この台風の裏にドラマのような出来事がありました
気象予報士、増田雅昭さんに先月の天気の振り返りと今月の見通しを聞きます。
・台風が迷走する理由
・甲子園で孤軍奮闘していた想い出
・夏を引きずる10月
など、増田さんの甲子園の思い出はいい話なので読んで欲しい(この部分、編集部林)
台風だって好き勝手に動けるわけじゃない
林:
台風14号が東シナ海で2日、3日ぐらいくねくねしてましたね。
林:
これがちょうど台風がとまっていたころの天気図なんですけど、何が邪魔だったんですか?
増田:
南から基本的に台風は上がってくるんですけど、北側に高気圧があったので北に行きづらくなっていたんですね。
林:
この高気圧ですか。
増田:
全体的に高気圧が北側にあったということですね。
西村:
台風の進路って高気圧の隙間をぬって走る感じになってますね。
増田:
まさにそのとおりです。
西村:
だから高気圧のところには行きにくいということなんですね。
増田:
高気圧って大きいんですね。1000キロ、2000キロ、場合によっては数千キロあったりするので、台風のほうが、どっちかというと小さいわけで、なかなかそこを突き破ってというのはない。
西村:
この9月16日時点の天気図だけ見て、台風の進路ってなんとなく想像できそうですね。たしかに。
林:
西村さんが台風だったら、この隙間をいくしかない。
西村:
南は実際のルートですよね。これのどっちかかなって想像できますね。
増田:
もう一個プロっぽい話をすると、台風の東に前線がありますよね。前線は今だったら夏の空気と秋の空気の境目なんですけど、そういう空気の境目って、上空ではけっこう早い西風が流れているんです。
もうちょっとマニアックに言うと、前線の数百キロ以上北側の上空を流れているんですね。前線ってよく理科の授業で斜めになってますよね。
西村:
見たことあります。
増田:
北側に斜めになっているんですね。上空に行けば行くほど北側に前線があるんですけど、夏の空気と秋の空気の境目で西風が吹いて流されやすい。
林:
前線のちょっと北のあたりを西の風が流れていく。
増田:
だから前線が台風の北側で伸びていたら、前線のあの辺りに進んでいくんじゃないか。最終的にはあの辺りに吸い込まれていくんじゃないかって予想できます。
増田:
気象衛星ひまわりの雲を見て、上空ではあっちのほうに風は吹いてるから台風はあっちのほうに行く、なんて言うのがモテコンテンツかも。
林:
台風の進路がわかるとモテる。
増田:
弱点があって、雲って今の状態なので、雲って動いていくからちょっとずつずれるのが弱点。大まかには。
西村:
大まかにどっちに行くかなーぐらいの想像はできるってことですね。
林:
それでモテる世の中になってほしいですね。
台風が迷走する3つのパターン
林 デイリーポータルZで迷走台風の記事( 「意思を感じる台風の進路」)があったので、そこから迷走をピックアップしました。これも高気圧に塞がれて西風に流されるということなんですか。
増田:
高気圧に挟まれると、ピンボール?エアホッケー?高気圧のおしくらまんじゅう?のように翻弄されちゃいますよね。
というパターンがひとつ。
あとは逆に何もない状態。高気圧もはっきりしてないし、台風を流す上空の風もはっきりしてない。という時に流されるものがないので、漂うしかない。マストが壊れた帆船。というパターンがあります。
西村:
このときの天気図がないからわからないですが、これとかまさにそんな気はしますね。くるくる何回も回ってるというのは。
増田:
もうひとつのパターンが台風の中心がわかりづらいとき。中心がここかなと思って打っていたら、やっぱりこっちかな?とはっきりしていない時にまっすぐじゃなくなる。
西村:
そういうのもあるのか!
増田:
中心がはっきりしないときに、プロットしていくと、きれいな線にならない。結果的に迷走に見える。
林:
昨日こっちにしておけばきれいな線になったのになーと思ってるかもしれない。
増田:
特に台風が弱まったときですね。形がよくわからない、どこに中心があるの?ここかな?ここっぽいよなって打ってったりした時に、線がギザギザになっちゃったということがあるんですよね。
西村:
台風の中心は人が決めるんですよね。
増田:
気象庁の職員が決めるんですけど。
林:
真ん中じゃなくて寄ってることもありますよね。
増田:
そうですよね。台風の真ん中とはかぎらない。円じゃなくなったときは、中心はなかなか難しいときがあります。
増田さんの甲子園(気象予報士として)
西村:
2002年のこれは?
林:
なにかあった感じはしますね。
増田:
何かあったっぽいな。2002年13号は8月の甲子園の時にぴゅっと曲がってくれたやつかな。
西村:
2002年8月ですね
増田:
その時の資料がある…2002年あった。ちょうど甲子園の中で仕事をしてました。大会本部の中で「試合決行できそうな天気ですよ」とか、そんな仕事をしていて。
林:
責任重いですね。
増田:
はずれたらすぐ怒られる。今年の大会は雨が多かったから、担当した予報士は大変だったと思いますよ。
西村:
責任おもーー。
増田:
13号は関西に向かってどんどん近づいていたわけですよ。大丈夫です、曲がりますからって、大会関係者に言ってたのを覚えています。
西村:
すごい!
増田:
外側の雲はかかるから、雨は降りますよ。今日の第四試合の途中から降ってくるけど、最後までなんとか乗り切れると思いますって言って。ほんとに第四試合の途中から降ってきて、ひどい雨だったけれど試合は最後まで乗り切れて。
そして、台風は夜のうちにキュッと曲がって、雨雲は夜のうちに抜けていきますから明日はできますって予想したんだよなぁ。
次の日の朝、雨は止んていて曇り空だったんですけど、朝5時半ぐらいに大会関係者と一緒にグラウンドに入って、土とか芝生を触って。これならなんとかできそうですねって話して。これ13号だ。覚えてる。
西村:
朝岡さんのエピソードみたいですね。
小林:
『おかえりモネ』の朝岡さん。
増田:
あったあった。2002年の8月19日。台風13号。これ気象庁の配信の実況天気図。
西村 18日めちゃめちゃ近づいてるからすごい心配だったでしょうね。
増田:
大丈夫か大丈夫かって何人にも聞かれました。これは心配するわ。
林:
一人なんですか?増田さん。
増田:
一人です。大会関係者にずらっと囲まれて、後に引けない状態。当時僕も24歳でしたから、舐められないようにと強気な予報をしていたので、生意気に見えてたでしょうね。
小林:
モネちゃんと同い年ぐらいじゃないですか。
増田:
はじめはなかなか天気予報を信じてもらえなかったですね。ベテランの伝説的なグランドキーパーさんとかいらっしゃるので、そういう人たちに挨拶に行くんですけど「お前の天気予報なんか信じるか!」って。
小林:
完全に朝ドラ。
増田:
「コンピューターの予報より、風とか雲を見てたほうが絶対に当たるから」って言われましたね。
西村:
言われたんですね。ドラマみたい。
林:
どっかで増田さんが当てて、お前やるなって展開になるんですか。
増田:
最後認めてもらったんですよ。
西村:
ドラマじゃないですか!
増田:
めげずに自分の予報をお伝えしに行っているうちに、甲子園のバックスクリーンの後ろ側に大きい入道雲が見えたら危ないんだよとかいろいろ教えてもらえるようになりました。最後のほうは、お前はなかなかやるようになったなーとか言われましたね。
西村:
すごい!いい話じゃないですか。
増田:
ちょっと脚色していい感じに書いておいてください。
林:
入道雲が見えるとか増田さんのあとの予報に役立ってますか?
増田:
バックスクリーンの後ろ側というのは南の方なんですけど、そっちから来る雨雲は大阪湾を渡ってくる雨雲なので、衰えずに来てしまうんです。入道雲の大きさを見るというのはすごく大事で、なるほどなーって思いました。
ピッチングスタイルと天気
増田:
今、斎藤佑樹くんが引退するニュースが入ってきましたね。
林:
ハンカチ王子と呼ばれていた
増田:
彼が早稲田のとき、六大学の試合の日のデータを調べたことがありまして、彼は晴れの日にも雨の日にも強かったんですが、風には弱かった。風が強い日の成績がよくなかったんですよ。風に強いピッチャーと弱いピッチャーがいます。
林:
軟投派は風に弱いんですかね。
増田:
逆で、強い人が多いんです。向かい風なるとブレーキがきくので。渡辺俊介さん(元千葉ロッテマリーンズの投手)は、本拠地が千葉マリン(風が強くて有名)でしたけど、スローカーブはバックネットに当たって跳ね返る向かい風を使って、よく曲がりました。
林:
アメリカで活躍できなかったのは風がなかったからですか?渡辺俊介さんは。ファンだったんですが。
増田:
メジャーは乾燥しているので、ボールが滑りやすくてうまく指にひっかからない。湿ってるところのほうがひっかかって、変化球はキレが良くなるので。
西村:
湿度の問題ですか?
増田:
WBCの準決勝ぐらいだったかな。解説で槙原さんが言ってました。この球場は海の近くで湿気があるので日本のピッチャーにとって有利。メジャーの使用球は滑りやすいから変化球がうまくかけられない。この球場だと、指が吸い付くようになるから変化球が効いて有利になりますよ、と。
西村:
地の利があるのか。
林:
槙原さんの解説はやさしいですよね、いつも。全部の選手にやさしい。
増田:
僕も優しい解説をめざします。
林:
どっちもがんばれって。高気圧も低気圧も。
増田:
暑いのもがんばれー寒いのもがんばれー。全部いいですね。
今年は夏をだらだら引きずる秋
林:
秋雨前線はまだなんですか。
増田:
9月の前半に秋雨前線がありすぎましたね。9月が連日の雨でしたけど、あそこが今年の秋雨のピークでしたね。ちょっとイレギュラーだったと思います。先にがっつりきて、その後消えてしまってという状況になりました。
林:
10月はそんなに雨は降らないですかね。
増田:
うーん。まだあると思います。台風がまだ来ると思うんですよ。
林:
まだ来ます?
増田:
南海上でしっかりと発達したあと、北上してくる台風は来ると思います。あとはそれがどこまで近づいてくるかですね。
最悪は列島に16号よりも近づいてくる可能性もありますし、そこまで近づかなくても大量の水蒸気を持ってくるので、北側で前線みたいなものが形成されて雨がガッツリ降るタイミングはおそらく10月中にあるんじゃないかなと。
林:
今台風があるから秋雨前線がわからないですね。
増田:
普通は9月に秋雨前線が南下して、お彼岸頃に気温が下がりましたね、ということが多いんですけど、今回そういう感じじゃなかったですよね。
秋雨前線はあったんですけど、ストーンっと気温が下がる季節変化じゃなかった。ダラダラ型のような気がするんですよ。
林:
彼岸に最高気温出ちゃってましたね。
増田:
ダラダラ型が続いて、10月もストンと気温が下がらないんじゃないかなと思うんですよね。
林:
ダラダラと暑かったり寒かったりしながら。
西村:
だんだん少しずつ下がってくるという感じなんですかね。
増田:
10月前半はまだ暑い日が多くなりそうですね。4日の週の前半まで普通に30℃近い日が続きそうです。10月中旬までは25℃以上の夏日の日が多いと思いますよ。
林:
それは台風の影響ではなく、ダラダラとはっきりしない季節変化のせいで。
増田:
夏を忘れきれないというか、引きずっちゃってるというか。
西村:
もう10月ですけどね。
増田:
夏の恋を引きずる。いらっしゃいますよね。それを引きずってダラダラ切り替えきれない。
林:
夏をあきらめられない
増田:
その暑い思いが。
林:
たまに出てくる。それが10月。
増田:
終わる時は、しっかりちゃんと終わっておかないと。自然消滅は良くない。今年は秋雨前線が夏をちゃんと終わらせてなかった。やっぱり最後は大事というわけですよ。
小林:
ちょっとなんだろう。
西村:
なんですか、これ。
増田:
ちゃんと終わらせなきゃいけない。終わりは大事ってことですね。
小林:
攻めるなー。
林:
天気の話を恋愛みたいに言うとと間口が広がるかもしれない。わかんないけど。
小林:
ちょっとおもしろいですよね。読み物として。
林:
10月はダラダラいくということですね。覚悟しておこう。
増田:
25℃以上の夏日が多いと思いますよ。東京だと。
林:
10月半ばぐらいはどうですか
増田:
10月後半、20日前後になると涼しくはなってきます。あれだけダラダラと引きずってたけど冷める時は冷めるんだねって。
西村:
一気にね。
増田:
急に。ストーンと。
9月のクイズ正解者・予想通りに9月の下旬に最高気温が出た
林:
9月の最高気温は31.7℃でしたね。増田さんの読みどおり9月10日ぐらいに1回上がったけど、後半にもう1回来た。
増田:
パーフェクト!
林:その時の天気図がこちらです。これで気温上がるんですね。
増田:
北に低気圧があるときは、基本的に夏とか秋の前半は気温が上がりやすいですね。
増田:
低気圧が空気を吸い込むので、北側にあると南からどんどん空気が吸い込まれる。つまり南風になって気温が上がりやすくなるということですね。
林:
低気圧が南にあると寒くなりますか?
増田:
まさに今日なんかもそうですよね。台風が伊豆諸島あたりを通過している。そこに向かって空気がどんどん吸い込まれるので関東は北風ですよね。今日は気温低いですもんね。
林:
寒いです。(対談収録した10月1日11時の東京の気温は18.5℃)
増田:
天気図のひとつの見方として、低気圧の位置を見ていればざっくりですけど、明日あったかくなるのかな、寒くなるのかなというのはわかるようになります。
増田:
あと、台風は真東に行くと暑い空気が北上してこないので、そんなに暑くならないんです。
北に行けば行くほど、列島の気温が上がりやすくなる。
仮に上陸とかして日本海まで行くようなコースになると、どんどん南から熱い空気がやってくるので、10月でも軽く30℃を超えたりします。
林:
9月の最高気温当ての締切が9月10日でしたが、10日がすごくあったかくて、この日の最高気温だったら困るなと思っていたんですけど。そこから一旦下がって23日に31℃が出ました。
増田:
基本的に月末に進むに連れて気温ってどんどん下がっていくわけですから、もう来ないんじゃないかって考えた方もいらっしゃるかもしれないですけどね。記事をしっかり読んで、増田教を信じていただいた方はばっちり正解に近づいたんじゃないでしょうか。
9月のクイズ
問題:9月の東京の最高気温は?
近かったのはこのふたり
ryuhdohさん 31.6℃
メロポンさん 31.4℃
林:
一番近いのはryuhdohさん。31.6℃で0.1℃違い。おめでとうございます!!!!
毎月鋭い予想を送ってくれるメロポンさんは31.4℃。メロポンさんはこのようにコメントしています。
> 通過後には南風ではなく「台風一過の秋晴れ」寒冷で乾燥した空気に覆われるでしょう。
増田:
9月は台風一過の35℃とかあったりしますから。でも、メロポンさんは、そういうことは起こらないよって読んだんですね。
西村:
わしらがあてずっぽで33℃とか35℃とか言ってるのおもしろいですね
林:
毎月増田さんに直接聞いておきながら、当たる気配のない数字を言っている。ちゃんと話を聞いてるのか。
10月の問題:10月の東京の最低気温を予想してください
(小数点以下1桁まで)
しめきり:2021年10月11日23:59
ヒント 過去の数字:
2020 9.2℃ 10/31
2019 12.1℃ 10/30
2018 11.6℃ 10/22
林:
後半はダラダラも未練も振り切って。10℃切ったらおもしろいな。
西村:
8℃ぐらいまでいったらおもしろいですね。
増田:
8℃かー。下がっても9℃台ですね。あ、8℃ありました。2004年8.6℃。
西村:
それぐらいさかのぼらないとないんだ。
林:
夏が暑いと寒い、みたいな関係はあるんですか?
増田:
2004年はすごい猛暑でしたね。
西村:
メリハリあがったのかな。
林:
今年そんなに暑くもなかった。
増田:
その前に8℃台まで下がったのは1993年までさかのぼります。8.6℃。この年は大冷夏。
小林:
タイ米騒動があった年
林:
この年は冷夏だったんですね。
増田:
極端な大猛暑の2004年、大冷夏の1993年。そんな時は8℃台まで下がっている。
林:
ヒントになってるような、なってないような…
ふたりの予想
西村 11.5℃
林 9.9℃
みなさんも予想して送ってください!