宇宙は広大であり、現代人の科学技術をもってしても観測可能な宇宙は宇宙全体のほんの一部に過ぎません。宇宙の全体像が分からないということは、「宇宙が無限なのか有限なのかも分からない」ということでもあるため、科学者の間ではさまざまな議論が交わされています。そこで、学術系ニュースサイトThe Conversationが、オーストラリアの研究機関で天文学や物理学を研究している専門家5人に「宇宙は無限?」と質問してその回答をまとめました。
Is space infinite? We asked 5 experts
https://theconversation.com/is-space-infinite-we-asked-5-experts-165742
◆回答1:「不明」
オーストラリア国立大学の天文学者であるアンナ・ムーア教授の回答は、「分からない」とのこと。少なくとも、観測可能な宇宙は今から約138億年前のビッグバンで始まったことが分かっており、これは少なくとも宇宙の年齢は有限だということを意味しています。しかし、ビッグバンによって生まれた宇宙は、それ以来あらゆる方向に向かってどんどん大きくなっており、その速さも加速しています。そのため、これまで得られている観測記録では、宇宙が無限なのか有限なのかを断定することはできないとのこと。
ただ、ヒントがないわけではありません。宇宙の始まりであるビッグバンの名残は宇宙マイクロ波背景放射(CMB)として微弱ながら観測されており、CMBについての理解を深めることは宇宙が無限か有限かを知る上で重要だと、ムーア教授は述べています。
◆回答2:「無限」
スインバン工科大学の宇宙物理学者であるサラ・ウェッブ氏は、宇宙が無限だと確信しているとの立場です。これまでの観測により、宇宙の年齢は約138億年である一方、観測可能な宇宙の大きさは460億光年だということが分かっています。ウェッブ氏によると、この差は永久インフレーションで説明がつくとのこと。
永久インフレーションとは、「宇宙を指数関数的に膨張させるインフレーションは宇宙の大部分で永遠に続いており、人類が見ている宇宙はたまたまインフレーションが落ち着いた部分に過ぎない」という学説です。また、この理論では「人類がいる宇宙以外にも多数の宇宙が生まれている」とする多元宇宙論が肯定されます。
宇宙が永久に広がり続けるという考え方について、ウェッブ氏は「インフレーションは宇宙のどこかで常に起きていて、宇宙もまた無数に存在するという説があります。SF好きの私としては、これが真実であってほしいと願わないわけにはいきません」と述べました。
◆回答3:「無限」
メルボルン大学で天文学を研究している名誉フェローのターニャ・ヒル氏も、ウェッブ氏と同様の立場から「宇宙は無数に存在しその広がりも無限である」との考え方を支持しています。
ヒル氏は宇宙のあり方について、「私たちが住んでいるのは無限に広がる紙のように平らな宇宙空間です。宇宙が平らになったのは宇宙が誕生した時に発生した急膨張、いわゆるインフレーションによるものだと考えられていますが、インフレーションは私たちの宇宙が誕生した時だけでなく、ほかの宇宙でも絶え間なく起きている可能性があります。そうなると宇宙全体、つまり多元宇宙がどのくらいの大きさになるかも想像がつきませんが、言い方を変えれば『有限の宇宙より無限の宇宙の方が想像しやすい』ということになるかもしれません」と述べました。
◆回答4:「有限」
オーストラリアンカトリック大学の天文学者であるサム・バロン准教授は、「宇宙が無限だという考え方は魅力的ですが、私は間違っていると思います」と話しています。そんなバロン准教授も、宇宙がどこかで途切れているとは考えていないとのこと。その代わり、バロン准教授は「宇宙はドーナツのようなトーラス形をしているのではないか」と考えています。つまり、宇宙船でどこまで進んでも宇宙の端にぶつかることはないものの、空間的には有限だというわけです。
「宇宙はトーラス形」という考え方については、以下の記事を読むとよく分かります。
三角形の角度から分かる「宇宙の形」とは? – GIGAZINE
バロン准教授は、「もし宇宙がドーナツのような形なら、ある星から放たれて別々の方向に向かった光が宇宙の形に合わせて曲がり、いずれある場所で交差するはずです。その交差点に立てば、異なる方向に同じ星が浮かんでいるのを見ることができるでしょう。それを確かめるべく、天文学者たちはすでにビッグバンの名残の中から同じパターンを見つけ出す研究を始めています。宇宙が有限だということを示す決定的な証拠はまだ見つかっていませんが、いずれ何か新しい発見があるかもしれません」と話しています。
◆回答5:「有限」
メルボルン大学で科学史を研究しているKevin Orrman-Rossiter氏は、「宇宙はいつか終わりを迎える」と考えています。つまり、時間的に有限なら宇宙の広がりもまた有限だという立場です。
Orrman-Rossiter氏は「宇宙は約138億年前に始まり、そして膨張し続けています。この膨張が今後も続くのか、あるいは収縮に転じるのかという疑問は、宇宙論の重要な課題です。これを解き明かすには、ダークマターとダークエネルギーの性質を理解しなくてはならないでしょう」と述べて、今後の発見に期待を寄せました。
5人の専門家の回答は「不明1・無限2・有限2」と、宇宙が無限に広がっているかどうかについては専門家の間でも意見が真っ二つに分かれるという結果となりました。
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