米航空宇宙局(NASA)は24日、地球に接近する小惑星の軌道を変更させることを目的とした「Dart」(ダーツ)と呼ばれるミッションをスタートさせた。未来の地球の安全を守るためにNASAと欧州宇宙機関(ESA)が結束して「地球防衛システム」を構築するため約3億3000万ドルを投入したビッグプロジェクトだ。ダーツ計画は、宇宙探査機(プローブ)を打ち上げ、目的の小惑星に衝突させ、小惑星の軌道の変動を観察する実験だ。
DartはDouble Asteroid Redirection Test(二重小惑星方向転換試験)の略で小惑星の軌道を修正させる人類史初の実験だ。小惑星が地球に衝突する軌道上にあると判明した場合、その軌道を微調整することで地球に衝突する危険性を排除する試みで、地球が宇宙で今後も存続していくための危機管理ともいえる計画だ。
NASAの説明によると、プローブは23日(現地時間)、ヴァンデンバーク空軍基地から民間宇宙会社スペースXのファルコン9ロケットの助けを受けて打ち上げられた。プローブはカメラを1台搭載し、約1年間飛び、来年10月には目的の直径約160mの2重小惑星ディディモスの月「ディモーフォス」に衝突。衝突後の小惑星の影響を監視し、測定する。質量610kgの探査機が秒速6・6kmで衝突することで、ディディモスを周回するディモルフォスの軌道に変化、具体的には、約12時間の小惑星の軌道を少なくとも73秒、最大10分間短くすると予想されている。
NASAによると、太陽系には何十億の小惑星が存在し、地球から観測できる宇宙空間でも約2万7000個の小惑星が特定されている。近未来、小惑星が地球に衝突する可能性は少ないが、その「Xデー」に備えて、NASAはダーツ・ミッションを始めたわけだ。
ちなみに、米映画界では1990年代、小惑星の地球衝突というシナリオの「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」がヒットしている。当方は先月、松本徹三氏のSF小説「2022年地軸大変動」を読んだ。異星人が地軸を勝手に変えたために地球の環境に大異変が生じるというプロットだが、ダーツ計画はプローブが地球に接近する小惑星に衝突し、その軌道を微調整するという人類の存続を賭けた試みだ。
SFのように感じるが、小惑星が地球に衝突した例はある。約6600万年前、小惑星が地球に衝突し、地球の気候は激変し、その結果恐竜たちが絶滅したといわれている。恐竜の化石などの研究で分かっている。
ESAは2019年7月16日、プレスブリーフィングで小惑星「2006QV89」が19年9月、地球に衝突する可能性があり、その確率は当時、1対7000だったと発表した。惑星の地球衝突リスクの確率が4桁内ということは非常に危険だったことを意味する。欧州レベルで行われる宝くじ(ロット)の当たる確率は1億4000万対1だ。当時の小惑星の場合、1対7000だった。我々は事前には知らされなかったが、小惑星が地球に衝突するリスクが非常に高かったことが分かる。
ESAによると、小惑星「2006QV89」の大きさは20mから最大50m。同惑星が2年前、地球に衝突する危険性はなくなったが、23年に地球に接近する軌道に再び入るという。同小惑星が地球に衝突すれば、その爆発規模は広島級原爆の100倍にもなるという。
13年2月15日、直径20m、1万6000tの小惑星が地球の大気圏に突入し、隕石がロシア連邦中南部のチェリャビンスク州へ落下、その衝撃波で火災など自然災害が発生したことはまだ記憶に新しい。約1500人が負傷し、多数の住居が被害を受けた。ESAによると、今後100年以内に地球に急接近が予測される870の小惑星をリストアップしている。
17年9月初め、直径約4.8kgもある巨大小惑星「フローレンス」が地球から約700万kmの距離を通過した。同年10月12日午後には、小惑星(2012TC4)が地球に接近して通過した。この小惑星は直径10~30m。地球から約4万3500kmまで接近した。地球と月の距離が約40万kmだから、4万3500kmはかなり近い、一時期、地球衝突説が流れた。
直径10mの小惑星でも地球に衝突すれば、北朝鮮の6回目の核実験より大きな衝撃が地球全土に波及し、想像を絶した被害が出てくる。米地質学調査(USGS)によると、約4万9000年前、小惑星が地球に衝突し、米アリゾナ州に直径1・2kmのクレーター(バリンジャー・クレ-ター)を残した。
国連の「地球近傍天体(Near Earth Objects=NEO)に関する作業会報告書」によると、NEOの動向は人類が完全には予測できない“Acts of God”(神の行為)と呼ばれてきた。ダーツ計画はその神の領域に関与し、小惑星の地球衝突を回避しようとする試みだ。神の祝福を得るか、それとも神の怒りを受けるかは不明だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。