シャトレーゼを待ち受けるリスク – PRESIDENT Online

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全国展開する菓子メーカー・シャトレーゼが好調だ。それはなぜか。死角はないのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「ビジネスモデルはユニクロに似ている。だが、いずれ3つのリスクに直面するだろう」という――。


シャトレーゼ本社=2021年1月25日、山梨県甲府市 – 時事通信フォト

ビジネスモデルはユニクロに似ている

シャトレーゼが絶好調です。ロードサイドでみかけるあのワイン色の屋根のお菓子屋さんです。売上高は10期連続の増収で、一昨年から始めた都心業態のYATSUDOKIも顧客の心をつかんでいます。読者のみなさんもシャトレーゼのアイスクリームや焼き菓子がお好きな方は多いのではないでしょうか。

コロナ禍でも躍進を続けるシャトレーゼの秘密とは何なのか。そしてシャトレーゼの今後に死角はないのか。経営コンサルタントの視点で分析してみたいと思います。

さて、最初にシャトレーゼがどのような会社なのか、シャトレーゼをご存知ない読者の方にもわかるように説明したいと思います。工場直営のお菓子屋さんで、お店で売っているお菓子はアイスクリーム、焼き菓子、和菓子からケーキまで約400種類。最大の特徴は「おいしいお菓子が安い」こと。人気のアイスクリームは1本あたり64円ですし、田舎パイやシャトーレザン、フィナンシェといった焼き菓子も価格はおおむね100円前後とお値打ちです。


シャトレーゼの焼き菓子。おいしいお菓子が安く手に入るところが消費者ニーズに合致 – 筆者撮影


高級業態YATSUDOKIで販売していたケーキの久助。おいしさは変わらずお得感は大きい – 筆者撮影

「お菓子業界のユニクロだ」と言うと理解はしやすいかもしれません。ビジネスモデル的には一見ユニクロに似ています。ユニクロは他の多くのアパレル企業と違って自社で商品を開発し自社店舗で売ります。卸や小売店を介さない分、買いたたかれたり、生産見込みと需要予測を見誤ったりといったことが起きにくい。そしてとにかくよい商品を安い価格で提供できる。似ているのはこの点だけですが、ビジネスとしての外見はシャトレーゼとユニクロは確かによく似ています。

お菓子を安く提供する「5つの条件」

シャトレーゼでなぜおいしいお菓子を安く提供できているのか。まずこのビジネスモデルの秘密を解明してみましょう。

お菓子を安く提供するビジネスモデルは論理的には5つあります。

①安い材料を使う
②安く仕入れられるように取引先から買いたたく
③おいしくて安い商品設計をする
④安く製造できるように生産ラインを工夫する
⑤サプライチェーン管理をしっかりしてロスの発生を防ぐ

世の中の大半の大規模小売業は①と②に力をいれます。たとえばメーカーに対して、

「店頭で78円で販売できるシュークリームを作りなさい」

と圧力をかけるわけです。「作れないなら他をあたるから」と言われ、力関係が弱くて安く買いたたかれるメーカーは、利益を削り、安い材料や本物に見えるイミテーション原材料を使ってなんとか大手チェーンからの要望をクリアできるようにする。これが世の中の安い商品の基本です。

大手スーパーのお菓子よりも材料費は高いかもしれない

シャトレーゼの面白い点は①と②が真逆で、実は大手スーパーで売っているお菓子よりも材料費は高いかもしれない点です。「おいしいお菓子を安く」という考え方の中でも「おいしい」に力を入れすぎているせいで、原材料コストを下げにくい構造なのですが、それを容認しています。

有名な例は、草餅に使うよもぎを社員が摘みに行くという話です。よもぎは普通のお菓子メーカーは問屋から買うのですが、着色してあるうえに香りがよくない。山梨県に本社があるシャトレーゼでは「だったら山から採ってこよう」といって、山主さんと交渉して旬のシーズンに社員が一年分のよもぎを山に摘みに行く。当たり前ですが原材料コストは高くなります。

「おいしい」お菓子の原材料として卵や生乳の品質を一定にするために契約農場を確保したり、材料の天然水をわざわざ水源から運んだり、安全を優先するために添加物を入れなかったりとシャトレーゼは基本的には原材料コストが上がるようなことばかりしています。

「5年生の子供と30代の両親が一緒に食べる」ような商品

それなのになぜおいしくて安くなるかというと、経営学的な秘密があって、上記でいえば③~⑤が非常にうまくいっているのです。ここを順に見ていきましょう。

まず③の「おいしくて安い商品設計をする」ですが、シャトレーゼの商品設計は顧客視点で見るとターゲットがはっきりしています。あきらかに「庶民にとっておいしくて安い」ことを目指しています。典型的なターゲット顧客シーンのことをマーケティング用語でペルソナと言いますが、ペルソナ的には「庶民的な5年生の子供と30代の両親が一緒に食べて“おいしいね”と会話する」ような場面にフィットする商品です。

お菓子というものはおいしく作ろうと思えばいくらでもおいしくなります。一流のパティシエは、チョコレートはフランスのヴァローナから仕入れたりバターはエシレを使ったりと原材料の価格に糸目をつけません。しかし「庶民のおいしい」は市販のチョコでも十分においしいものです。

その点でシャトレーゼのお菓子は「庶民がおいしいと思うお菓子を設計する」ことにきちんとフォーカスしています。シャトレーゼで人気のアイスもターゲットが違うのだから、高価格帯アイスのハーゲンダッツと原材料比が違って構わないわけです。

製造直販モデルだからロスの発生を防ぎやすい

④の「安く製造できるように生産ラインを工夫する」は、そもそもシャトレーゼは工場であるという点から理解するといいでしょう。お菓子は手作りをすると非常に手間暇がかかるものですが、工程を工夫すれば同じ風合いを機械で再現できるようになる。ここはやり方を誤ると機械化や機械に向いた材料を選択することで味が落ちたりするのですが、シャトレーゼは「おいしい」を優先している分、味を落とさずに機械化する生産工程改良が得意な様子です。

そしてユニクロと同じ製造直販モデルであることから、⑤「サプライチェーン管理をしっかりしてロスの発生を防ぐ」の部分についても、一般のスーパーと違ってサプライチェーン上のロスが出ないように管理がしやすい。このように③~⑤が機能していることで①と②に手を染めなくてもシャトレーゼのお菓子は十分においしくて安いのです。

もうひとつシャトレーゼのビジネスモデルで面白い点を挙げてみます。これはユニクロとは決定的に違う点なのですが、上流の契約農家から下流のFCオーナーまでコモン(共同体)というべき経済共同体が出来上がっているという点です。

人の力を強みにした「共同体」ができあがっている

ひとことで言うと、コモンとは企業をオーナーの持ち物ではなく、関係するすべての人々の共有財産のように扱うという、経済学の理想の概念です。コモンの中ではお互いに協力しあうとともに、お互いがよくばることなくお互いに相応の利益が残るようなフェアな関係性を目指す。シャトレーゼはこれができています。その理由としては、シャトレーゼが上場していないことが決定的に需要だと思います。


※写真はイメージです – iStock.com/Wand_Prapan

この契約農家やFCとコモンを形成するという経営形態は、現代的な経営戦略とは決定的に発想が異なります。

現代的な経営戦略理論の最大の発見は「利益は競争相手から勝ち取るよりも、優越的立場を利用して取引先や従業員から勝ち取るほうが容易である」というものです。1980年代にこの発見が広まったことで、21世紀の資本主義社会ではほとんどの企業が大手取引先からの優越的立場に苦しめられながら活動をしています。

同じ製造販売モデルのユニクロは、上場企業であるがゆえにその視線は徹底的に顧客(消費者)と株主の利益に向いています。しかしシャトレーゼの場合はオーナーの視線が顧客、従業員、取引先(契約農家やFCオーナー)に等分に向けられている。それゆえにコモンに所属する人の力がうまく集結できているところに特徴があります。

シャトレーゼの本拠地のある山梨はそもそも武田信玄の領地だった場所ですが、シャトレーゼの場合も「人は城、人は石垣、人は堀」を地でいく、人の力が強みとなるコモン(共同体)ができあがっているのです。