貧乏生活の体験の知られざる3つのメリット

アゴラ 言論プラットフォーム

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

世の中は「貧しくて、お金のことばかり考える生活なんて絶対にいやだ」と誰もが思っている。筆者も過去の記事「貧乏生活をするにはお金がかかるという世知辛い矛盾」という記事で「貧乏暮らしをすると、かえってコスト高になる」というデメリットを取り上げたことがある。

しかし、貧しい時期を経験することには、知られざるメリットもある。これは体験した人でなければ決してわからない。それ故に、筆者の自己体験的な一次情報を提供することで、読者に何らかの気づきを得られればと思う。

BongkarnThanyakij/iStock

お金がなかった極貧時代

これまで色々なところで何度も述べてきたが、筆者は経済的に厳しい生活の経験がある。

4人兄弟で両親は小学生の時に離婚、子供の時からたまの外食時には「あまり食べすぎて母親に負担をかけては申し訳ない」と罪悪感の中でできるだけ安く、お腹が膨れるものを選ぶようにしていた。上京して働き始めた時も、南千住の日雇い労働者がメインの宿泊施設の3畳の部屋にいた。食事は毎日、玄米、大豆、ごまに塩を振って食べた。インターネットは契約せず、店舗の外に置いてあるベンチに座り、漏れ出たWi-Fiを拾って使う生活である。

「下には下がいる」という反論があるかもしれないが、当時、筆者の頭の中は24時間「今月は家賃や食費が足りるか?」ということで埋め尽くされており、お金の不安に縛られていた期間が長く続いた。

ある程度、まとまったお金をためて南千住から、足立区に激安マンションへ引っ越し。そこで貯金ができて、普通のグレードのマンションへまた引っ越しをした。余談だが、自分が足立区から出ていった数カ月後、退去した後の自分の部屋で殺人事件が起きた。

最悪を受け入れる覚悟

自慢などとは程遠い、赤裸々な過去体験で恐縮だが、件の通り若い頃はとにかくお金がなかった。だが、当時のボトムの経験が今となっては役に立っていると感じることが少なくない。

その最大の価値は「万が一、この先の人生で転落しても自分は耐えられる」という感覚である。これは想像の粋を出ないが、生まれた時からエスカレーター式に上を登り続けたエリートタイプの人ほど思い切ったリスクを取れない傾向があるとされる。その理由としては、彼らがボトムの未経験であるがゆえに、転落先が完全なる闇に包まれていると感じるからではないだろうか。しかし、過去に底辺の生活を経験しておけば、それほどの恐怖もない。米国の哲学者・エマーソンが主張するように「恐怖は常に無知から生まれる」である。自己体験的に知っていれば、もはやそれほど怖くはないのである。

お金を大切にできる

また、若い頃から1円の重みを理解していれば、ムダな散財をすることもないと感じる。

自慢なんて稚拙な真似をするつもりは微塵ないが、筆者はビジネスの起業や投資で以前に比べて経済的に余裕が生まれた。金銭感覚が狂ってしまわないように気をつけているのもあるが、今のところムダな散財は一切しない。これはお金の重みを理解しているからだと思っている。

ビジネスの事業投資や、資産運用には果敢に投じることはある。だが、プライベートな出費や物欲はない。プライベート用のクレジットカードは、ここ数ヶ月は忙しくしているのもあって請求金額は1万円以下である。

イギリスの歴史学者・政治学者であるパーキンソン氏は”Expenditures” rises to meet income.”(支出は収入の額まで増加する)といっている。つまり、人は往々にして収入が増えればその分支出も増えてしまうのである。この人的な特性が作用することで、高収入なのに意外なほど蓄財ができていない実態が生み出される。

ここは賛否両論わかれるかもしれないが、筆者は貧しい生活を経験していれば、お金の重みを理解できるためにムダな出費はしないで済むと考えている。

人に語れるエピソードになる

また、お金がない生活は創意工夫に満ちているために、後に人に語れるエピソードになるということだ。

筆者は限られた食材から、最大限栄養価を高めるために「玄米や大豆を水につけ、食味を失わない程度に発芽させる」ということをしていた。また、旅行先では宿泊代をケチって、車中泊や新聞・ダンボールを使って効率的に暖を取るワザを駆使しながら野宿で連泊を経験した。こうした話はひょんな場面で、話題作りに一役買ってくれる。自慢話は相手に不快感を与えるが、ユニークな過去体験は面白がってもらえるのだ。

貧乏生活にはデメリットばかりが取り沙汰されがちだ。自分自身、過去記事でも貧しい状態は経済的不安がマインドシェアを奪い取るために、クリエイティビティが発揮される余地がなくなるというマイナス面を取り上げた。だが、人生は常に表裏一体、一見ネガティブ要素しかない貧乏暮らしにも意外なメリットも潜んでいるのである。

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