日本の株価がなぜ低いのか、株に興味がある方にはどんな裏話があるのだろうと思われるでしょう。そんな隠れた理由は一つもありません。答えは至極簡単です。市場に新たなお金が入らない中、上場会社数が増え、一社当たりの時価総額が伸びない、つまり株価が冴えない、ということです。
ニューヨーク証券取引所の2010年の上場会社数は2317社、ナスダックは2778社です。今年5月の時点ではそれぞれ1932社、3303社です。10年間の増減はそれぞれマイナス17%、プラス19%です。日本は東証1部2部の合計が2010年は2101社、現在は2653社、増減は26%のプラスです。
では時価総額を見ると例えばアメリカ全体の2011年の時価総額は12.2兆ドル、日本は2.1兆ドルだったものが21年11月時点でアメリカは40.9兆ドル、日本は4.3兆ドルとなっています。日本もこの10年で時価総額が2倍強と健闘していますが、アメリカのそれは3.4倍にもなっています。これを単に比率でみると見誤ります。ここは絶対額でみるべきでアメリカは28.7兆ドルも増えているのに日本は2.2兆ドルしか増えていないと読むほうが正解です。
つまりアメリカには流入する資金の額がけた外れに多く、それが巨額のM&Aを誘発しやすい経営体質となっているのです。
会計ソフトの弥生がKKRに買収されると報じられています。弥生という会社もある意味不幸な会社で数奇な運命をたどっています。そもそもは日本マイコンとミルキーウェイという別々の会社が78年と80年に設立されたあとアメリカのインテュイット社の傘下に入り一緒になります。インテュイットは北米で会計の仕事をしている人なら絶対に知っているあの「クリックブックス」の会社です。その後、弥生はMBAをしてファンドのアドバンテージの傘下に入り、次に堀江さんが全盛期のライブドアに買収されます。次にライブドア問題でMBKに移り、更にオリックスが買収、今回、KKRがそれを買い取るものです。
この流れをみてどう思われますか?私は会社がおもちゃ扱いされていると思うのです。まるでショッピングに行って買い物して、大黒屋(買い取り屋)で古いものを売却する感じでしょうか?会社は誰のモノという議論がありますが、結局株主が右へ、左へと流す以上、従業員ではなんともしがたい話かもしれません。そしてもう一つの着目点は投資ファンドが3度絡んでいるのです。会社を成長させ、高値で売るのが目的の投資ファンドは安く買い叩き、事業改革と称して儲かるものだけを取捨選択し、リストラを断行し、経営数字が美しくなった時点で購入額の何倍かで売り抜けます。
このビジネススタイルが当たり前のように横行する中で日本の企業は買収防衛に気を配りますが、そもそも日本の会社を買収したいという海外ファンドは少ないのが実態です。海外から見て新興市場できらりと光る技術が売りの会社も海外でのアピールや知名度はないし、事業の水平展開も期待できない、あるいは日本市場独自の事業背景や、ごく一部の能力ある人材が牛耳っているなど企業としてのうまみがないこともあるでしょう。
国内店舗数をいくら増やし、売り上げがどれだけ伸びてもそれが国内の話であれば限界があるということです。せめてアジア市場を制覇するぐらいではないと目にかけてもらえないのです。
ニューヨーク市場を長年見ているととにかくM&Aが激しく展開されます。私の持ち株も買収されたり、買収したりで姿かたちがどんどん変わっていきます。また一般には買収されることにより企業はより強く逞しくなるのが北米の流れですが、日本企業による買収は1+1=2にもならず縮小均衡するケースも多いのです。これでは買収する意味は何処にあるのか、ということになり、結果として小さな会社が無数に散らばるのが日本の上場企業の姿であります。
会社は成長が前提ですが、その成長の仕方一つのパイを争い、シェアの確保を第一義とする不毛の戦いに明け暮れる業界も多いように感じます。例えばビール会社がその典型ですが、私はサントリーのように外に打って出る会社の方が100倍魅力的な企業に見えます。ちなみにここバンクーバーではサッポロビールはローカルビール並みに手に入りやすくブランド名も浸透していますが、アサヒやキリンは誰も知らないのです。国内の景色と海外の景色の違いでしょう。
日本の企業は農耕民族的で共同体組織の枠組みのルールをうまく渡り歩くことを良しとしているように見えます。海外は狩猟型ですから弱肉強食で誰も守ってくれません。株価は企業の体力と将来性です。残念なことに東京市場の7割以上は外国人投資家に牛耳られ、個人が25%程度です。ということは事業法人の投資は1割にも満たないというこの事実と投資主体のいびつさをみても日本市場の健全性は程遠く、株価は目先の材料に反応するリトマス試験紙型市場で外国人のえげつない食い散らかしの後始末に追われるのが東京市場なのかもしれません。
東京市場に入り込むマネーを増やし、投資主体にもっとバリエーションを持たせること、上場企業数を減らすべくM&Aを強力に進めること、これが日本の株価を上昇させる基本だと思います。市場価値が4.3兆ドルで2700社近い上場数の東証と上場社数は3300社ながらも時価総額が36兆ドルのナスダックの違いをみれば一目瞭然ということです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月13日の記事より転載させていただきました。