中国ゲームがドイツで人気の理由 – PRESIDENT Online

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8月7日と8日、ドイツ・デュッセルドルフで「ドイツ・コミック・マーケット」が開催された。愛称は「ドコミ」という日本語で、当初は日本の作品を中心としたアニメやマンガの大型イベントだった。ところが今年の来場者のコスプレは中国のゲームのキャラが大人気に。一体なにが起きているのか――。

ドイツ・デュッセルドルフで開催された「ドイツ・コミック・マーケット」の様子 – 写真=川瀬凛さん(仮名)提供

例年5万5000人超が集まるドイツ・コミック・マーケット

2021年8月7日と8日の2日間にわたり、ドイツ最大といわれるアニメコンベンション「ドコミ」がデュッセルドルフで開催された。「ドコミ」はドイツ・コミック・マーケット(Deutscher Comic Markt)の略称で、日本作品を中心にアニメ、マンガ、ゲーム、コスプレなど幅広くカバーする。欧州全域から15歳~30歳代の若い参加者が集まる、日本ファン必見の大型イベントだ。

デュッセルドルフ・コンベンションセンターで行われた「ドコミ」は、事前のPCR検査などが求められ、来場者数も1日1万4000人に限定された。とはいえ、2009年に開催されて以降、「ドコミ」はここ十余年で大きく成長した。2010年はわずか3000人だった参加者が、2019年には5万5000人以上に増えたことからは、欧州でも着実に日本のコンテンツファンが育っていることが伺える。

デュッセルドルフは、欧州ではパリに次いで日本人が多く、最大級の日本人コミュニティーが形成されている。また、デュッセルドルフのあるノルトライン=ヴェストファーレン州は、欧州でも屈指の日系企業の集積地だ。こうした環境で行われるイベントは、日本とドイツの架け橋的な役割を担う性格も持ち合わせている。

ドコミの会場で披露された「セーラームーン」の舞台。来場者のコスプレは「原神」のキャラが大人気だった – 写真=川瀬さん提供

コスプレ来場者の多くは中国の「原神」キャラ

ドイツ在住の日本人女性、川瀬凛さん(仮名、24歳)もこのイベントに参加したひとりだった。ドコミは初参加で、この日が来るのを指折り待っていたというが、会場で目撃したある光景が彼女を驚かせた。それは、圧倒的多数を占める欧州人の参加者が日本ではなく、中国のゲーム「原神(げんしん)」キャラの“コスプレ”で来場していたことだった。


ドイツ語の雑誌に掲載された「原神」のコスプレ(写真=川瀬さん提供)

「原神」とは、中国のゲーム会社miHoYo(以下ミホヨ、本拠地は上海市)が開発・運営しているオンラインゲームである。川瀬さんは、あくまで自分の感覚だと前置きした上で、「原神キャラの来場者は7~8割を占めていた感じがしました」と話す。

ちなみに、日本のコミックマーケット(略称コミケ)では、一般の参加者がコスプレイヤーを撮影して楽しむが、「ドコミ」では参加者自身が思い思いにコスプレを楽しんでいる。

最近では日本以外の作品展示も増えてきたというが、それにしても、「ドイツのコミケ」とも言われる会場を中国のコンテンツである「原神キャラ」のコスプレが闊歩しているというのは“ゆゆしき事態”である。会場のクリエーターブースでは「自作の原神グッズさえ売られていた」(川瀬さん)というから、欧州でも“原神文化”がかなり浸透していることが見てとれる。

飽き性でもハマるストーリーやサントラへのこだわり

「原神」は、基本プレーを無料とするオープンワールド型のアクションRPGで、2020年9月に世界同時リリースを行った。モバイルアプリのマーケット情報を提供する「センサータワー」(カリフォルニア州)によれば、現在のダウンロード数は1000万回を超えているという。

日本でも昨年から、山手線などの車内広告や渋谷や秋葉原などでの看板広告など、ふんだんに予算を投
入して大々的な宣伝が行われてきた。日本でも何かと目立つ「原神」だが、その魅力は一体どこにあるのだろうか。

JR山手線の車内広告=2021年4月3日 – 筆者撮影

事務職として都内の企業に勤務している藤本萌乃さん(仮名、26歳)は、「原神」の影響をもろに受けた。“ゲーマー”というほどのめり込んでいるわけではなく、むしろ「ゲームは数回遊ぶとすぐ飽きてしまう性格だった」という彼女が「私は原神ファン」だと告白するのは、次のような理由からだった。

「このゲームがすごいのは、ディテールへのこだわりです。グラフィックやストーリー性もかなり高水準ですが、ゲーム内サウンドトラックを一流のオーケストラに演奏させているこだわりはスゴいと思いました。中国をテーマにした『璃月』という国のBGMでは古筝や琵琶など中国の古代の楽器が使用されていたり、日本をテーマにした『稲妻』では和太鼓や尺八などが使用されていたりします。

最初は、『中国のゲームなんて、どうせ金の力だけ』と思っていましたが、金の力に見合うセンスが伴ってきていることに衝撃を受けました」

PCやスマホ、プレステでクロスプレイできる良さ

藤本さんはこれ以外にも「クロスプレイできる点」を評価している。「PC、スマホのみならず、プレイステーションからもクロスプレイできるようになっていて、幅広いユーザーと遊べるのが原神のすごいところ」だという。

ドコミの会場には、「原神」のペーパークラフトも数多く展示されていた – 写真=川瀬さん提供

藤本さんによる原神の評価ポイントは、他のユーザーが「グラフィックとかストーリーがもう神」「語ることが多すぎるので、まずは遊んでみてほしい」などと、インターネット上に書き込んでいたコメントと重なる。その一方で「メインプラットフォームはPCなのでスマホ版の評価は高くはできない」など、スマホでゲームをするには「やや重い」といった指摘も目立った。

中国からの留学生で都内に住む呉暁さん(仮名、21歳)は、中国のゲーム市場動向を研究課題にし、熱心にこれを追っている。呉さんの発言からは、中国では必ずしも「原神」が人気のゲームではないことが伺える。

「中国で絶大な人気を集めるのは、テンセントゲームズの『王者栄耀』です。“中国のスマホ版LOL(リーグオブレジェンド)”のようなeスポーツ系で、誰でも楽しめることから中国では圧倒的な支持を集めています。中国における『原神』は、アニメ風の美少女、美男子キャラが多数登場することから、一部の“日本のサブカル文化が好きなゲーマー”に支えられている側面が強いと思います」