ふだんよく行く定食屋があったとして、そこに数十種類のメニューがあったとしても、選ぶのってたいてい、自分のなかの定番になっている決まった数品のなかからになりがちですよね。
ところがあえて、ふだんの自分ならば絶対に頼まないであろうメニューを頼んでみる。もしくはもうちょっと冒険し、その隣にある、まだ一度も入ったことのないインドカレー屋に入ってみる。そんな日常のなかのちょっとした冒険が、新鮮な感動や、好きなものが増える喜びを与えてくれたりします。
よし、今日は1日、あえていつもの自分“じゃないほう”を選んで過ごしてみよう!
それぞれの「じゃないほう散歩」
ナオ:
今回は、いつも自分が選びがちなもの“じゃないほう”をあえて選びながらそれぞれ散歩して振り返ってみようと、パリッコさんにもお願いしました。
対象はなんでもよくて、たとえば私はラーメンが好きで、どこかの町で中華料理店を見つけたら入る確率が非常に高い。だからその隣に和食の店があっても選ばないことが多かったりするわけです。そんないつもの自分をあえて裏切ってみたら、近所でも新しい世界が開けるんじゃないかと。
パリ:
視界に入ってても、潜在的に見えてないというか、見てないんですよね。
ナオ:
そうなんですよ。どうしても安定を取っちゃうのかな。そこで、事前にお互いそれぞれの「じゃないほう散歩」をしてみたので、今日はその結果を報告しあおうと。
パリ:
はい。昨日行ってきました!
ナオ:
私も昨日行ってきました。
パリ:
どうでした?
ナオ:
いやー。思いもよらない方へ行く感じ、ドキドキもするけどあらためて楽しかったです。
パリ:
わかる! 「わりと近所のはずなのに、こんなにも新鮮なんだ」って。
スズキナオの“じゃない”1日
ナオ:
じゃあまず私のほうからふり返ってみましょう。私は近所を徒歩で散策することにしたんですが、
ナオ:
ここを私、どちらかというと左のほうに行きがちなんですよ。
パリ:
ははは。
ナオ:
いきなり「知らねえよ!」っていう話だと思うんですが。
パリ:
確かに。でもわかります。行きがちな方向ある。
ナオ:
というかこれからお話ししていくことは、だいたい「知らねえよ!」って話なんですが。左のほうにいくと大きめのショッピングビルがあって、1階にはフードコートがあって、私の好きなリンガーハットも入っててね。あそこの皿うどんが好きなんだよなー。
パリ:
楽しさが約束されているわけですね。
ナオ:
そうそう。ゴールが見えているというか
パリ:
けどリンガーハットって僕、自分から入ったことないかも。そもそもその時点で人と自分って違いすぎますね。自分じゃない人間の、じゃないほう。未知すぎる。
ナオ:
確かに! 自分じゃない人のじゃないほうってもう、「知らねえよ!」どころじゃない。
パリ:
ははは。
ナオ:
とにかくね、右手の道はそんなに歩かないんです。だからこそ今回はそっちへ行きます。
ナオ:
こういう通り沿いを歩いてて、いや、この道をただ歩いてたっていつもの自分すぎるなと思って、ふとそれてみると、
ナオ:
この八宝亭という中華屋さんは前に入ったことがあって、いい雰囲気だったんです。いつもの私ならここで食べてしまいたい。しかしそこは「じゃないほう」の私なので素通りしていくと、
パリ:
住宅街だな~。
ナオ:
お腹減ってるのにどんどん何もなくなって「じゃないほうってなに? そもそもなに」みたいな気持ちになっていくんですよね。
ナオ:
「ポロシャツセールいきなり入ったろうかな」みたいなことも考えてしまう。いつもの自分を裏切るために。
パリ:
ははは。なにこれ! コート3000円って安い。
ナオ:
1000円、2000円、3000円。
パリ:
ざっくりした値つけだな~。
ナオ:
ゲームのなかの武器屋みたいなね。
パリ:
はは。本当だ。
ナオ:
「もういきなり精米したろうかな」とも思った。
パリ:
精米! しないっすね~。
ナオ:
ね。精米するのは完全にいつもの自分じゃない。でも米、重そうだなーと思ってここは通過して、
ナオ:
などをふらふらして、じゃないほうの不安を味わっていましたところ、ふいにこんな店が現れました。
パリ:
とんかつ屋か。行く人は行くんでしょうけど、ほぼ行かないな。
ナオ:
あ、パリッコさんもそうですか? 「知らねえわ!」って話でしょうが、私もあんまりとんかつって食べないんですよ。
パリ:
僕ら酒好きだから、こういう気合の入った食事をがっつり楽しむというのが、そもそもあまりない。
ナオ:
あー確かに。でもだからこそ「これは、じゃないぞ! いいぞ!」と思いました。それで外に貼られたメニューを見てみると、
ナオ:
カツカレーがある。
パリ:
おおう! うまそう!
ナオ:
Sサイズでも1980円。
パリ:
あ、カレー単品が990円なんですね。なかなかの高級品だ。
ナオ:
ここは肉の品質にこだわった店で、どうやら高級な豚肉を使っているらしいんですよ。で、とんかつ屋にふだんなかなか行かない私はそもそもカツをあまり食べない。だからカツカレーなんてもう、生まれてこのかた、食べたことないかもしれない。
パリ:
わはは! カツカレー、体力いるからなかなか食べる機会はないけど、僕のいちばん好きな食べものですよ。
ナオ:
ですよね。パリッコさんの好物。でも自分にとっては「じゃないほうすぎる食べもの」なわけ。前にそれで言い争いになりましたもんね。
パリ:
そうそう。味噌ラーメン vs カツカレーで。「味噌ラーメン、一度も店で食ったことないかも」って。
ナオ:
ははは! なんでですか! 私はこの世に生まれた初期のころから好きだったけどなー。
パリ:
そう考えると、これから味噌ラーメンを食べる楽しみがまだ人生に残ってるわけで、「じゃないほう」はやっぱり楽しいです。
ナオ:
本当ですよね。だから「よし、これだ!」と店に入りましたよ。
パリ:
でもさ、こういう場合、初めて行くお店だからまずはとんかつ定食を食べたいですよね。
ナオ:
ほんとほんと! せめてね。
パリ:
カツカレーは2回目以降な感じ。だからこそか。
ナオ:
そう。だからこそですよ。もう、中身がすっかり入れ替わってますから。
パリ:
わはは。
ナオ:
カツカレー好きのパリッコさんになってるんで。
パリ:
そういう設定なんだ。いや、僕でもいきなりカツカレーはいかないですよ。
ナオ:
そうか……。
パリ:
初めてのとんかつ屋ではシンプルにとんかつ味わいたい。が、カツカレーも絶対にうまそうです。っていうか、好きな僕ですら、人生で一度もこんな高級なカツカレー食べたことないし。
ナオ:
1980円だもんなー。とにかくそれを注文しましてね。
ナオ:
こんな風にサラダがまず出てきて、ドレッシングが「ゆずこしょう」「ゆずごま」の2択なんですよ。
パリ:
これも選びどころだ。
ナオ:
で、迷うことなく「ゆずこしょう」を使っちゃって、普段から私はあまりごま風味のものって興味がないんですよ。
パリ:
僕ならごま一択です!
ナオ:
そうでしょ! そんな気がした。でも気を抜くとすぐいつもの自分になってしまうからいかんです。
パリ:
気を引き締めておかないとね。
ナオ:
すぐに意識を取り戻してごまの方もかけました。で、
パリ:
へー! なんか、上品な感じ。
ナオ:
ね! 豚肉の断面がすっごいきれいなの。
パリ:
肉質、揚げかた、みるからにただものじゃない感じしますね。実際、どうでした?
ナオ:
これはね。美味しかったとしか言いようがない! 今また食べたい。
パリ:
はは。
ナオ:
カツすごかったです。衣が厚すぎず繊細で、お肉も柔らかくて風味が濃くてね。あとカレーもそもそも美味しい。カツカレーって最高だな! って思った。
パリ:
やった!
ナオ:
カツカレーって、カレーとカツを食べていく配分を考えるのが楽しいですね。
パリ:
そうそう。かなり楽しめる食べものなんですよ。
ナオ:
ただのカレーだとさーっと勢いで食べてしまうけど、カツが時間軸を司ってるっていうか、「カツはあと3きれだな。よし一度ここで水飲もう」みたいなリズムが生まれる。
パリ:
そうそう! 配分! 僕ならそれこそ、カレーにひたってない部分のカツにひとつめは醤油、ふたつめはソースを少しかけ、白米いって。
ナオ:
それいいんだ!? カツカレーのルールをわかってなかった。
パリ:
いや、ルールっていうか、完全に邪道だと思いますが。
ナオ:
目の前にソースがあってそれをかけてみたかったんですが、ここはカレー味で楽しまないといけないのかなと思って。
パリ:
ははは。でもいいお店と知ったからこそ、また今度はとんかつを純粋に味わいにも行けるし。
ナオ:
そうですね。とにかくめっちゃ満足しました。
パリ:
おめでとうございます! カツカレーの世界へようこそ。
ナオ:
はは。いい店でその世界に入ることができました。
パリ:
つーかさ、偉そうに言ってるけど、僕が人生で食べてきたどのカツカレーもいいカツカレーをナオさんは食べているわけで、1回でもう逆転されてます。
ナオ:
いきなりいきすぎたマネを。
パリ:
「マイカリー食堂」の550円のカツカレー食べて大喜びしてますから。
ナオ:
安いな!
パリ:
あ、こんど食べてみて! うまいですよ。
ナオ:
カツカレーってそんなに安いものもあるんですね。っていう貴族みたいな気分だ。
パリ:
ははは。マイカリー食堂は松屋の系列なんで。
ナオ:
なるほど。今度じゃないときは行ってみます。
パリ:
「今度じゃないとき」ってわけわからん日本語。
ナオ:
はは。で、引き続き「じゃないほう」の自分なので、
パリ:
これはやらない!
ナオ:
やらないんですよ。自分でもなにしてるかわかんない。スクラッチ1000円分! さっきカツカレーで2000円使って、豪遊よ。
パリ:
わくわくする~!
ナオ:
そしたらなんと、
パリ:
はは! 「なんと」じゃないよ。600円損してる。いやでも、経験を買ったと思えばね。
ナオ:
そうそう。じゃない自分を楽しんでいます。
パリ:
今後は「スクラッチ? 経験あるよ」って言えるし。
ナオ:
本当はアイス飲みたいのに。
パリ:
喫茶店でホットコーヒー、飲まないすね。もちろん飲む人は飲むんだろうけど。当たり前か。
ナオ:
はい。特にこの日の大阪は天気が良く、暑くて汗かいてるほど。それなのにホットですからもう、じゃなすぎるわけ。でも、美味しかった。知らない町の知らない喫茶店。隣で背広姿の人がノートパソコン開いて仕事してたりして、ここでいつも仕事してんのかなーとか思って。そういうのも、じゃない自分ゆえの体験ですね。
パリ:
ですねぇ。
ナオ:
いきなりお賽銭入れて手を合わせたり。
パリ:
あ、その行為は僕、好きです。気まぐれによくやる。
ナオ:
これ、パリッコさんなら持ち帰りますか?
パリ:
いらないでしょ。
ナオ:
はは。パリッコさんならこういうのもらいそうと思って。じゃない自分としてはもらうべきかなと。
パリ:
街なかの「ご自由に」は好きだけど、これはゴミじゃないんですか?
ナオ:
なんかの建材の一部なのかな? 一度手にとり、あまりに重いので戻しました。
パリ:
この木材を持って帰ると思われていることに関しては、遺憾です。
ナオ:
はは。すみません。で、そろそろ歩き疲れて、もうそろそろ一杯飲んでいいだろうと。
ナオ:
角打ちがあって。
パリ:
うわーいいなー!
ナオ:
「あって」というかね。ここは知ってた。一度行って、いい店だと知っていました。
パリ:
じゃあ、素通り?
ナオ:
いや、そこは、
ナオ:
をつまみにすればいいわけです。
パリ:
ははは。そういうじゃないほうもあるか。
ナオ:
なんのためらいもなく「茶碗蒸し」ですよ。
パリ:
このなかから茶碗蒸し、いかないすね~!
パリ:
ここから選びたいよ~。
パリ:
あ、なんか、いいですね!
ナオ:
茶碗蒸しって具がごろごろ掘り出されてくるでしょう。あれがけっこう楽しくて。できあいのものをチンして出してくれたものだけど、美味しいし発掘しながら飲む感じがいいなと思いましたよ。
パリ:
いいですね! 茶碗蒸し飲み。なぜあまり選んでこなかったんだろう。
ナオ:
ぜひ今度やってみてください! さらにもう1杯飲もうと思い、
ナオ:
ワインとおでんの菊菜。
パリ:
ひ~! もうめちゃくちゃ!
ナオ:
「じゃない」組合わせ。
パリ:
じゃないな~。
ナオ:
店の方に注文した時も「ワインと……菊菜? ですか」と少し間があったけど、でもこれがね。すごい合うんです。考えてもみてください。おでんの甘いおだしと赤ワイン。
パリ:
うん。
ナオ:
すき焼きと赤ワインとかさ、ワインって甘いお肉の風味と合うじゃないですか。
パリ:
濃いめの甘い味と。
ナオ:
そうそう。
パリ:
確かに、また菊菜ってのも風味が強そうだから。
ナオ:
赤ワインによってなんだか洋風な食べ物に感じられてくる。
パリ:
ほー、いいですね。
ナオ:
「これいいわ!」と思いました。おでんと赤ワインっていいなって。
パリ:
単純だけど、言われるともうやってみたくてたまらなくなってくる。
ナオ:
「じゃない」と思ってたけどありな組み合わせでした! と、ここまでが私のじゃない散歩でした。
パリ:
おつかれさまでした。なんというか、じゃないほう散歩って経験値が上がりますよね。「これの良さも知っている」っていう。
ナオ:
そうそう! 自分の範囲が広がったような。
パリッコの“じゃない”1日
パリ:
さて、これから僕のほうを発表しますが、ナオさんの報告を聞いていて思ったのが、我々、正反対っぽいようなことを言いつつ、根本的には近いところも多いじゃないですか。そもそもが安酒飲みだし。
ナオ:
そうですね。根っこは同じ。しみったれてる。
パリ:
なので、けっこうシンクロしてるところがありまして。ちょっとびっくりするくらいでした。
ナオ:
えー! 楽しみです。
パリ:
僕はですね、最寄りが西武池袋線の石神井公園という駅で、その次に近いのが隣の大泉学園なんです。だからまず大泉へ行って。
ナオ:
うんうん。
パリ:
大泉学園の駅前から出てるバスで、乗ったことないのがけっこうあるんですよ。そこで、いきなりバスに乗ってみることにしました。
ナオ:
いいですね!
パリ:
どれも行き先が謎気味なんですが、特に知らない「新座栄営業所」行きに。
ナオ:
埼玉県の新座方面か。ちょっとイメージできない。
パリ:
そしたら、大泉学園町っていう、そこまで縁はないけど、一応知っているエリアをずんずん進んで、そこを抜けてすぐくらいのところが終点だったんです。だから、別にすごくふだんの行動範囲から遠いわけでもない。ところが、
パリ:
駅の近くとかでもない。いきなり異世界に連れてこられたのかと思いました。
ナオ:
はは。空が広いなー。高台みたいな風景ですね。
パリ:
そうなんですよね。たぶん川が流れてそうな。で、とにかく横にセブンイレブンだけあったので、そこで、いきなり都合のいい「じゃないほう理論」ですが、いつも選ばないのを選べばいいだろうと。缶の、スパークリングワインだけ買って、歩き始めました。
ナオ:
はは。ワインだ!
パリ:
もう、ちょっとシンクロしてる。「じゃないほう」というとワインっていう。
ナオ:
じゃない自分はワインいきがち。
パリ:
で、どうやら、「新座墓園」という施設と隣接した場所らしくてですね。
ナオ:
「ボエン」と書くとなんかおかしみがありますね。
パリ:
そうなんですよね。ただ現地にいると、あまりにも知らない土地すぎて、寂しすぎて本当になんかこわくなってくる。
パリ:
この、ちょっと世界観のわからないお地蔵さんに手を合わせまして。
ナオ:
あ! そこも私とリンクしている……あれ、これはひょっとしてこわい話かな?
パリ:
前半はこわい話なんです!
ナオ:
あの橋の下ってことですね。
パリ:
いったん地図を調べてみたら、川沿いに行くと、東武東上線のなんらかの駅方面に行くらしいので、この下の道、通りたいじゃないですか?
ナオ:
なるほど、通れなくもなさそう。柵とかなさそうだけど……。
パリ:
で、周囲を探してみたらこの、
パリ:
を抜けると行けそうだと。
ナオ:
うわー! ここは入っちゃだめなんじゃないですか! 帰ってこられなくなる。
そしたら、
ナオ:
はは。
パリ:
転げ落ちたら絶対這い上がれない作り。
ナオ:
そしてさっきから周り、ゼロ人ですね。だっれもいない。
パリ:
そもそも誰もいるわけない場所なんですよ。
ナオ:
背景素材みたいな風景。
パリ:
けどまぁとりあえず、
パリ:
いったん落ち着こうと。
ナオ:
ワイン、きれい。
パリ:
って、とても優雅な気分じゃないんですけどね。
ナオ:
ははは。
パリ:
で、しばらくは、
ナオ:
これはずいぶんな「じゃなさ」ですね。
パリ:
「今日、本当に家からきたんだっけ?」っていう。
ナオ:
はは。完全なる「じゃないワールド」だ。この後どうなるか不安ですが、今こうして話ができてるから生き抜いたことだけは確か。
パリ:
そうなんです。リアルに、
パリ:
たまに見える墓地にも、まじで誰もいない。
ナオ:
墓しかない。
パリ:
敷地も広大で、彼岸の光景。
ナオ:
これはもうお手上げですね。
パリ:
お手上げです! それでもなんとか、
パリ:
に出て。ただ、風景が完全に旅行先なんですよね。
ナオ:
はは。徒歩で行く感じの道じゃないですね。
パリ:
そうなんです。ここをずっと、スパークリングワインちびちび飲みながら30分くらいかなぁ。本当にようやく、新座墓園周辺を抜けることができました。
パリ:
おじさんがひとり畑仕事してて「現世に戻ってこれた!」って。で、ここからまだまだ歩くけど、朝霞駅ってのがいちばん近いっぽくて、そちらに向かってみることにしたんですが、普通に暴走族のバイクが走ってたりとかして、今度はタイムスリップした感覚に。
ナオ:
はは。まだ異世界ではあるんだ。
パリ:
ふと見上げたアパートの窓に紫のスエット上下が干してあったりして。
ナオ:
はは。ちょっとワルな雰囲気のね。
パリ:
ヤンキー漫画が流行ってた20数年前くらいの世界観なんです。だから、
パリ:
え、なにこれ? うそ? なんかこわ! っていう感覚になっちゃってる。
ナオ:
はは。これはもうメッセージでしょ。ガラス、穴、山……。
パリ:
どう組み合わせてもこわいっていう。
ナオ:
この世界から出るためのヒントであることは間違いないんだけどわからないなー。
パリ:
とはいえ、こういう新鮮な体験、なかなかできるもんじゃないっすからね。なんだかんだ言って楽しみつつ、
ナオ:
おお、街だわ。
パリ:
やっと不安のない風景の場所にたどりつきました。で、すごい腹減ってて、そもそももう、ここまで来たらどの飲食店に入っても「じゃない」だろうと自分を納得させて、この、
パリ:
というそば屋に入ってみたんです。
ナオ:
いいですね! こうでもしないとたどり着けなかった店。
パリ:
ね。結論から言うと、ここがものすごくいい店で!今日もまた行きたいくらい。家族経営で、おばあちゃんらしきフロアの方がすごい親切で。ちなみに僕は、ふだん初見のそば屋に入ったら、天ザルと生ビールを頼みがちなんです。
ナオ:
うんうん。そういう定番ってありますよね。
パリ:
だからこそ、そばのページは見ない!
ナオ:
目もくれないんだ。
パリ:
目もくれず、
ナオ:
お、おいおい! カツカレーがある。
パリ:
はは。カツカレーを知ったからこその興奮。もちろんここから選ぶとしたら、いつもの僕ならどう考えたってカツカレーですよ。っていうか、角切りの牛肉入りカレーに、揚げたてサクサク! のカツがのってる。食べたすぎるでしょ?
ナオ:
うまそう! 今の私にはカツカレーのうまさがわかる。そもそも、そば屋さんのカレーってだけで高鳴る。
パリ:
ね! しかも1000円。が、そこをあえての、
ナオ:
うおー! そば屋さんでチゲ丼か。じゃなすぎる!
パリ:
じゃなくなかったら一生食べなかった。で、本当に今回の機会をくれたナオさんに感謝したいんですが、
パリ:
そもそも、僕の好きな豚バラ、豆腐がたっぷりで。
ナオ:
肉豆腐要素がね。
パリ:
そうそう! で、激辛ってよりは、親子丼風のやさしい味に、ちょっとピリッと辛味が効かせてあるような感じなんです。さらに、この玉子とじのなかに、
パリ:
そば屋の天かすって最高にうまいですからね。
ナオ:
えー!
パリ:
死ぬほどうまかったっす。
ナオ:
パリッコさんの好きな要素の融合だ。
パリ:
もうね、今度誰かに聞かれたら「朝霞グルメ? あ〜瀧乃家のチゲ丼で決まり!」ってくらい。誰に聞かれるんだか知らないけど。
ナオ:
はは。それにしても、サラダ、漬物、みそ汁もついて、ボリュームもあるし、お得な店ですねー。
パリ:
そうそう。こんなにサイドメニューがついてくると思ってなくて、実は先に、これはあんまりじゃなくもないんですが、
パリ:
と、
パリ:
「そばハイボール」を頼んでちびちび飲んでたんです。
ナオ:
うお。そばハイボールいい。小鉢80円もいい。
ナオ:
満喫してるなー! さっきまであんな寂しい場所にいたのに。
パリ:
はは。急にね。そしたらこのハイボール、そば焼酎を炭酸で割ったものかと思ったら、なんというか、ウイスキーっぽいような風味がするんですよね。
ナオ:
そうなんだ!
パリ:
それで帰りにおばあちゃんに、「あれってどういうメニューなんですか?」って聞いたら、お客が僕ひとりだったこともあってか、店員さん総出でやってきて説明してくれて。
ナオ:
はは。すごい。
パリ:
「TENSHO」っていう、長期樽熟成のそば焼酎を使ってるそうで。
ナオ:
へー! 見たことないボトルですね。高級感がある。
パリ:
樽で寝かせたからこそのウイスキーっぽい風味だったらしく、いや〜、うまかった! そしてですね、次が最大のシンクロポイントだと思ったのですが、
ナオ:
ははは! あれ? 私が入ったのと同じ店?
パリ:
そのくらい似てますよね。
ナオ:
あれ? 窓側の席に座ってたのパリッコさんだったのかな。
パリ:
はは。新座と大阪のはずが。
ナオ:
うん。ほぼ同じ店です。
パリ:
で、
ナオ:
器こそ違えど一緒だ。
パリ:
僕はさらに、
パリ:
もいきました。
ナオ:
あら! これは、ナイス「じゃない」ですねー。
パリ:
ですよね。喫茶店でケーキとコーヒーのセットなんて、やらないにもほどがあるんですが、ものすごくゆったりとしたいい時間を過ごせて。
ナオ:
本当ですよね。喫茶店って居酒屋ほどチャカチャカしなくてゆったりできる。
パリ:
卓上にこれがあったので、もちろんやって。
ナオ:
ははは。
パリ:
ナオさんでいうところのスクラッチ。
ナオ:
ギャンブル要素ね。
パリ:
「B型 サンドイッチがハッピーフード。具は多めに。」
ナオ:
ははは。「具は多めに」じゃないよ。
パリ:
もう腹いっぱいなのに、これからサンドイッチ作ってたべないといけないなんて!
パリ:
あとはですね、
パリ:
の横を通ったりしながらさらに歩いて。
ナオ:
こんなに必要なのだろうか?
パリ:
誰も座ってませんしね。
パリ:
朝霞駅前は朝霞駐屯地が近いからか、こういう
パリ:
が普通に通ってたりして新鮮でした。
ナオ:
あーそうですよね。駐屯地がある。しかしさっきの景色を見てるから、大都会に見えますね。
パリ:
ね。駅前かなり栄えてて、今度普通に飲みに来てみようかなって思いました。で、そこからは急に、じゃなくなくなっちゃうんですが、
ナオ:
じゃない世界からの帰還。
パリ:
しかも、駅で帰りかたを調べたら、普通にこの朝霞駅から大泉学園行きのバスが出てるんですよね。狐につままれたような時間から、すっと日常へ戻っていくという。
ナオ:
そうなんですね。決して遠い世界ではなかった。
パリ:
はい。だから、瀧乃家にもハニーにもあづま湯にも、けっこう気軽にまた行ける。もちろんニイザボエンにも。そんな1日でした。
ナオ:
素晴らしい! まさに「じゃないほう」の楽しみを体現したかのような1日です。
日常から無理のない範囲で外れてみる
パリ:
じゃないほう散歩。これはもはや新しいレジャーですね!
ナオ:
ね! しかも、もっと小さな「じゃない」でもよくて、いつも行く定食屋さんで頼んだことないメニューを注文してみるとか、日常から無理のない範囲で外れてみるというのが新鮮で楽しいんですよね。ただやってみて気づくのが、本にも書いたんですが、散歩していい店で飲み食いして「あー楽しかった」って、けっきょくやってることはいつもと同じ!
パリ:
ははは、そうなんですよね! 大枠で言っちゃうと。
ナオ:
ちょっと違う軌道を描いてるだけっていう。でもそれが妙に楽しいんですよね。思わぬ結果になったりして。
パリ:
本当に。だってナオさんの好物にカツカレーが加わるなんて想像したこともなかった。今まで僕があんなに力説してたのに!
ナオ:
はは。いや、食べてみたいとは思っていたんです。こういう機会があってよかった。
パリ:
僕もこれからは別の店にのメニューチゲ丼があったら確実に頼んじゃいますよ。「好きなんだよね〜、チゲ丼」つって。
ナオ:
視野が広がりましたね。
パリ:
それを日常の範囲内でできるのがいいんだよな。
ナオ:
ヒマな日に試してみてほしいです。
パリ:
ぜひ!
遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ
ナオ:
それで最後に宣伝で申し訳ないのですが、12月2日に『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』という私の新しい本が出るんです。これまでに書いてきたコラムをまとめて加筆修正したもので、デイリーポータルZに書かせてもらった記事もいくつか収録されています。
パリ:
前に出た『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』の続編的な。
ナオ:
そうです!
パリ:
実はもう手に入れて読ませてもらったんですが、装丁も含め、すごくいい本ですね。
ナオ:
ありがとうございます! また出すことができてよかった。ちなみに出版元は、パリッコさんの『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』という本も出しているスタンド・ブックスです。
パリ:
スタンド・ブックス、今年出した2冊の本が、僕の本とナオさんの本なんだけど、大丈夫なんだろうか。
ナオ:
ははは。少し心配です。間にもうひとり、たとえばマイケル・ジョーダンの本とか出てたら安心なんだけど。
パリ:
マイケルに屋台骨を支えてもらってね。
ナオ:
ジョーダンなしのこのふたりですからね
パリ:
か細い。が、とにかくいい本でした!
ナオ:
ありがとうございます。で、そこに収録されている文章のひとつに、タイトルのもとにもなっているもので、「いつもの自分じゃないほうを選んでみる散歩」をやってみた記事があるんですね。ちょうどそれを書いたころはコロナが特に大変な時期でもあったので、近所を散策して何か書けないかと考えて、いつも自分が選びがちなもの“じゃないほう”をあえて選びながら、散歩してみようと思ったんです。今回改めてやってみて、パリッコさんにも体験してもらえてよかったです!
パリ:
楽しかったです!