自民党総裁選出馬を表明した、高市早苗氏。
他候補者の政策が抽象的であるのに対し、氏の政策はかなり具体的です。
その一つが「現預金課税」でしょう。
現預金課税は、現預金の所有額に一定の税率を掛け徴収する、というものです。
税は、フロー課税とストック課税に分類できます。所得税や法人税のように、収入に対し課税する「フロー課税」。そして、固定資産税などのように、所有資産に対し課税する「ストック課税」です。
現預金課税は、ストック課税の一つです。
ストック課税は新しい論点ではありません。
2017年には、希望の党(当時代表:小池百合子氏)が、内部留保(=利益のストック)に課税する「内部留保課税」を政策として打ち出しています。
さらに遡ると、経営コンサルタントの大前研一氏は、1994年の著書「税金ってなんだろう」にて、“資産課税”について言及しています。また、経済学者トマ・ピケティ氏は、2013年の著書「21世紀の資本」にて、“資本課税”を提唱しています。これらすべてストック課税です。
今後の税制を考える上で、重要な論点と言えます。
しかし、今回の「現預金課税」は時期が悪いうえ、熟議には時間が足りなかったようです。
今回は、現預金課税を軸に、ストック課税について考えたいと思います。
提唱するには時期が悪い
6年前、当時総理大臣だった麻生太郎氏は国会において、莫大な内部留保を持つ企業を
「守銭奴みたいなもの。それだけ貯めてどうする」
と批判しました。
現在、企業は当時より、はるかに「守銭奴」化しています。
手元の現預金を増やす傾向にあるのです。なぜか?コロナによる不測の事態に対応するためです。営業制限による売上高の減少。流通経路遮断による仕入コストの増加。何が起こるのか、先が読めない。用心深くなるのは当然でしょう。
高市氏が、現預金課税導入の理由の一つとしている、
「現預金が前年同期に比べて増えている」
という現象は、「当たり前」のことなのです。
コロナ禍の不測の事態に備えるため、増やした現預金に課税されてしまう。企業経営者はもちろん、企業の陳情を受けている議員たちからも賛同を得にくいのではないでしょうか。
論点化するには「時期」が悪い、と言えます。
困難な余剰資金の算出
高市氏は以下のように述べています。
「『内部留保』は貸借対照表では『貸方』ですが、私は、むしろ貸借対照表では『借方』の『現金・預金』に着目している」
【わが政権構想】日本経済強靭化計画|高市早苗 | Hanadaプラス
ここは、「貸方」にも着目して欲しいところです。
手元の現預金が、余剰資金とは限りません。借入した場合もあります。使途も、運転資金や設備投資など必要資金であることが多いでしょう。必要資金として借りたお金に課税されると、運転資金不足や返済不能に陥る可能性すらあります。
手元の現預金が余剰資金なのか。それとも必要資金なのか。見分けることは非常に困難です。
2017年の「金余り」と言われた頃、議論された課税対象が、“現預金”ではなく“内部留保”だったことも、ここに理由があります。
内部留保は、過去の利益のストックです。実体のある数値ではなく、総資産から負債(と資本金など)を引いた「計算結果」を剰余金として算出したもの、とも言えます。
現預金という「一部の」勘定科目だと、剰余資金なのか必要資金なのかわからない。そこで、「総」資産から「総」負債等を差し引いたものを、剰余資金とみなし、課税する。これが内部留保課税です。
ピケティ氏の“資本課税”も、資産から負債を差し引くという点で同様です。
こういった議論から、後退したように見えてしまうのが、今回の現預金課税案の残念なところです。
今後の議論に期待
現預金課税は、高市氏自身が述べている通り「二重課税」の他、数多くの課題があります。
現時点での導入は、現実的ではありません。