TikToker批判した書評家は老害か – やまもといちろう

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 書評家を名乗る豊崎由美さんと作家の栗原裕一郎さんが、TikTokでの書評をして上手くやっていたけんごさんをTwitterでDISった結果、それなりに燃えていたのを遠くから眺めておりました。

 その後、ライターの飯田一史さんやCDBさんが言及していたのでふんふんと読んでいたんですが、なぜかお付き合いのあるテレビ局や出版社からもコメント依頼や状況説明の相談があったりして、まったく読んでもおらず詳しくもない豊崎由美さんの話をしなければならなくなったんですよね。みんな自分で豊崎由美さんの記事ぐらい読めばいいのに。私は読んでなかったけど。

豊崎由美氏「TikTokみたいな、そんな杜撰な紹介で本が売れたからってだからどうした」「書評書けるんですか?」~それへの反響 – Togetter https://togetter.com/li/1814617

 で、界隈の人たちからも聞かれるのでさすがに私も豊崎由美さんの書評を読み、また、近所の知人が親切にも石原慎太郎さんを腐した本を持ってきてくれたので目を通しておったわけですけど、この書評を読んでじゃあ当該書籍を手に取ってみようかとは思わないような内容でした。もちろん、年代や性別の違いなんてのもありますから、私は豊崎由美さんの書き物においてはマーケットの外なのでしょう。

 細かいことは文春でやっている連載のほうで論述するのでそちらに譲るとして(二日後の水曜あたりにネットで掲載されるようです)、この話の絡みで、昔のライター関係の武勇伝のようなたいへん酷い記事が中央公論に載っているというのでこれも買ってきました。

 中身的にはごく普通の中高年の武勇伝話が中心で、確かに老害とはこういうものだなと思ったりもするわけですが、ただ酷い酷いと言いつつも読んでいて対談としてはなかなか面白い。

コラムニストとは何者か 小田嶋隆✕オバタカズユキ|文化|中央公論.jp https://chuokoron.jp/culture/118597.html

 割り引かなければならないのは時代性のところで、昔の映画にタバコを吸うシーンがあったからといって、当時はそれが普通だったよね、いまの価値観で見ちゃいけない部分だし、それがかっこいいという表現だったころの話と見る側が弁えなければならないという意味で、ある程度読み手が分かってる前提の対談になってるのが印象的です。

 確かに昔は特に裏も取らずに好き嫌いでモノを語って良しとするサブカル系の文化があったようにも伝え聞くのですが、確かにこういう人たちがその界隈の最先端で走っていたのは間違いなく、その点では圧倒的に見ていて楽しいのです。ただ、自分もささやかながらコラムを書いたり、時事系の特集記事でライターさんや記者さんと一緒に記事を書いていたりすると、この対談で語られる武勇伝は、やはりとても「古い」。古いし、酷いけど面白い。

 ときは下って2020年にもなると、昔よりも週刊誌やネット媒体の影響力が上がってきたし、ネット媒体もブランド(媒体名)だけではお金を払ってくれなくなった時代に、いわゆる書き手の思い込みで書き飛ばして面白がることができる、というだけでは読み手がついてこなくなったなあという印象は強くあります。朝日新聞もJ-CASTも同じ土俵で配信され、下手をするとJ-CASTのほうが朝日新聞系のネット媒体よりもバズる時代において、朝日新聞というブランドがあろうと読者がどっちを支持しているのかは一目瞭然になってしまう世界ではブランドは無力なのかもしれません。

 そして、広告やっている人やネット媒体の状況に詳しい人ならご存じだろうと思いますが、小田嶋隆さんがメインで頑張っている日経ビジネスオンラインも、昔日の栄光は過去のものとなり、たぶんビジネス系オンライン媒体では一人負けにも近い惨状じゃないかと思います。かつては名門だったPL学園でこういうレジェンドがいて、まだ現役で頑張っていますという意味で読者と一緒に歳を取る、動物園のような仕組みです。

 同じ記事の書き手として、かつて一線で戦った昔ながらの書き手のロジックには私も共感するし、面白いなあと思う面も強いけれども、もう読み手はそういう面倒くさい、回りくどい書き手の人間関係など斟酌せず、書かれた文章のテーマと内容がカチッと合うか合わないかで支持に雲泥の差をつけるものなのだと思います。ひな壇芸人の人間関係がお茶の間からすればあまり受け入れられなくなっているのと同様、ライター・書き手同士の絡みとかよほどそこに注目している人でないと興味ないんですよ。

 だから、ある程度経験を踏んだオールドガードな人たちほど、豊崎由美さんの一連のTikTok書評批判には理解を示しているし、もっとネットの変化に晒されたり即物的に情報を扱う仕事をしている人ほど老害批判が出るのも当然であろうな、と。

 それが田端信太郎さんの「老害で何が悪い」議論へと繋がっていくわけですけれども、今回は本当に学びの多い、身につまされる炎上劇でした。