Googleは、あえて〝負け犬〟となることを選ぶことがある

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2010年、Googleは1Gbpsという画期的なインターネット速度を実現した「Google Fiber」でブロードバンド市場に参入します。しかし、Googleの挑戦は失敗してしまいます。

ただ、Googleにとってこの失敗は「想定通り」でした。なぜ、Googleは失敗することを想定してFiberを始めたのでしょうか?その疑問について、海外YouTubeチャンネル「Logically Answered」が解説しています。

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*Category:テクノロジー Technology *Source:Logically Answered,wikipedia

Googleが「ブロードバンド市場」に参入した本当の狙いは?

当時の米国のブロードバンド市場は、AT&T、Comcast、Charterといった企業が市場を支配していたため、Googleの戦略は大胆な試みでした。しかし、Google Fiberは、カンザス州に続き、テキサス州、ユタ州、テネシー州でサービスを開始し、好調な滑り出しをみせます。

ところが、Googleの成功はあまり長くは続きませんでした。2010年代半ばになると、AT&Tは反撃を開始します。AT&Tは何十もの都市をカバーする全米展開を発表したのです。そして、このビジョンを実現するために1400億ドル(約18兆円)もの費用を費やすことも発表しました。

この発表はGoogleの爆速インターネット計画の衰退に繋がりました。その後、彼らはすぐにFiberのスタッフを半分に減らします。また、AT&TとCharterは、Fiberを訴えたり、政治的な便宜を図ったりして妨害し始めました。

結局Googleは、新しい地域にFiberを導入しなくなりました。なぜなら、Googleが拡大しようとしている都市の多くには、すでにAT&Tの設備があったからです。また、AT&Tは安いだけでなく、評判も良かったため、Googleであっても形勢を逆転させることは難しいことでした。

Fiberは現状、新たに5つの州に進出する計画を持っているようですが、不況の中でこれがどれだけ実現するかは不明です。しかし、Googleが最終的にこのような事態になることは分かりきっていました。では、なぜGoogleは苦戦するブロードバンド市場を攻めたのでしょうか?

Googleがなぜブロードバンド市場に参入したのかを理解するには、以前のインターネットの状況を振り返ってみる必要があります。光ファイバーによるデータ通信は、決して新しい技術ではありません。NASAが月に送ったカメラにも光ファイバーケーブルが使われています。

ただ、当初、この技術は非常に複雑な製造工程を必要とするため、商業的に実現可能なものではありませんでした。高品質の光ファイバーは、秒速2メートルでやっと製造できる程度だったのです。しかし、1983年には、これを秒速50メートルまで引き上げることができました。この進歩は、光ファイバーケーブルの製造コストが、従来の銅線ケーブルの製造コストよりも安くなることを意味します。

ところが、ブロードバンド業界は「ダイヤルアップインターネット」という、全く違う方向へ向かっていくことになります。ダイヤルアップとは、指定された電話番号に電話をかけ、電話ケーブルを通じてインターネットに接続するものです。そのため、通信速度は56kbps以下と非常に遅いモノでした。

しかし、これがかえって良かったといわれています。なぜなら、新しい技術を導入するときには、導入のハードルをできるだけ下げたいものだからです。インターネットがすでに世界中にある電話回線で使えるようになったことは、大きな収穫でした。ただ、時が経つにつれ、この仕様がインターネットの最大の阻害要因になっていきます。

その後、ブロードバンド業界は「DSL」と「ケーブル」の2つのサービスに固執するようになります。DSLは電話事業者が提供し、電話回線をできるだけ活用することを目的としたサービスです。一方、ケーブルインターネットは、ケーブルプロバイダーが提供するもので、ケーブル回線を可能な限り活用することを目的としたサービスです。しかし、どちらも根本的に優れているわけではありません。

ただ、どの新興企業も新たな規格に挑戦することがなかったため、既存のブロードバンド業界がほとんどルールを決めていました。そして、当時のインターネットといえば、電子メール、軽いソーシャルメディアを利用する程度だったため、利用者の多くも通信速度を求めていませんでした。

ところが、2010年以降、こうした状況は一変します。ブロードバンド業界が変化しない一方で、インターネットを基盤とする企業は指数関数的に成長し、通信速度に対するニーズも高まりました。その代表的なものが、ストリーミングとゲームです。4Kテレビは非常に安価になり、YouTubeやNetflixなど、基本的にすべてのストリーミング・プラットフォームが4Kオプションを提供し出しました。

ただ、4Kストリーミングを実現するためには、通信速度が必要になります。480pのストリーミングなら1.1Mbpsで済みますが、4Kのストリーミングには20Mbpsが必要です。これは家庭内で自分一人しかインターネットを使っていない場合の話です。つまり、家族やルームメイトと一緒に暮らしている場合、全員が快適にインターネットを利用するには、50Mbpsや100Mbpsの速度が必要だということです。

さらに、この頃からゲームのダウンロードも普及します。100GB、150GBのゲームをダウンロードするには、4Mbpsをはるかに超える速度が必要でした。従来の速度では、ゲームをダウンロードするのに何日もかかってしまうのです。また、快適にゲームをするためにはPingも重要になります。従来のサービスでは、このようなユーザーの要望に応えることはできません。しかし、既存のブロードバンド業界は、状況を変えようとはしませんでした。そこで、Googleが登場します。

Googleは世界最大のインターネット企業です。インターネット環境がより良くなることを望んでいるのは彼らなのです。また、Googleは、Google Hangoutsによるビデオ通話、Google Cloudにといった生産性の高いアプリケーションを普及させたいと考えていました。

これらのアプリケーションを普及させるには、DSLやケーブルを廃止して、ファイバーやもっと優れたものに切り替える必要があったのです。そこでGoogleは、1Gbpsのインターネットを目指してFiberを開始します。

当時は1Mbpsのスピードがやっとの時代です。1Gbpsというスピードは、少なくとも一般ユーザーにとっては理解できるものではありませんでした。ただ、Googleにとっては、巨大なデータセンター、ネットワーク、サーバーを動かす必要があるため、1Gbpsという速度は重要でした。

Googleは既存のブロードバンド業界への挑戦が難しいことを知っていました。ただ、Googleは最初から既存の業界を追い越すつもりはなかったのです。電気通信が主要事業であるAT&Tは準全国的なファイバー配備を達成するために1400億ドル(約18兆円)を要していました。

もし、Googleがゼロからこれを実現しようとすると、2000億ドル(約26兆円)から3000億ドル(約39兆円)の費用がかかるでしょう。2010年当時のGoogleの時価総額は3000億ドル(約39兆円)から4000億ドル(約52兆円)に過ぎません。つまり、GoogleがFiberに真剣に取り組んだとしたら、実質的に全財産の3分の1をこの市場に賭けるということです。Googleはそのようなリスクの高い賭けは行いません。

Googleの本当の狙いは、Fiberを流行らせることではなく、既存のブロードバンド業界の独占を脅かすことだったのです。

GoogleがFiberを発表したことによって、既存のブロードバンド業界は、Fiberを上回るサービスを提供し始めました。AT&Tはなんと5Gbpsまで提供し出したのです。また、ケーブル・インターネットも最大500Mbpsの速度を提供できるようになりました。

その結果、Fiberはなかなか注目を集めることができませんでした。しかし、Googleは比較的低いコストで低迷するブロードバンド業界を活性化させ、快適な通信環境を手に入れることができたのです。

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