルな問題」(具体的には排泄物が無重力状態において四方八方に飛び散らないようまとめてくれるファン)だったことが判明し、やがて解決に至ったそうです。
その後、スペースX社のイーロン・マスクはクルードラゴン船のトイレを改良するとツイート。スペースX社からもさらに詳しい情報が提供され、なんでも尿タンクにつながるチューブが外れてしまっていたせいで尿がタンクに到達できずに飛び散ってしまっていたんだとか。以前国際宇宙ステーションにドッキングしたクルードラゴン船・エンデバー号にも同じような問題が確認されたもののすでに解決済みで、クルードラゴンのエンデュランス号にはアップグレードされたトイレが搭載されているそうです。
テスト中のスターシップが相次いで不時着→のち爆発
SpaceXと言えば、今年前半は大型宇宙船スターシップの高高度飛行試験に注目が集まりました。
全長50メートルあるスターシップを9.7キロメートルの高度まで打ち上げるのはバッチリ、その後の制御された空力降下もバッチリ。ただし最終段階のランディングがなかなかうまくいかず、試作機「SN9」は2月2日にテキサス州のボカチカ発射台に戻ってきた際に大爆発を起こし、「SN10」も3月3日に着陸して数分後に爆発。3月30日には「SN11」も同様に「想定外の急激な分解(要するに爆発)」を経験しました。
なので5月5日、ついに「SN15」が着地に成功した際は「スターシップの着陸は計画どおり!」とイーロンも興奮気味にツイートし、3万回以上リツイートされました。不時着を繰り返すスペースXに目をつけていたアメリカ連邦航空局も、これでほっと胸を撫で下ろしたでしょうか。
中国の衛星とシンクロした謎の物体
11月初旬、アメリカ宇宙軍が中国の実験衛星「実践21号」のすぐとなりを周回しているアポジキックモーターを発見しました。
アポジキックモーターとは人工衛星を軌道に乗せるために使う推進装置で、通常は用済みになった時点で墓場軌道に捨てられるのですが、発見されたものは「実践21号」と並ぶようにして対地同期軌道を周回していました。衛星との距離も比較的近く、動きもシンクロしているようだったそうです。
普通ではありえないこのシチュエーションに、「ただのアポジキックモーターじゃないのかも」説も浮上。もしかしたらなんらかの機能を持ったサブ衛星なのかもしれませんが、中国はこれに関して詳細を明かしていません。
宇宙ゴミの嵐
2021年11月15日早朝、まだ就寝中だった国際宇宙ステーションの乗組員は突然緊急避難を要請されました。ロシアが人工衛星攻撃兵器(ASAT)を使って自国の人工衛星「コスモス1408号」を破壊し、粉々に砕け散った衛星の破片がにわかに宇宙ゴミの雲霞と化したからです。
今回の実験では直径10cm以上の宇宙ゴミが1,500以上、そしてそれよりもっと小さくて追跡困難な宇宙ゴミのかけらが何千も発生したと考えられています。幸い国際宇宙ステーションは被害を免れましたが、コスモス1408号の残骸はこれからも地球を周回しつつ、人工衛星や宇宙船の安全を脅かし続けることになります。
NASAはロシアの衛星攻撃兵器実験を「無謀な行為」だと非難しましたが、実はアメリカ・中国・インドもそれぞれ過去に同じような実験を行なっているんですよね…。
宇宙ゴミが増え続けて「ケスラー・シンドローム」も心配されています。ケスラー・シンドロームとは「地球周回軌道上のスペースデブリ(宇宙ごみ)の密度がある限界を超えると、衝突・破壊の連鎖によって宇宙ごみが爆発的に増え、宇宙開発を行なえなくなるという理論」(goo辞書より)。
実際ロシアの宇宙ゴミが中国の人工衛星を直撃したり、細かい宇宙ゴミが国際宇宙ステーションのカナダアーム2に穴を開けてしまったりも。アームはまだ機能しているとのことですが、中国の人工衛星はお陀仏だったそうです。
ロケ地は宇宙
今年は人類史上初めて宇宙で映画撮影が行なわれた年でもありました。
ロシアの映画『Vyzov(挑戦)』のロケ地はなんと国際宇宙ステーション。10月初旬に主演女優のユリア・プレシルドさん、クリム・シペンコ監督を含む撮影クルーが現地入りし、12日間宇宙に滞在しました。
執刀医のゼーニャが国際宇宙ステーションへ派遣され、病に侵された宇宙飛行士を救う物語だそうで、プレシルドさんはオーディションでゼーニャ役を勝ち取ったそうです。ちなみに撮影スケジュールは過酷を極めた模様で、宇宙から帰還した直後にカザフスタンの砂漠での撮影を敢行したんだとか…。いや、ハードすぎるでしょ。
キャプテン・カーク、宇宙へ
宇宙行きを果たした俳優はプレシルドさんだけではありませんでした。『スター・トレック』シリーズでカーク船長を演じたウィリアム・シャトナーさんもカーマンラインを超えて宇宙へ進出しました。もっとも、宇宙に滞在していたのはほんの数分だったんですけどね。
シャトナーさんは10月13日、ジェフ・ベゾス氏が提供するブルー・オリジンの宇宙船に乗って数分間の宇宙を満喫しました。時間こそ短かったものの、シャトナーさんは宇宙から地球を見下ろして感涙したのだとか。
不幸にも、シャトナーさんと一緒にブルー・オリジンに搭乗した実業家のグレン・デ・ヴリーズさん(写真右端)は宇宙旅行後の11月11日に飛行機事故で亡くなっています。
ボーイングのスターライナー、不具合が解消されず
スペースXやブルー・オリジンが躍進した一方で、ボーイングはトラブルに見舞われっぱなしの2021年でした。
開発がやや遅れているボーイング社の「CST-100 Starliner(スターライナー)」はNASAから指摘された諸問題を解決できたものの、10月のローンチテストは失敗に終わりました。いつになったらお客さんを乗せて運用できるようになるのでしょうか…。
ローンチテストでは推進システムの酸化剤放出弁のうち13本が開かないトラブルがあり、無期限で延期されました。ボーイングによれば、フロリダ州(テストが行われたケネディー宇宙センターの所在地)の湿度の高さが原因だったかもしれないとのこと。
ボーイングとしては2022年の初めに国際宇宙ステーションへ向けての軌道飛行テストを行ないたいところでしょう。なんとかうまくいってほしいものです。
大富豪に飛行禁止命令
2021年は大富豪がこぞって宇宙旅行へ出かけた年でもありましたね。一番乗りだったのがヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏。7月11日に自社のヴァージン・ギャラクティックが運営するVSS Unity号で宇宙空間に到達しました。
ところが、後になって操縦士が上昇中に点灯した警告灯を無視したことが判明しました。86km上昇する途中でコースを外れ、許可されていない空域で飛行していたようです。また、予定通りの軌道を進まなかったことで下降とランディングが狂ってしまう危険性もありました。
事態を重くみたアメリカ連邦航空局はヴァージン・ギャラクティック社に飛行禁止命令を出し、調査に乗り出しました。しかしその後ヴァージンは問題を改善したため、すでに9月に禁止令は解除されています。
国際宇宙ステーションのロシア製モジュールもトラブル続き
ロシアの宇宙船もトラブル続きでした。ナウカモジュールのスラスター誤作動により国際宇宙ステーションが空転してしまった件以外にも、1998年に打ち上げられた国際宇宙ステーションの基本機能モジュール「ザーリャ」にトラブルが発生。8月にはロシアのベテラン当局者がザーリャモジュールにひびが入っていると指摘し、「ひびは日を追って悪化していくだろう」とも警告しました。
9月にはモジュール内の煙探知機が作動し、プラスチックが焼け焦げる匂いが船内を漂いました。理由は公表されませんでしたが、ステーション内のバッテリーが自動充電されるタイミングと一致していたそうです。
このようなトラブルが続出する最中に、ロシアの国営メディアが「2018年にNASAの宇宙飛行士がワザとザーリャモジュール内の壁にドリルで穴を開けた」とのデマを広めたとも言われていますが、ロスコスモスはこれに対して沈黙を守りました。
国際宇宙ステーションの未来が危ぶまれる一連の出来事ですが、今後どんな展開が待ち受けているのでしょうか。
Reference: goo辞書