ナチスの残虐行為の証拠、ポーランドの「死の谷」で見つかった遺物たち

GIZMODO

第二次世界大戦の勃発時と終盤に、ナチスがポーランドで行った残虐行為やその証拠隠滅を図った痕跡について、新たな詳細が明らかになりました。

1939年9月1日、ナチスドイツがポーランドに侵攻して、第二次世界大戦が勃発。開戦後の数カ月は特に残酷で、ポーランド北部のポメラニア地方では推定3万から3万5000名の民間人が虐殺されました。

戦時中のポーランドでは数多くの残虐行為が起きましたが、その最初がこの大規模な残虐行為だったのです。こういった殺害はPomeranian Crime of 1939として知られており、のちにナチスが第二次世界大戦中に行ったジェノサイドの予兆を示していると考えられています。こういった殺害の中には教師、聖職者、医者、活動家、事務職や元役人などポーランド社会の高名な知識層を処刑するIntelligenzaktionの一環として行われたものもありました。

このような殺害は、ポーランドの町ホイニツェの外れを含むポメラニア地方のおよそ400カ所で実行されていました。そこはドイツが東部戦線に沿ってどんどん後退を進めていた1945年の1月下旬に、およそ600名のポーランド人服役囚の大虐殺が行われた場所でもあります。目撃者の話によれば、ポーランド人たちは処刑され、彼らの遺体は証拠を葬るために焼却されたとのこと。ホイニツェ近くの現場は戦時中に行われた殺害から、後に「死の谷」と名付けられました。

戦後すぐに行われた調査では168名の亡骸が発掘されましたが、先日学術誌『Antiquity』に発表された最新研究によれば、「すべての人間の遺体が見つかって発見されたわけではないことは、死体発掘の報告書から明らかだった」そう。1945年に殺されたポーランド人受刑者たちの墓も、完全には調査されていませんでした。ポーランド科学アカデミーのDawid Kobiałka氏率いる研究者らは、「第二次世界大戦からのこういった犯罪の遺物を発掘し、マッピングして分析することが『死の谷の考古学』プロジェクトの目的のひとつ」だと論文に綴っています。

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1939年に死の谷で父親を亡くしたAleksandra Lubińskaさんが筆頭著者Dawid Kobiałk氏に話している様子
Image: D. Frymark

この研究のためにKobiałk氏と同僚らは、ポーランドの記録保管所に保存されていた1,000ページ以上の歴史文書を調べ、死の谷で亡くなったとされる人たちの親族を含む同地域の住民を取材して民俗学的調査を敢行。研究チームは埋葬の証拠を見つけ出すために、殺害が行われた10エーカー(4ヘクタール)近くの土地をLIDAR、金属検知器や別の非侵襲的な機器を用いて探査しました。

これらの調査で得られたデータは、次に同地域を撮った空撮写真の史料と比較されました。この分析によって、ポーランド軍が戦争に先立つ数週間で掘っていた幾つもの塹壕が明らかに。しかし、皮肉なことにナチスはこういった塹壕を、殺害の犠牲者を埋めるために使っていたのです。

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ポーランドの死の谷で作業する考古学チーム
Image: D. Frymark

論文によれば、「処刑は塹壕で実行された」とのこと。「犠牲者たちは塹壕に落ちたか、加害者らが遺体を放り投げていたかだ。その後、塹壕は土で埋め戻された」そう。

慎重を要するというこの研究の性質上、考古学者らは限定的な発掘作業を行いました。死の谷に散らばる計8つの塹壕が開かれ、ナチスによる殺害の犠牲者500名が埋葬されたと思われる共同墓地が見つかったのです。

1945年の大虐殺による犠牲者らの焼骨も発掘され、考古学者たちは「このプロジェクトの最も重要な結果」と評しています。その一部は地面にばらまかれていました。そして史料から、この犠牲者たちは主にポーランドのレジスタンス運動の構成員たちだった可能性があると判明。戦争終盤に起きたこの大虐殺で何があったのか、論文では恐ろしい説明がされています。

1945年1月の犠牲者たちが殺され、積み上げられて埋められたと思われる地点を突き止めました。死体の山は可燃物をかけられ火を放たれたという目撃者の証言の正確さが、保存されていた木片によって裏付けられました。犠牲者の所有する貴重品の存在は、死体からの強奪はなかったことを示し、こういった遺物は所有物を介して身元特定を行える可能性も示しています。

実地調査の結果、計349個の遺物が発掘されました。その中には、女性ものの金の結婚指輪など犠牲者の持ち物がありました。そして信じられないことですが、研究者らはこの指輪の持ち主がポーランド国内軍の諜報員Irena Szydłowskaさんだと突き止めたのです。

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Irena Szydłowskaさんのものだった金の結婚指輪
Image: A. Barejko

Kobiałka氏はメールで送られてきたプレスリリースの中で、彼女の「家族はこの発見について知らされて、指輪は彼らの元に返却される予定だ」と説明していました。こういった個人の所有物に加えて、研究者たちは銃弾、薬莢、そして焼けた木々など、大虐殺そのものの証拠も発掘しています。

「犯罪を隠蔽しようとしたナチスの労力にもかかわらず、現在まで保存されていた殺害の物証が2020年に発見され、大虐殺の証拠として75年ののちにその顛末を物語ってくれる」と研究者らは締めくくっています。

ポーランドの死の谷ではさらに多くの犠牲者が見つかっており、調査は今も続いています。研究チームは彼らの身元を特定するため、遺骸のDNA分析を行う予定。そうした後に遺骸は改めて埋葬され、死の谷は正式に戦没者の墓地となります。

Source: Cambridge Core

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