TP-Linkから、これからの時代のスタンダードと呼ぶにふさわしい新ルーター「Archer AX55」が登場した。メッシュも、IPoE IPv6もセキュリティ対策も、そして性能も。地に足を付けてしっかりと進化した約1万円の新スタンダードルーターを試してみた。
どんな環境にもどんな用途にも使えて、他人に勧めやすい
TP-Linkから新たに登場した「Archer AX55」は、2019年に発売された既存モデル「Archer AX50」の後継に位置付けられるWi-Fi 6対応のルーターだ。
同社のラインアップの中ではミドルレンジに位置する製品とはいえ、どちらかというと性能や機能が重視された構成となっており、価格を抑えながら機能を充実させた、お買い得感の強いモデルとなっている。
筆者は仕事柄、お勧めのWi-Fiルーターを聞かれることが多いのだが、本製品はその候補として答えやすい機種の1つだ。
価格が約1万円と無理なく買える範囲で、最大2402Mbps対応とゲーミングPCなどでもフルスピードでリンクでき、IPv4 over IPv6環境で使え、メッシュでの拡張にも対応でき、セキュリティ機能も備え、USBファイル共有やVPN接続ももちろんOK。
どんな環境で使おうと、どんな用途に使おうと、気にかける必要は一切なし。しかも、設置や設定もしやすく、分かりやすい。要するに、要望や条件を細かく聞くことなく、誰のニーズにも対応できる条件を備えているので、お勧めがしやすいのだ。
そういう意味では、「The スタンダード」と言ってもいいかもしれない製品だ。
型番は「+5」と控えめだが……世代を超えて進化
前述したように、本製品は、従来モデルの「Archer AX50」の後継となる製品だ。型番としては、AX50→AX55とわずか「+5」だけの変化だが、機能面の進化を考えると、1世代、いやもしかすると2世代と言ってもいいほどの世代を超えた進化をしている。
従来モデルとのスペックの違いは以下の通りだが、表だけでは見えにくい世代の進化を遂げている。
Archer AX55 | Archer AX50 | |
市場想定価格(税込) | 1万780円 | 1万780円 |
CPU | デュアルコア、1GHz | デュアルコア |
メモリ | 512MB | ― |
Wi-Fiチップ(5GHz) | Broadcom製(チップ未公表) | Intel WAV654 |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← |
バンド数 | 2 | ← |
160MHz幅対応 | 〇 | ← |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps | ← |
最大速度(5GHz) | 2402Mbps | ← |
チャネル(2.4GHz) | 1~13 | ← |
チャネル(5GHz) | W52/W53/W56 | ← |
新電波法(144ch) | 〇 | × |
ストリーム数(5GHz) | 2 | ← |
ストリーム数(2.4GHz) | 2 | ← |
アンテナ | 外付け(4) | ← |
WPA3 | ○ | ← |
メッシュ | OneMesh | × |
IPv6 | ○ | ← |
DS-Lite | 〇 | × |
MAP-E | 〇 | × |
WAN | 1Gbps×1 | ← |
LAN | 1Gbps×4 | ← |
LAG | × | 〇 |
USB | USB 3.0×1 | ← |
セキュリティ | HomeShield | HomeCare |
動作モード | RT/BR | ← |
ファームウェア自動更新 | ○ | ← |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 261.1×134.5×41.0mm | 260.2×135.0×38.6mm |
【進化ポイント1】DS-LiteやMAP-EのIPoE IPv6ネット接続サービスに対応
最初の注目点は、IPoE IPv6インターネット接続サービス対応の強化だ。従来のArcher AX50でもIPv6自体の接続には対応していたが、Archer AX55では、IPoE IPv6環境でのIPv4接続(IPv4 over IPv6)として普及が進んできたDS-LiteやMAP-E方式での接続に対応している。
具体的な対応サービスは同社のウェブページにて確認して欲しいが、「v6プラス」「OCNバーチャルコネクト」「transix」などの各サービスで、本製品をインターネット接続用ルーターとして利用可能になっている。
これらの方式で接続すると、通信の仕組み上、後述するセキュリティ機能が利用できないなどの注意点はあるが、海外メーカーとしては最も積極的に、国内の通信事情に合わせた取り組みをしているメーカーと言っていいだろう。
【進化ポイント2】独自メッシュ「TP-Link OneMesh」に対応
続いての進化ポイントはメッシュへの対応だ。もはやWi-Fiルーターのメッシュ対応は必須と言ってもいい時代になりつつあるが、本製品は同社が従来製品でも対応を進めてきた「TP-Link OneMesh」に対応しており、同方式に対応するWi-Fiルーターや中継機を簡単にメッシュで接続することができる。
通常の中継と異なりメッシュの場合は、1つの接続先(SSID)で運用が可能であること、移動しながらの通信など接続先が切り替えるシーンでもシームレスな通信ができること、接続の帯域やトポロジーなどを自動的に最適化が可能、といったメリットがある。
本製品は、後述するように単体でも十分な製品を発揮できるが、仮に広い住宅やマンションなどで電波が届きにくい部屋があったとしても、後から中継機を追加することで、通信範囲を簡単に拡大することができる。
【進化ポイント3】セキュリティ機能が進化
従来のArcher AX50にも「HomeCare」と呼ばれるセキュリティ機能は搭載されていたが、今回のArcher AX55では「HomeShield」というセキュリティ機能に強化されている。
セキュリティベンダーとして知られるAviraの技術を利用したHomeShieldは、家電やゲーム機、センサーなどのIoT機器の不正アクセスや攻撃を検知して自動的に保護したり、フィッシングサイトなどの悪意のあるサイトへのアクセスを自動的にブロックしたり、保護者による制限によって子供のアクセス状況をコントロールしたりできる。より細かな制御が可能になり、統計情報が見られるようになった印象だ。
一部の機能は有料プランへの加入が必要だが、自宅のネットワークを保護したいというニーズに向いているだろう。30日のトライアルも利用できる。
【進化ポイント5】世代を超え、中身が別物に
CPUチップについては、従来モデルのIntel WAV654から、Broadcom製でデュアルコア1GHzへと置き換えられている。同じデュアルコアでも、Archer AX55のチップは、同じIEEE 802.11ax対応でも世代が新しく、高い処理性能が期待できる。
まとめると、IPv6やメッシュという新しい時代の技術を取り入れつつ、セキュリティ機能やデザイン、中身を刷新していることになる。要するに「世代が違う」わけだ。価格がかなり安くなってきた従来モデルのArcher AX50も捨てがたいが、実質的な進化の度合いを考えると、やはり新型のArcher AX55が魅力的に見える。
使いやすさも魅力の1つIPoE IPv6ネット回線も自動認識で接続
もちろん、使いやすさも問題ない。TP-Linkは日本初上陸の当初から比べると、各段に使いやすさが進化した製品の1つだ。同梱のマニュアルの完成度やセットアップ用のアプリの分かりやすさは、国内製品に決して引けを取らない。
マニュアルはイラストを使ってステップバイステップで説明されている上、Wi-Fi接続用の初期暗号キーが記載された「Wi-Fi情報シート」も付属する(これがないと背面をスマホで撮影して、暗号キーを見ながら設定しなければならない)。
Android/iOS向けに提供されている「Tether」アプリも、接続方法などから画面上で確認できて分かりやすいし、インターネット接続もきちんと自動検出で設定できる。筆者宅は、ぷららのtransix接続サービスという、あまり多くない回線なのだが、自動で問題なく認識し、手動でAFTRを設定することなく接続できた。
こうしたIPv6接続サービスへの対応もそうだが、グローバル展開の製品に対して日本固有の事情に合わせた設計を盛り込むのは、相当な苦労と、そして何より成果が必要になるはずだが、これを実現している事実には頭が下がる。
単体でも近距離で900Mbps前後と高速、RE600Xと組み合わせれば3階が200Mbps超に
もちろん性能も良好だ。以下は、Archer AX55単体、およびArcher AX55+RE600Xの組み合わせでiPerf3による速度を計測した結果となる。木造3階建ての筆者宅にて、1階にArcher AX55を設置し、RE600Xは後から3階の階段付近に設置して計測している。
なお、単体計測時は2.4GHzと5GHzのSSIDを個別に設定し、5GHzのチャンネル幅を手動で160MHz幅に設定して計測しているが、メッシュ環境のメリットを生かすため、RE600Xとの組み合わせでは2.4GHzと5GHzで同じSSIDを利用し、チャンネル幅も自動にして計測している(この場合、5GHz帯は80MHz幅の1201Mbpsで接続された)。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
Archer AX55単体 | 上り | 931 | 432 | 214 | 124 |
下り | 886 | 612 | 391 | 187 | |
Archer AX55+RE600X | 上り | 777 | 314 | 272 | 229 |
下り | 731 | 227 | 275 | 227 |
※サーバー CPU:Ryzen 3900X、メモリ:32GB、SSD:NVMe 1TB、OS:Windows 10
結果を見ると、単体(2402Mbps有効時)では近距離が高速だ。1階で900Mbps前後、2階でも下りで612Mbpsとかなり優秀だ。
3階端でも下り187Mbpsとかなり高速なので、単体で使っても十分な印象はあるが、RE600Xと組み合わせることで、3階は200Mbpsオーバーへとさらにスピードアップできる。
RE600Xとの組み合わせの場合、RE600Xの最大1201Mbpsとなる上、クライアント接続と中継で帯域を分け合うためピーク性能自体は落ちてしまうが、通信エリアは確実に広くなっており、特に中継機を設定した3階では、部屋中のどこでも、少し離れて扉で隔離された3階のトイレでもあっても、最低200Mbps以上を確保できる印象だ。
通信エリアの広さや安定性を重視するのであればRE600Xとの組み合わせが有効と言えそうだ。
約1万円の投資で最新世代へ、さらにプラス7000円でメッシュ化できる
以上、TP-LinkのArcher AX55、および中継機のRE600Xを実際に試してみたが、どちらも最新のWi-Fi 6対応製品らしい優れた性能を持ちつつ、今の時代のニーズに合わせてブラッシュアップされた製品と言える。
価格も安く、Archer AX55だけでもかなりWi-Fi環境の改善が期待できるが、さらにRE600Xと組み合わせることで、家中すみずみまで電波が届くようになる。合計でも1万7000円ほどの投資なので、無理なく導入できるだろう。
まだIEEE 802.11acなどの古い世代のWi-Fiを使っている場合のリプレイスにお勧めできるのはもちろんだが、初期のWi-Fi 6対応製品を利用している場合でも電波が届きにくい場所があるなど、より高速かつ便利なWi-Fi環境を求めている場合にもお勧めできる。
最新世代のWi-Fiルーターとメッシュ中継機で、より快適なWi-Fi環境を目指すといいだろう。
(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)