接種証明の目的は差別ではない – 山崎 毅(食の安全と安心)

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 ”リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回も新型コロナ感染症(COVID-19)にかかわるリスク対策とリスコミの在り方について議論したいと思います。まずは、海外とくにEUで展開されているワクチンパスポート義務化の動きに関するネット情報を、ご一読いただきたい:

 ◎衛生パスの提示義務について(在フランス日本国大使館)
   https://www.fr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/20004.html

 ◎伊、全労働者にコロナワクチン接種証明の提示を義務付け 欧州初
  ロイター ワールド 2021年9月17日
   https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-italy-idJPKBN2GC1TE

 先行して公共施設・一部の交通機関・病院・飲食店・娯楽施設等に入場する際のワクチンパスポート提示の義務化を決めたフランスでは、これに抗議する市民デモも起こっているようだが、市民の大半がこれを支持しており、ワクチン接種率は、寧ろあがっているようだ。抗議している市民たちは、ワクチン接種の選択は各人の自由であり、ワクチン接種の有無により一律に公共施設への入場制限をかけるのは「差別」だとの主張だろう。

 たしかに、上記情報の後者に見られるような、イタリアの全労働者にワクチンパスポートを義務付ける公共政策(イタリアで本当に施行されるかは不明)は、明らかにやり過ぎだ。なぜなら、ワクチンパスポートの目的は、あくまで「区別」であるべきだからだ。全労働者にワクチンパスポートを義務化してしまうと、ワクチン未接種者は勤労の権利を奪われることになり、日本でいえば明確な憲法違反となるだろう(筆者はイタリアの憲法を知らないが、おそらく同じ条項があるのではないか・・)。

 では、フランスやハワイなどでも、一部のパブリックスペースとは言いながら一律にワクチンパスポートを義務化するのは、市民の自由を奪い「差別」ではないかとの議論があるが、筆者はそうは思わない。これは明らかに「区別」であり、パブリックスペースに市民や従業員にとって「COVID-19ローリスク・エリア」を公的にもうけるための有事の法規制と考えるべきだろう。ある意味、一部のパブリックスペースにおいて、マスク着用を義務化することと同じということだ。

 現時点で日本において、ワクチンパスポートが法律で義務化されていないため、市民や事業者がそれぞれの条件で任意に入場制限をかけている状況だ。新型コロナ感染症に関する「ハイリスク・エリア」と「ローリスク・エリア」というハザードマップの考え方については、先月のブログでも述べたところだが、再度ご参照いただきたい:

 ワクチン未接種者が飲食店に入れないとか、飲食店で働けないのは「差別」に当たるのでは?と思われるかもしれないが、飲食店に行かなくても食事する手段は他にもある(自炊はもちろんデリバリーもある)し、飲食店従業員は店頭に出なくても、バックヤードやテレワークでできる業務もあるので、ワクチンパスポートがないから解雇というような「差別」にならなければ、これは「区別」と言えるだろう。有事において、多様な従業員に対する担当業務の見直しであれば「差別」に当たらないし、報酬に関して不当な扱いがなければ問題とはならないはずだ(もちろん、コロナを理由にサボタージュを働く従業員については例外だ)。

 また、ワクチンパスポートを義務化して罰金を科すのはやり過ぎという考え方もあるだろうが、仮に法的義務でなければ、ワクチン接種済と偽り飲食店等へ入場する違反者を阻止する事ができず、それによってハイリスク・エリアにもなりうるということだ。日本は緊急事態宣言下でも、ほとんど市民へのお願いベースであり、深夜まで居酒屋が開いていれば、ハイリスクの市民がそこに集まるのは罰則がないからだろう。

 日本国内でも近い将来、一部のパブリックスペースでワクチンパスポートを活用する際、義務ではないエリア(店舗等)においても、国や地方自治体が任意でのワクチンパスポート活用を認めれば(群馬県はすでに検討?)、どの施設や店舗が市民にとって「COVID-19ローリスク・エリア」か可視化されたハザードマップ作成が可能となる。

 元より、ワクチン接種の副反応や将来のADEの可能性に対して不安を感じる市民が、ワクチン接種を回避することによりCOVID19発症/重症化リスクを受け入れるのも個人の自由であるため、社会がこれを強制してはならないだろう。それこそ感染拡大が続く間は、自宅に引きこもり状態でテレワークでの対応が可能ならば、無理をしてワクチンを打つ必要もない訳で、地域社会にとってもワクチンパスポートを採用した施設/店舗をローリスク・エリアとして色分けができるので、ワクチン未接種者がステイホームされることはむしろ歓迎だ。

 「ワクチンもマスクも反対」という一部の方々は、ワクチンパスポートを採用したローリスク・エリアの施設/店舗には入場できないことになり、自宅に引きこもらない限り、地域でハイリスク・エリアを形成することになる。早晩クラスターとなる可能性が高いが、危ない綱渡り=高い感染症発症リスク/重症化リスクを選んだのも自らの意思であり、もし感染したとしても亡くなる方は1%程度なので、まさに「グッドラック」というしかないところだ。

 いまは、ワクチンを2回接種したにもかかわらず、ブレイクスルー感染で運悪く、発症/重症化して亡くなる方もいるようだが、ワクチン接種が完了した安心感から、ハイリスク・エリアに入ってしまった方々ではないのか。ワクチンパスポートが地域に根付けば、ローリスク・エリアでのブレイクスルー感染も、ほぼなくなるものと思う。その意味でもワクチンパスポート制度を、できるだけ早急に地域に根付かせてもらいたいものだ。

 以上、今回のブログでは、ワクチンパスポートが差別ではないことの意味と、そのリスコミの在り方について考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ) 開催案内
  第4回 『惣菜の衛生管理に関するリスクコミュニケーション』(10/31)
   http://www.nposfss.com/riscom2021/index.html

 第1回:『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』 (4/25) 開催速報
   http://www.nposfss.com/cat9/riscom2021_01.html

 第2回:『残留農薬のリスコミのあり方』 (6/20) 開催速報
   http://www.nposfss.com/cat9/riscom2021_02.html

 第3回:『学校給食のリスコミのあり方』 (8/29) 開催速報
   http://www.nposfss.com/cat9/riscom2021_03.html

◎SFSS食の安全と安心フォーラム㉑ (7/11)
 『食物アレルギーのリスク低減を目指して』 開催速報
  http://www.nposfss.com/cat9/sfss_forum21.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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