佐世保のローカルスーパー「エレナ」はいいぞ、超地域密着型だしテーマソングも最高なんだ

デイリーポータルZ

全国各地にあるローカルなスーパーマーケット。OZEKI、福島屋、富士ガーデン、みなさんそれぞれお気に入りのお店があることだろう。長崎県佐世保市に住むわたしの推しは、赤いゾウさんがトレードマークの「エレナ」だ。

どのお店もうたう地域密着型なのはもちろん、品揃えが楽しく刺身がうまい。そしてなにより、一度聴くと耳から離れないテーマソングが最高なのだ。

赤いゾウさんのスーパー「エレナ」

赤いゾウがトレードマークの「エレナ」は、長崎・佐賀を中心に展開している完全地域密着型スーパーマーケットだ。その数は43店舗におよぶ。

エレナ伊万里店。(画像提供:株式会社エレナ※わざわざ編集していただいたものをいただきました有難うございます!)

突然だが、そのテーマソングをぜひ聴いてみてほしい。

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心をぐっと掴むイントロ、爽やかなビタミンボイス、そして「パオパオ」のフレーズ。いかがだろうか、すっかりカラダがあったまってきたのではないだろうか。

聞きながら店内をめぐる気持ちでお店の紹介をしていこう。

地元生産者による農水産物や加工品が積極的に置かれ、全国から厳選した旬の食材も数多く取り揃えている。

記事「佐世保の豆乳は甘い」より。佐世保弁で書かれたPOPからも地元愛を感じる。

セルフレジや、地域の高齢者向けの無料シャトルバスをいち早く導入したりと、地元民への手の差し伸べっぷりがすさまじいのである。

わたしが思うエレナの魅力は3つ。

 ・手作りの総菜、パンがうまい

「総菜やベーカリーなんかは、長く働くベテラン勢が多いから、味が安定しているし美味しいのよね。」とは、佐世保の情報通からの口コミだ。

・刺身が新鮮すぎてうまい

とにかく刺身が新鮮で唸る。近くに公園なんかがあれば大変だ。真昼間からベンチに座って刺身を食べるなんてことになってしまう。

 ・お店のイメージソングのクオリティがすごい

タイトルにもあるように、この記事のメインはエレナのイメージソングだ。これについては後述する。

無理矢理まとめたが、全然伝えきれてない。3つと言いながらあともう1つだけ。レジ袋がかわいい。

この柄のエコバックがあったらいいなぁとおもう。

いや、やっぱりあともうひとつ追加していいだろうか。公式Instagramがおもしろいのだ。エレナの中の人・プレゼンターツヨシが、旬の食材のプレゼンをはじめ、各店舗のスタッフの表情や売り場のようす、生産者レポートから佐世保の何気ない風景まで幅広く発信している。これがまたまっすぐで、日曜の昼に見る旅番組のようなのどかですがすがしい気持ちになれるのである。

ここ最近のお気に入りは、青果主任にシャインマスカットについての疑問を投げかけた投稿。

 

こういう食材に関するナルホドな情報もあり楽しい。生産者の現場訪問シリーズも好きだし、ちょっと前にアップされてた、めちゃくちゃ頑張ってココナッツを割る投稿も好きだった。

小さな商店からスタートして60年超

「エレナ」は1959年、佐世保市金比良町にオープンした「中村食品ストアー」が前身だ。

1959年にオープンした「中村食品ストアー」。連日多くの町民たちで賑わってました。(画像提供:株式会社エレナ)

創業する前は小さな商店で、駄菓子などを販売。夏にはかき氷、冬には回転焼き(今川焼きや大判焼きの、九州での呼び名)が売られていた。 

看板に書かれている“奥様の店”というフレーズが昭和感ただよう。(画像提供:株式会社エレナ)
創業者の故・中村義治さん(享年90歳)。(画像提供:株式会社エレナ)

当時はまだ冷凍食品もなかった時代。店頭にはその日仕入れた新鮮な野菜や魚介類が数多く並び、まさに町民たちの台所となっていた。

(画像提供:株式会社エレナ)

日用品や嗜好品も、50坪ほどの店内にたっぷりと品揃え。

(画像提供:株式会社エレナ)

当時の写真を見てみると、なんとこの頃から手作りのお惣菜コーナーがあった。出来たてを食卓にそのまま届けるスタイルは昔から変わっていないようだ。

(画像提供:株式会社エレナ)

その後は「中村ストアー」と名前を変え店舗を増やし、

中村ストアー日野店(画像提供:株式会社エレナ)

1992年に「エレナ」と社名変更し第一号店がオープン!なお、イメージソングが流れ出したのはこの頃から。そして、新たにゾウのマークも登場したのだ。

佐世保におけるエレナ第一号店。写真は2015年の改装時のもの。(画像提供:株式会社エレナ)

「ゾウのマーク」は、広告を依頼していた業者から『よかったら、こんなゾウありますけどいかがですか!』とおすすめされたので採用したそうだ。ボディに“Nakamura”の文字を掲げたゾウが、新たな看板となった。

こうして長崎・佐賀を中心に続々と展開し、2021年には創業62年目を迎えた。今後は高齢者向けの移動スーパーなどにも力を入れていくそうだ。

ちなみに「エレナ」のネーミングのきっかけは、社内公募で2名の社員が「エレナ」を提案したこと。それぞれ「エレベート中村」、「エレガント中村」という、向上心あふれるネーミングを略したものだったそうだ。まさかかぶるとはと会長も驚きだったそう。なお、現在は「エレファント中村」の略ということにもなっている。

 

余談だが、系列店に直売所とスーパーの要素をかけあわせた「なかよし村」というお店もある(写真は佐世保市瀬戸越店で現在は業務スーパーに。佐賀の北波多店と長崎の有喜店は営業中※2021年9月現在)。店名の由来は、創業者の中村義治さんの名前をもじったというまさかのダジャレだった。

 

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イントロがパオッパオッパオッパーに聴こえる

ここでもう一度、イメージソングを聞いてみよう。きっとイントロ部分が「パオッパオッパオッパー」と聴こえるはずだ。

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なお、曲のタイトルは『象が飛んでいた』。歌詞は以下の通りだ。

株式会社エレナ公式サイトより引用。店内ではあまり流れないのだが、ここではフルバージョンを聴くことができる。

歌は1番と2番で構成されている。いろんな場面で遭遇する空を飛ぶ象に買い物かごを持った家族が笑うのだ。なんと平和な光景だろう。歌詞の中には、新鮮な野菜もお魚も出てこない。購買意欲をガンガンあおるようなフレーズもない。家族ひとりひとりの表情が見えるストーリー性がわたしの心をぐっと掴んだのだ。

エレナソングについて、広報のツヨシさんに聞いてみた

気になってしょうがないエレナソングについて伺うべく、わたしは「株式会社エレナ」の扉をノックした。

お忙しいなか笑顔で出迎えてくれたのは、営業企画部長の中村剛士さん。Instagramの公式アカウントの中の人(めちゃくちゃ露出している)ツヨシとして、動画や写真などでお店の魅力を発信している。

株式会社エレナ営業企画部長の中村剛士さん(以下:ツヨシさん)。

曲について改めて伺った。制作のきっかけは、1981年の中村ストアー時代。当時は店内で流すものといえば、ラジオか特売情報を吹き込んだカセットテープのみだったそうで、あまりにも寂しいのでイメージソングをつくろう!となったそうである。

反響は良く、来店客を含めAJS(オール日本スーパーマーケット協会)からも大好評だったという。また、ある小学校が「運動会でエレナソングを流したい」とお願いしたこともあったとか。それならば、わたしが無性にこの曲に惹かれてしまうのも仕方がない。

このあとツヨシさんは、「苦手なトマトジュースをなんとか美味しくPRしたいんですよね」と話していた。後日Instagramをのぞいてみると、レモン汁を加えることでなんとか美味しく飲み干していた。プレゼンターの根性を見た。

『象が飛んでいた』生みの親は“長崎のロックモンスター”

さて、エレナソング誕生の背景は分かったものの、やはり作り手の方にお会いしないことには始まらない。そこで、生みの親でありロッキン・プロデューサーの狩須魔緒(かりす まお)さんにお会いして、曲に込められた思いについて伺った。

狩須魔緒(かりすまお)さん。長崎出身。コピーライター・プランナーとして日本全国の広告を企画制作。ご当地、長崎国では、佐世保競輪、佐世保市ゴミ収集、ハートプラザ、ラッキーグループ、琴花園、P‐Zone、チョープロなどのCMを幅広くプロデュース。佐世保市役所のよさこいチームのダンス音楽を10年間担当。現在はFM長崎の番組「HARD BOWIEN(毎週水曜夜8時)」のパーソナリティも勤めている。

象が空を飛んで、それを見た家族がにっこり笑う・・。そんなハートウォーミングな曲を世に送り出した奇才ロッカー・狩須さん。

「長崎のロックモンスター」の異名を持つ狩須さんが率いたバンド「ファンタジーズ★コア」は、世界最大級の音楽フェス「SXSW」にも度々出演。また、国内ではフジロックにも出演。ゾウに負けずものすごく飛んでいる!(画像提供:狩須魔緒さん)

『象が飛んでいた』誕生のきっかけは、音楽好きだったエレナの現会長が狩須さんに曲の制作を依頼したことだった。

象が空を飛んでいるんだから音階は上げよう

山本「『象が飛んでいた』という曲のタイトルはどうやって思いついたんですか?」

狩須「お店のゾウの看板を見上げたときに、『あ、飛んでるじゃん』って思って、そこからひらめきました。だいたいが綺麗に空をバックにしているもので、ビジュアル的にピッタリだなと。すぐに決まりました。」

たしかに空を飛んでいた。

山本「ひらめきは突然にといいますか、直感的ですね。作詞作曲すべてを手掛けられたとお聞きしましたが、どれぐらいの制作期間だったんでしょうか。」

狩須「タイトルを思いついてからの楽曲の完成までは早かったですよ。作曲は、弊社ホーデンズのアレンジャー矢田くんを中心に、エンジニアの前田くんとワイワイ言いながら進めていきました。実は、ポイントのメロディについては半ば強引に決めました。」

山本「音階ですか。」

狩須「そう。曲中に店名を歌う、業界用語で言うサウンドロゴ部ですね。『エ・レ・ナ♪』ってあるんだけど、この3つの音階を上げるか下げるかでちょっと意見が分かれたんですけど(笑)。結局私が『象は空飛んでるんだから上げなきゃだろー!広告主にとって一番大事な店名なんだし!』って決めました。広告音楽あるあるですね。」

山本「ははは、そっか。空飛んでますもんね!」

狩須「あとは…編曲かな。間奏のある場所で、ほんの一瞬『小象の行進』が横断するので、黄色い旗を持って通してあげてます(笑)。私は子どもの頃からヘンリー・マンシーニの曲が大好きで、その箇所が彼へのオマージュです。みなさん、リスペクトしたその洒落パートをぜひ探してみてください。」

「象が飛んでるぅ!」と家族で指差して笑ってほしい

山本「とても心温まる歌詞ですよね。」

狩須「ありがとうございます。『象が飛ぶなんて!?』という不思議(大人の視点)と、『だって帰り道に象が飛んでいたんだもの!!』という紛れもない事実(子供の視点)が、その日起こった寂しい気持ちや悲しい気持ちを、夕方一瞬で拭い去るあの看板。そんな幸せな存在として、ご家庭円満のきっかけになりたいお店であること。そのこと一心で作った詩です。『象が飛んでるぅ!』って、家族全員で指差して笑ってもらいたかったのです。」

山本「まさに絵に描いたような平和な家族がそこにいる・・!」

狩須「しかしながら、子育てに関する悲しいニュースも聞こえる昨今、普通が逆に遠い理想として際立って、今ではファンタジーに聞こえる歌に成長させてもらった感じもします・・。歌は世に連れですねえ。」

山本「そうか、わたしはエレナで買い物しながらファンタジーの心地よさにも浸れていたわけですね。※それだけじゃないです」

狩須「理想を掲げないと絶望するので、必ず希望を掲げて生きたいですよね。その方が楽しいんですから。エレナでこの理想の歌を聴きながら、お買い物できる普通の幸せを楽しんでいただければなと思います。」

ちなみに、この曲には、まだ世に出ていない(広告音楽としての制限時間の都合上)幻の3番と4番がある。その歌詞を、今回特別に公開させていただけることに!

3.

今日は 僕の 誕生日 大好物の日

オムレツの 真ん中に 象が 飛んでいた

象に パオパオと いただきます

スプーンで ケチャップ ぺろりん

おかわりいかが とタマゴ溶く

ママが笑う エレナ

 

4.

象が 飛ぶわけないよと ポチが 笑ってる

ポチは 吠えてるだけさと パパが 笑ってる

そんな おしゃべりが 楽しくて

ごはん 食べ食べ パオパオ

心の中で 象が 飛べば

パパも歌う エレナ

(間奏)

いつも パオパオと 上を向こう

初めて や 不思議 探そう

食べたことない 見たことない

だから 明日 エレナ 

 

作詞作曲編曲録音:©ホーデンズ

プロデューサー:©狩須魔緒@ホーデンズ / ポルトレーベル / 福石感音レコード

E-mail : info_hodenz@fantasyscore.jp

山本「うおお・・!!幻の3番4番!頭の中に情景&メロディが勝手に浮かんでくる!」

狩須「こんな感じで5番6番7番と続いていったら面白いですよね。「歌詞募集!」みたいなコンテストを企画されたら面白いんじゃないでしょうか。どうでしょう、エレナさん。」

いやはや、長年親しんできたスーパーの未知の話を聞き、わたしの鼻息はすっかり荒くなってしまった。

次回、CD作ります。

今回、お話を聞いて決意が固まった。

わたしは、エレナソングのCDを作りたい!そして、手元に置いてにやにやしながら大事にしたい!

その思いを狩須さんにお伝えすると、「え、あぁ、CDですか。んん…!?あなたが、エレナの曲を作ってCDにする、ではなく?」と、ごもっともなコメントをいただいてしまった。仰る通りなのだが、わたしはあのエレナソングに惚れてしまっているのである。そんなわたしの想いを受け、なんとCD制作の許可をいただけることに。本当にありがとうございます!

狩須「ところで、CDってどうやって作るおつもりですか?」
 

山本「いやー、実は、せっかくなら、思い入れがあるタイプにしようかなと思って。8cmシングルCDで、ジャケットも自作しようと思っているんですけど。」

山本が人生で初めて購入した8cmシングルCD

 

狩須「えっ…。」

山本「えっ」
 

狩須「それは…、結構大変ですね。」

やはりそうですよね、とわたしも同感だった。なぜなら、あのサカナクションですら大変だったという話を聞いていたからだ。しかし、もう走り出してしまったので、作るのだ。
 

狩須「あの。(心配すぎるので)よければお手伝いしますよ。」

山本「えぇっ!」
 

まさかの、長崎のロックモンスターにお手伝いしていただくことになったCDづくり。エレナ広報のツヨシさんにも許可がとれた。本当にすみませんと頭ペコペコ戦々恐々としながら、次回へ続きます。

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