左がヘーゼルナッツと呼ばれるセイヨウハシバミの実、右は日本在来のツノハシバミ。
なんとなくは知っているけれど、詳しくは一切知らない海外のナッツ、それが私にとってのヘーゼルナッツ。
日本にもその仲間が自生していたので、本家ヘーゼルナッツ(ただし長野育ち)と和製ヘーゼルナッツを食べ比べてみた。
たまた見かけた木の実がヘーゼルナッツの仲間だった
今年の7月上旬、仕事で長野を訪れたときのことだった。
樹木医をやっている友人の神藤さんに、知り合いが所有する森を案内してもらっていたところ、とても妙な形をした、まだ青い木の実を見つけた。
クチバシの長いモフモフした鳥の頭が2~3個くっついたような形をしている。樹木医なので樹木に詳しい神藤さんに、これは何かと尋ねたところ、とても予想外の答えが返ってきた。
「これはヘーゼルナッツですね」
え、ヘーゼルナッツって日本の山に自生しているの!
まさかハワイのお土産でもらうナッツが長野の山に自生しているとは。
「それはマカダミアナッツ。正確にはヘーゼルナッツの仲間で、ヨーロッパとか中央アジアで栽培されているのはセイヨウハシバミの実。日本にも同属異種のハシバミとツノハシバミが自生していて、これは角があるからツノハシバミの実です」
ハシバミといえばシンデレラが母親のお墓に植えた木。あれってヘーゼルナッツの木だったのか。これはドングリの一種ですか?
「ドングリはブナ目ブナ科の木の実だけど、ハシバミはブナ目カバノキ科だから、ドングリの仲間ではありません。でもドングリそっくりの実になりますよ」
ヘーゼルナッツの仲間が日本にも自生しているとは知らなかった。
これは実が熟す秋頃にまた来て、その味を確認しなくては。
長野で栽培されているヘーゼルナッツを使ったアイスを食べる
そろそろあのツノハシバミが大きくなって落ちている頃かなと、10月下旬に再び長野の森へと向かいつつ、長野市内にある「はしばみの里ふるフル」というアイスクリーム屋さんへと寄り道をした。
なんと偶然にも、たまたま見たテレビで長野県産ヘーゼルナッツが食べられる店として紹介されていたのだ。
ここで使われているヘーゼルナッツは、日本在来のハシバミやツノハシバミではなく、イタリアから輸入したセイヨウハシバミの苗木を育てて収穫したもの。
何度か食べたことはあっても、その味をはっきりと意識したことがないヘーゼルナッツなので、ここで本来の味を覚えておこう。
注文したアイスを食べてみると、ナッツ感が圧倒的にすごく、どこまでもクリーミーで驚いた。これは口の中で溶けるナッツだ。落花生の薄皮を食べたときに感じるような独特の香ばしさや苦味をうっすら隠し持ち、その個性が味の深みになっている。知っている範囲だとマカダミアナッツに近い味だが、コクがさらに力強いかも。
チョコとヘーゼルナッツというベストタッグアイスも当然うまい。なるほど、これがイタリア生まれ日本育ちのセイヨウハシバミの実力か。
ヘーゼルナッツのポテンシャルがすごいのか、ここの国産ヘーゼルナッツが特別なのか、アイスを作る職人が凄腕なのか、感動の根源がよくわからないが、とにかく想像以上においしかった。勢いがついて頼んでしまった紅玉とシャインマスカットのアイスも最高だ。寄り道をして正解。
ヘーゼルナッツの畑を見学させてもらった
このアイスの素材となっているヘーゼルナッツの畑を見学できますかと店員さんに伺うと、笑顔と共に想定外の答えが返ってきた。
「すぐ裏にあるので見ていってください。ただし、収穫はだいぶ前に終わっているので、もう実はついていません。
収穫は木から落ちた実を集めるのですが、お盆過ぎくらいから九月いっぱいくらいまでなんですよ」
しまった。なんとなく紅葉の頃かなという勝手なイメージでのんびり10月末に来てしまったが、まさか海にクラゲが発生する頃が収穫期だったとは。そういえばテレビでここを知ったのは9月頭だったしな。
愕然としながら畑へ行ってみると、セイヨウハシバミの木は株立ちスタイルで2メートル程と小さく、まだ葉っぱはしっかり残っていた。
ただやっぱり実はついていない。
ですよねー。
それでもじっくりしつこく探していると、雨にも風にも負けず落ちなかった実や、収穫時に拾い漏れたらしき実がいくつか残っていた。7月に見つけたツノハシバミとは全然違う形をしている。でも実がまとまって複数付いている様子は同じだ。
もちろん初めて見る木の実なのだが、なんだか昔から知っているような姿である。すごく普通、ザ・木の実。これがヘーゼルナッツと知らなければ、単なるドングリの一種だと思っただろう。
収穫すべきタイミングから一か月以上も野ざらしになっているので、味はまったく期待できないが、もし残っていたらどうぞとのことだったで、ありがたくいただかせてもらおう。
ツノハシバミの実が見つからない
そんなこんなでアイス屋さんを経由して、本来の目的地である森へと到着。セイヨウハシバミがすでに収穫時期を大幅に過ぎていたので、ツノハシバミもかなりの期待薄ではあるのだが、一つくらいは残っていると信じ手探す。
木のある細かい場所はすっかり忘れていたが、セイヨウハシバミをしっかり観察した後だったので、それとよく似た木であるツノハシバミはすぐに見つかった。
どうにか残っていてくれと実を探すものの、これがまったく見つからない。ツノハシバミの木は何本かあったのだが一つもない。
やっぱり来るのが一か月遅かったようだ。
木にないのなら地面に落ちているのではと探してみると、それっぽい実を発見。ただし腐っていたり、穴が開いていたりで、状態の良いものは皆無である。
この残念な結果を樹木医の神藤さんに報告すると、おいしい木の実だからリスなどの動物が食べてしまったのではとのこと。なるほど、そういうことか。
生まれて初めてリスが憎いと思った。いやそれは身勝手すぎますね。今頃やってきた私が悪い。
どうにかツノハシバミの実を発見!
この取材は「来年につづく……」になりそうだなと諦めかけた頃(よくあるので)、わざわざ来てくれた神藤さんが到着。そしてまさかの一言をお土産に持ってきてくれた。
「向こうに一個だけありましたよ!」
さすが樹木医!
こうして念願の和製ヘーゼルナッツ、ツノハシバミの実と出会えたのだが、7月からサイズもフォルムもほとんど変わっていなかった。まさかパチンコ玉サイズとは。
変わっているのは色だけで、動物でいえば夏毛から冬毛に生え変わっただけである。
ポケモンにこういうキャラがいたような気がするぞと調べたら、ドードー/ドードリオがそっくりだった(こちら)。
ハシバミの実も手に入れたい
どうにかセイヨウハシバミとツノハシバミを手に入れたが、どうぜなら普通のハシバミも見つけたい。ツノハシバミの実をジャパニーズヘーゼルナッツと呼ぶにはさすがに小さすぎるが、ハシバミはもう少し大きいような気がするのだ。
だが神藤さんと一緒にかなり探しまわったものの、長野では見つけることができなかった。遠くからでもわかりやすい特徴のある木ではないし、まとまって生える木でもないので、当てもなく探すのは難しいのである。
ついついハシバミじゃなくてキノコを探してしまうという私の不真面目な態度にも問題があったかもしれない。
どうしてもハシバミの実が欲しかったからメルカリまで探したが、世の中には「HASHIBAMI」というブランドがあるらしく、カバンや財布ばかりが出てきて、お目当ての木の実は全く出てこない。
諦めるものかとネットを検索すると、新宿御苑でハシバミの花が咲いたという過去の記事がヒット。持ち帰りはできなくても見学だけでも十分だと向かったものの、生えている場所を聞いたサービスセンターで伺った話によると、なんとここのハシバミはこれまで一度も実をつけたことがないそうなのだ。なかなかのぬか喜びである。
ようやくハシバミの実を見つけた!
ほかに可能性があるとしたら、ショクダイオオコンニャクの開花を嗅ぎにきた神代植物公園だろうか(こちらの記事)。私はなんでここまでハシバミにこだわっているんだろうと自分を不思議がりながら足を運ぶと、入り口付近の「木の実300ふれあいミニ博物館」というコーナーで、ハシバミとツノハシバミの実を発見!
ただしボランティアの方がいなかったので、残念ながら触れ合うことはできず、ガラス越しの対面となった。
ようやく出会えたハシバミは、形こそセイヨウハシバミにそっくりだが、そのサイズはツノハシバミより一回り大きい程度だった。セイヨウハシバミと比べると体積で半分くらいだろうか。
日本でもハシバミの実を食用とする地域もあるらしいが、あまり利用が広まっていないのは、やっぱりサイズの問題が大きいのかな。
ちょっと小雨がパラついてきたけど、せっかくなのでこれらが実った木を見てこよう。
園内の植物会館で尋ねると、目的の木が生えている場所を丁寧に教えてくれた。
ようやくハシバミの木にたどり着いた瞬間に雨が強くなってきた。なんの呪いだろうか。
葉っぱが青々としているので、まだ実も残っているだろうと傘をずらしてじっと見上げるが、残念ながらまったく見つからなかった。釣り堀にきたのにお目当ての魚が釣れないみたいな悔しさが募る。
自然相手の宝探しは、タイミングがちょっとずれるだけで難易度が急激に上がるもの。たぶん9月だったら楽勝だろう。どこをゴールにするか次第だが、やっぱりこの課題は「来年につづく……」なのかな。
まあどうせ、見つけたところで持ち帰ってはいけない植物園だしな。
雨も強くなってきたことだし、風邪をひく前にさっさと帰ろうかと諦めかけつつも、最後にもうちょっとだけと屈んだ足元で、ようやくお目当てのお宝を発見!
よかった。すごくスッキリした。
セイヨウハシバミとツノハシバミを食べてみる
今年のハシバミ探しはここまでにして、ようやくお待ちかねの試食タイムだ。
いただいてきたセイヨウハシバミと、一つだけ残っていたツノハシバミを食べ比べてみよう。
やはり野ざらしのセイヨウハシバミだけあって、中身がすっかりミイラ化していたり、カビが生えていたりするものも多かったが、いくつかは食べても大丈夫そうだ。これまで数多の食材採取をしてきた経験があってこその判断であり、まったくおすすめはできないが。
ツノハシバミは最後まで木に残っていたやつなので、リスも食べないし重力でも落ちなかった実となる。未成熟ではと心配したが、三つのうち二つは中身がちゃんとあった。今の私にとっては金のエンゼルよりもうれしいアタリだ。
どちらも炒って食べてみたところ、セイヨウハシバミは少し風味が抜けているんだろうなというピンボケ感のある味とはごたえながら、それでも香ばしくてナッツのコクがしっかりある。まさにあのアイスの味だ。
そしてお待ちかねのツノハシバミだが、ほとんど同じ味だった。ただしサイズが小さすぎる。なんだか自分が巨人になったみたいでおもしろいといえばおもしろいが、おいしいだけに物足りなさが悔しい。
でも日本にヘーゼルナッツの仲間が自生しているということがわかって、とても満足している。
セイヨウハシバミとツノハシバミを食べてみて、どちらもチョコレートやコーヒーと合うだろうなと閃いたが、ものすごく当たり前の感想ですね。
自然の中から食べられるものを探すことが好きなのだが、最近は探すべきターゲットを見つけられないことも多い(なにを探したらいいのかわからない)。そのためぼんやりと日々を過ごしていたが、久しぶりに達成感のある食材探しとなった。自力では何一つ見つけてないような気もするが。
こうなると気になるのは、持ち帰って食べることが叶わなかったハシバミの実の味である。ツノハシバよりも大きく、でもセイヨウハシバミよりは小さく、そして大体同じ味だろうという予想はできるのだが、やっぱり確認してみたい。
ハシバミというのがどういう木で、どういう場所に生えるのかがなんとなくわかったので、 いつか出会うこともあるだろう。こういう楽しみをたくさん懐で温めて生きていこう。
同人誌のお知らせ
11月21日に「作ろう!南インドの定食ミールス」という同人誌が頒布開始になりました。唐突に南インドで恐縮です。
東京・大森の「ケララの風II(現・ケララの風モーニング)」オーナーシェフである沼尻匡彦さんが提供していたベジミールスのほぼ全料理を、家庭向けにレシピ化しました。
さらにミールスに関する雑学、沼尻さんと縁の深い方の寄稿や対談、あんな人やこんな人のミールス体験漫画、南インド料理虎の穴「ケララの風」ミールス教室の様子など、もりだくさんな内容です!
■掲載レシピ:ライス/ダール/サンバル/ラッサム/トーレン/アチャール/パパダム/カード/クートゥ/イステュ/アヴィヤル/ティーヤル/エリセリ/オーラン/パチャディ/カーラン/マサラチャイ/ラッシー
■特別寄稿:とら屋食堂 榊正浩 榊紀子/インド食堂 チャラカラ 岡田博志 岡田陽子/なんどり 稲垣富久/葉菜 吉田哲平/MON marushime 北野浩康/宮里みかん園 宮里かおり/マサラワーラー 武田尋善/阿佐ヶ谷書院 島田真人/音楽家 田中邦和/インド料理研究家 香取薫
■ミールス体験漫画:オカヤイヅミ/白ふくろう舎/おぐらなおみ/スケラッコ/土井ラブ平/ラズウェル細木/かわいしのぶ/辻村哲也/油虫太郎/まぐねふ