今時のパンケーキが厚みを増すにつれ、今川焼きに近づいてきた。
ふんわりと厚焼きのパンケーキは、コーヒーとセットで1000円以上することもあるプレミアムな食べ物だ。
一方、今川焼き(大判焼きや回転焼きとも呼ばれる)といえば5個入りが250円ほどで売っている、冷凍庫の友。街中で出来たてを買ったとしてもせいぜい150円くらいだろう。
ちょっと、50円の冷凍今川焼きに厚焼きパンケーキのふりをさせてみたい。
フワフワ、フワトロ、シュワシュワ…最近の厚焼きパンケーキをあらわす擬態語は、少しずつ実体をなくしている。その鍵はメレンゲだそうだ。
これでもかと泡立てたメレンゲを加えることで、生地はふんわりと厚みを増し、くちどけも良くなる。
小麦粉とは偉大なもので、ザクザクしたクッキーからふわふわのパンケーキまで、原材料はだいたい同じだ。
食感の魔術師ともいうべき小麦粉をリスペクトしつつも、要するに違いは空気の含有量なのだ。
一方、今川焼きの売りはみっちりと詰まったあんこだ。見た目は似てるが方向性は真逆。赤茶色の小豆には確かな実体がある。
パンケーキも好きだけれど、この記事ではひたすら今川焼の肩を持ちたい。
産声をあげる赤ん坊ではないのだから、いまさら空気をありがたがる必要はない。
フワフワを求めた先の、唐突なあんこをありがたがろう。
1. 今川焼きの純喫茶風
丁寧に時間をかけて焼き上げた厚みのあるホットケーキ。板橋区大山の「ピノキオ」など、昔ながらの喫茶店でも人気のメニューだ。今川焼きは、そんな懐かしいホットケーキのふりだってできる。
さっきまでカチンコチンだったのがレンジで1分半、早着替えのアイドルみたいだ。
味は言わずもがなジューシーでしっかり甘く、足し算の美味しさだ。
食べ慣れないあんことの組み合わせで、メープルシロップって黒蜜にそっくりだという発見もあった。サトウカエデとサトウキビ、種類は違えど同じ植物の汁だからだろうか。
名残惜しくあんバターを味わっていると、今川焼きはパンケーキの上位互換なんじゃないかという気がしてくる。すくなくとも、今以上に晴れ舞台で活躍できる資質を持っている。
もっと今川焼きには旅をさせたい。
2. ハワイアン今川焼き
2010年代、パンケーキ屋が大行列だった覚えがある。そんな流行のきっかけの一つが2010年に日本初上陸したハワイ発の「Eggs ’n Things」だ。そびえ立つホイップクリームと色とりどりのトッピングが話題となり、原宿から全国に人気が広がった。スイーツ界のラーメン二郎的インパクトがあった。
ハワイと和菓子のコラボ。威勢のいいおやっさんがねじり鉢巻にアロハシャツを着てる姿を想像すれば、意外と合うんじゃないか。もしかして、日系人の多いハワイのどこかに実在したりしないだろうか。
味の方も、予想以上にあんこの風味は奥に引っ込み、イチゴやブルーベリーの弾ける甘酸っぱさが引き立つ。
英語話者に囲まれて自己主張できない日本人のようなイメージだが、そのぶん協調性のある味だ。
あんこに比べるとトッピングの甘さは控えめなので、1人でも食べ切れる味だった。とはいえ誰かとシェアしたい楽しさだ。
3. アメリカンな朝食×今川焼き
アメリカでは、しょっぱい料理とパンケーキの組み合わせも定番だそうだ。ならば今川焼にだってチャンスはあるはず。
米軍のG.Iカットのたくましい青年たちが肩を並べて、忙しく朝食を食べている。食べ盛りの若者の胃袋を満たす分厚いパンケーキにナイフが入る。するとその断面からあんこが出てくるのだ。
初めての組み合わせを前にして胃がざわつき始めるが、こちらは平気な顔で食べてみよう。
これが意外とすんなり食べられて拍子抜けした。甘い厚焼き玉子の面影が見え隠れする味。
有塩バターが甘じょっぱく架け橋になってくれるからか、ベーコンとも合わないことはない。食感だけならむしろカリカリとモチモチがベストマッチともいえる。
もう一度食べようとは思わないけど、和洋折衷の文化のひとつとしてはありというか、こんな食の洋風化をはたしたパラレル日本があってもいいんじゃないか、と思った。
コーヒーがいつも以上に美味しかった。
今回はあんこにこだわったが、今時の今川焼きは中身がカスタードやチョコ、抹茶クリーム、おかず系にまで多様化している。
去年の1月頃、今川焼ブームが来て今年の流行語は「ガワる」になる!というニュースが一瞬だけ流れたが、それに関してはいまだ音沙汰なしだ。
しかし、そんな流言飛語に関わらず、今川焼はパンケーキに負けないポテンシャルを秘めている。