n番煎じのお茶の濃さをグラフにする

デイリーポータルZ

n番煎じという言葉がある。n番煎じのお茶って実際どれくらい薄いのだろう。測定してグラフにした。

n番煎じをグラフにしたい

二番煎じとは一度煎じた茶葉を再利用しもう一度煎じることである。そうすると味が薄くなるので、「過去の繰り返しで新鮮さがない」という意味でも使われる。

この2をnに変えたのが「n番煎じ」というスラングであり、「2番どころか、もう何回目かわからない」という状況を表現している。ライターにとってみれば「この企画はn番煎じ」というコメントをされるのが一番つらい。

しかし、n番煎じのお茶って実際どれくらい薄いのだろう。定量的に測定してグラフにしたものがあれば見てみたい。

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まだ誰もやってなさそうだ。もし誰かがやっていても「この記事自体もn番煎じでした」で通すつもりだったけど。
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と思ったらデイリーでやられてた。グラフ化ではないのでちょっと趣旨は違いますが。

そこでこの記事ではn番煎じのお茶の濃さを測定しグラフにする。引き延ばしても仕方ないので最初に結果をお伝えするとこうなった。

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n番煎じとお茶の彩度の関係。20番煎じ程で彩度は10分の1に低下した。

これが、おそらく世界初(という意味では一番煎じ)の、「n番煎じのお茶の濃さグラフ」である。よければ参考にしてください。

どうやって測定したか

さてここからは測定の経緯を順を追って説明しよう。

まず、お茶の濃さをどうやって測定するか。濃さには味の濃さ色の濃さがあると思う。n番煎じとは要するに新鮮さがないという意味なので、味の濃さのことだろう。味の濃さを定量的に測定したい。

味の濃さについてよくわからないが、とりあえずポケット糖度計というのを買った。Amazonで1500円。

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糖度計。テレビで特集していたラーメンの学校で使われているのを見たことがある。

正直、お茶に糖度が含まれているのかはわからないが、ゼロってことはないだろう。nの数字を増やすごとに何かしら値の変化があるはずだ。

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一番煎じのお茶で糖度を測定してみた。
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糖度は蒸留水と同じ「0」だった。ダメじゃん。

「そりゃそうだよな」としか言いようがない。緑茶は甘くないし、この企画も甘くない。

色の濃さを測定する

味の濃さを手軽に定量的に測定するのは難しそうなので、色の濃さの測定に方針転換する。調べたところ、お茶の色の濃さを測定するのは珍しいことではないようだ。そういう論文も見つかった。この論文では茶葉の色が品質評価に使えると言っている。これなら私にも出来そうだ。

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論文に従い、透明なポリ袋に入れてカメラで撮影する
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ポリ袋から四角形を抜き出し、色の数値を表すRGBやHSVの平均値を求める。
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ちなみに、外光の影響を避けるため、窓を黒い布で覆った上、遮光性の高いカーテンを閉めて行った。(この画像だと下から光が漏れていますが、ちゃんと直しました。)
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照明の光の当たり方も可能な限りそろえるため、カメラを三脚に固定しその前にポリ袋を持って撮影した。カメラはマニュアルモードで、絞りやシャッター速度やISO感度などの設定値を固定した。

測定します

用意したのは「お~いお茶 宇治抹茶入り玄米茶」だ。

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いま思えばもっとシンプルに緑茶っぽいやつを選べばよかった。
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お湯で煎れる場合と水出しの場合があるので両方試したい。まずはふつうにお湯。

測定方法はこう。

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めちゃくちゃ真面目にn番煎じのお茶の濃さを測定しようとしている。何が私をそこまで駆り立てるのか、自分でもわからない。

やるぞ~!

一番煎じはうまい

まずはn=1。一番煎じ。

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5gの茶葉を入れ
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ゼロリセットし、沸騰直後のお湯200mlを追加。
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30秒蒸らしたのち、器に注いでよく混ぜる

濃い。香りがふぁ~っと広がる。玄米が入っているからなのか、お茶漬けの風味がある。

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撮影。なんというか、我々の知っているお茶の色だ。
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二番煎じ、急激に薄くなった

続いて二番煎じ。

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急激に薄くなった。味はかなり薄いがギリ許せるレベル。一番煎じの味の濃さを100とすると、体感でだいたい40ぐらい。

三番煎じは味の付いたお湯

三番煎じ。普段から三番煎じぐらいまでは余裕で行ける。 

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色はさらに薄くなり、味は「味の付いたお湯」という評価。一番煎じの味の濃さを100とすると、体感でだいたい10ぐらい。

その後も四番煎じ、五番煎じと続け、六番煎じでついに体感の味の濃さが0となった。完全にただの白湯である。

六番煎じ。味はただの白湯。しかしほんのりと緑色は残っている。

透明になるまで続けよう

もうとっくに味はしないけど、この薄い緑色はいつまで続くのだろうか。色が透明になるまで続けることにした。実験というか修行である。

10番煎じ。まだまだ。
15番煎じ。あまり変わらない。

15番煎じぐらいからオペレーションが完全に最適化され、無駄のない動きで迅速に測定できるようになった。いらないスキル。

25番煎じ。あきらかに薄い。

25番煎じ。ついにほぼ透明だ。おわり!

グラフ化する

こうして一番煎じから25番煎じまでの測定が終わった。

左上が一番煎じで、右下が25番煎じ。きれいなグラデーションだ。
ポリ袋に入れて撮影した色の平均値でマスにした。n=1の暖かみは次第に抜けていき、n=7ぐらいから寒色となる。
n=1から25までのRGBの値とHSVの値。これを見ると、色の鮮やかさを示すSの値が大きく変化している。一方で、緑色を表すGの値は増えたり減ったりしている。

そこで、nの値とSの値の関係をグラフにしてみた。これが冒頭にお見せしたグラフである。

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n番煎じの鮮やかさSは、S=103.3n-0.753 で表されることが分かった。R^2 = 0.94なのでかなりきれいな傾向が出たといえる。ただし今回は1回しか測定していないのである程度の誤差は目をつぶる必要がある。

けっこうきれいに傾向が出た。三番煎じで彩度が半分以下になり、その後はゆるやかに彩度を減らしていく。

一方で、体感の味の濃さも重ねてみる。

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味の濃さはn=1のときの濃さを100としている。本当は機械で測定したかったが叶わず、あくまでも体感の値。

これを見ると、味は色よりも薄まるのが早い。6番煎じ以降はただのお湯の味だったので、X軸にぴったりとへばりついたグラフになった。

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水出しもグラフ化しよう

さて、さっきまではお湯出し(水出しの反対の言葉が思い浮かばないのでそう呼ばせてください) だったが、水出しも測定する。グラフに違いはあるのだろうか。

お茶のパッケージの説明によれば、水出しの場合は水を入れて3分待つ必要がある。これを忠実に守る。

お湯を沸かさなくていい分オペレーションは楽になったが、3分待つのがボトルネックだった。

15番煎じで透明になった。
ポリ袋の撮影の様子。
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正直、色のグラフはあんまり変わらなかった。

しかし、面白いのが体感の味の濃さのグラフ。

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水出しのお茶は六番煎じでもギリ許せるレベルの味の濃さだったし、その後もしばらくはお茶を感じられた。

お湯出しと比べて、味が薄まるのが遅かった。グラフの下がり具合が緩やかである。

お湯出しは水出しよりも味が薄まりやすいのはなぜ?

ここで疑問が生じる。

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お湯出しの場合はn=6で味が0となったが、水出しではn=15まで味が続いた。

この原因として思いついたのが2つ。

原因の候補①:抽出時間の違い。
       (お湯出しは30秒、水出しは3分だった)
原因の候補②:温度の違い

①と②を検証してみる。水出しの抽出時間をお湯出しの時と同じ30秒に設定して、改めて体感の味の濃さを求める。

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追加検証用の紙コップ。
それぞれ、一番煎じの時の味の濃さを100とした。水出し3分に比べ、水出し30秒は味の濃さが落ちるのが早かった。しかし、お湯出し30秒はもっと早かった。

どうやら①も②も両方ありそうだ。しかし、水出し30秒のほうが水出し3分よりも味の濃さが落ちるのが早いのは予想外だった。逆だと思っていた。どうやったらこれの説明がつくだろう。自分なりに仮説を考えた。

・お茶というのは茶葉の成分が溶け出すことで味がする
・茶葉の成分の残量が0になると味がしなくなる
・抽出する温度が高いと、茶葉の成分が溶け出しやすい
・短時間の抽出で溶け出す成分と、長時間の抽出で溶け出す成分の2種類がある

30秒の抽出で溶け出す成分と、3分の抽出で溶け出す成分は別物で、前者の方がもともとの残量が少ないのですぐに枯渇したと考える。

ぴったりな報告文書があった

ここまでが私の限界である。ここからは文献を調査し仮説が正しいのか確認した。調べたところ、堀江秀樹氏らの「茶主要成分の茶浸出液への溶出特性」という報告文書にたどり着いた。世の中にはいろんな研究者がいて、いろんな報告書が出ていて、こうして知的好奇心を満たしてくれる。ありがたいものだ。

この報告書には、抽出時間2分間の、各温度での各成分の溶出率について記載されていた。

茶主要成分の溶出率に対する水温の影響
(堀江秀樹氏ら「茶主要成分の茶浸出液への溶出特性」より引用)

20℃と90℃では、2分間抽出したときに溶け出す成分の量が全然違う。仮説の「抽出する温度が高いと、茶葉の成分が溶け出しやすい」はこのグラフを見れば正しいとわかる。

また、この報告書にはありがたいことに抽出時間の違いによる溶出率についても書かれていた。 

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茶主要成分の溶出率に及ぼす温度と浸出時間の影響
(堀江秀樹氏ら「茶主要成分の茶浸出液への溶出特性」より引用)

このグラフを見ると、特にお茶のうま味成分のテアニンは抽出時間が長いほどよく溶け出すことがわかる。私の追加実験の「水出し30秒」の5番煎じは、抽出時間が短すぎて成分がほとんど溶け出さないために味がしなかったと考えるのが自然だ。本当はもっとじっくり長く抽出すればまだ味がするはずだ。

このグラフを見れば成分によって抽出時間と溶け出す量の関係に違いがあるので、私の仮説「短時間の抽出で溶け出す成分と、長時間の抽出で溶け出す成分の2種類がある」はあながち間違いではないと思われる。

きっかけはインターネットスラングであったが、実験、考察、文献を通じて知的好奇心が満たされた。楽しかった。お茶がしだいに薄くなるのと反比例するように、記事の中身はだんだん濃くなってきたのであった。

 

宵越しのお茶は飲むな

宵越しのお茶は飲むな」という言葉がある。一度茶葉を煎じると、抗菌作用のあるタンニンが茶葉から抜け出すため、放っておくと茶葉が腐敗し食中毒になる可能性があるようだ。今回は短時間の間に実験したので大丈夫だった。ただ、今回の実験で水出しの場合、15番煎じぐらいまでいけると言いましたが、普通においしくはないし危険っぽいので二番煎じぐらいでとどめておいた方が無難です。

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