常にワクワクするパソコンを開発し、我々を驚かし続けてきたのがVAIOである。1996年4月の創刊から25年を迎えたPC Watchの歴史においても、先進的な機能やデザインは、いつも誌面を賑わせてきた。
ソニーから「VAIO」ブランドが誕生
1997年6月に、ソニーの新たなパソコンブランドとして登場したVAIOの国内第1号機は、ミニタワーの「PCV-T700MR」、A4ファイルサイズのスリムノートの「PCG-707」、「PCG-705」の3機種。米国では、1996年9月からVAIOシリーズの販売を開始。その時点で、既に話題となっていたパソコンだけに、日本市場への投入は大きな注目を集めた。
VAIOの名称は、「Video Audio Integrated Operation」が語源。それを体現するように、ソニーが得意とするAV機能を強化しながら、それまでにはなかったエンターテイメント性を強く意識したパソコンとして登場した。
そのVAIOの存在感を一気に高めたのが、1997年10月に発表したB5ファイルサイズのノート「PCG-505」である。世界で初めてパソコンの筐体全面にマグネシウム合金を採用。紫色の筐体は、新たな時代のノートPCの象徴として注目され、「銀パソ」ブームを日本に巻き起こした。
その後のノートPCの多くがマグネシウム合金を採用したことからも、VAIOの先駆性が分かる。
ソニーから独立し、VAIO株式会社に
2014年7月に、VAIO株式会社として独立。「本質+α」を、新生VAIOの基本メッセージとして、パソコンづくりの原点に戻り、パソコンに求められる本質を追求。そこに、VAIOならではの尖ったコンセプトを+αとして加えることで、他社にはないパソコンを世の中に送り出すことを宣言した。
その後、同社が発売したパソコンに「VAIOらしい」と表現されるものが多いのは、VAIOの基本姿勢を示す言葉を変えながらも、他社にはないパソコンづくりへの取り組みがDNAとして社内に浸透していることの証だと言っていいだろう。
独立会社としてスタートしたVAIOは、240人の少数精鋭の体制(ソニー時代のピーク時には約1,100人)となり、2年度目には早くも黒字化。その後、経営体質を強化しながら、製品ラインナップを広げ、海外にもビジネスを展開している。
現在はパソコン事業以外にも、ロボット関連事業やドローン関連事業、生産受託事業を展開している。
特筆されるのが、独立して以降、VAIOの本社を長野県安曇野市に構えていることだ。
ソニー時代からVAIOの生産を行なっていた生産拠点をそのまま活用。設計、製造、品質保証、サービス体制を集約し、高い品質を維持しながら、日本のニーズに応えたモノづくりを続けている。全ての製品を厳しくチェックをした上で出荷する「安曇野FINISH」も、VAIOのこだわりの1つだ。
安曇野の本社入口には、「VAIOの里」の石碑が置かれている。
最初のVAIOが米国で発売されてから25年。同じ25年の歴史を持つPC Watchの記事から、VAIOのエポックメイキングな製品を振り返ってみよう。
VAIO type P
2009年1月に発売した「VAIO type P」は、片手で掴めて、ポケットにも納まるコンパクトな筐体に、8型ウルトラワイド液晶ディスプレイを搭載。約588gの軽量化を実現したパソコンだ。いつも持ち歩きたくなる「ポケットスタイルPC」という新たな提案は、まさにVAIOならではのものだった。
筆者は発売直後に入手し、東京・新橋の居酒屋で、仲間とこれを手に取りながら話をしていたところ、隣の席の中年サラリーマンが、「それ、話題のパソコンだよね。ちょっと持たせてほしい」と会話に入ってくるほどの注目度だったことを覚えている。
VAIO Z
VAIOを象徴するパソコンの1つが「VAIO Z」だ。その時代の最先端技術を採用し、他社の追随を許さない高性能とデザインを両立。妥協しないモノづくりは、まさにVAIO Zの真骨頂である。
2008年に発売されたVAIO Type Zがその原点であり、ここでは再起動なしでGPUとIGPの切り替えができるハイブリッドグラフィックスを新たに採用。
2010年のVAIO ZではクアッドSSDを搭載し、2011年のVAIO Zでは光ファイバー通信による外付けグラフィックスユニットを採用。
2015年のVAIO Zには独自の高密度実装技術と放熱設計技術を活用したZ Engineの搭載により、次元が異なる高いパフォーマンスを実現して見せた。
そして、2021年2月に発表した最新のVAIO Zでは、世界初のフルカーボンボディを採用し、軽量化と剛性を高い次元でバランスを取りながら、高性能、長時間駆動、先進のデザインを実現している。時代ごとに最高のモバイル体験を提案し、それらの成果は、その後のモバイルの標準技術となっている。まさにVAIOがPCの新たな時代を切り開いてきたことを証明する製品だ。
VAIO Pro 11
モバイル利用にこだわって開発したのが、2013年に登場した「VAIO Pro 11」である。11.6型液晶ディスプレイを搭載したクラムシェルデザインを採用しながら、最新技術を盛り込むことで軽量、薄型を追求。タッチパネル非搭載モデルでは重量約770g、タッチパネル搭載モデルでも約870gという軽量化を実現した。
2003年に発売した「バイオノート505エクストリーム」で採用したUDカーボンを採用したのも特徴で、さらに、画面をタッチしてもぐらつかず、クラムシェルの形状であるからこそ重視されるタイビングの質感にもこだわったパソコンだ。
ちなみに、兄弟機として発売した13.3型液晶ディスプレイ搭載のVAIO Pro13は、外観はほぼ同じデザインだが、SSDやSDカードスロットの配置、バッテリ形状が異なるほか、ヒートパイプや空冷ファンも全く別のものを使用している。
異なる開発チームが、明確な目標と目的を持ち、同じコンセプト、同じターゲットユーザーという共通の認識の上で、外は一緒、中は別という、モノづくりに挑んだ点でもユニークな取り組みであった。
VAIO Z Canvas
2015年5月の正式発表前から、VAIO Prototype Tablet PCの名称で話題を集めていたのが、「VAIO Z Canvas」である。2014年7月に独立会社として事業を開始したVAIOが、同年10月に米ロサンゼルスで開催されたAdobe Systemsのクリエイター向けイベント「Adobe MAX」で、独立後初のオリジナルPCの試作機として参考展示して注目を集めた。
VAIO Z Canvasは、正式発表までの期間、クリエイターに試用してもらい、その声を取り入れて、改良を加えるといった手法もユニークだった。
無段階に調節可能なスタンドを内蔵し、本体が自立する形状とする一方、薄型の無線キーボードを用意。本体の手前や背後など、自由な位置に配置し、右手でペン操作しながら、左手で各種のショートカットコマンドを実行できるといった工夫もクリエイターの声を参考にしたものだった。
VAIOにとって、重要なユーザー層の1つがクリエイターであることを示した製品であった。
VAIO SシリーズとSXシリーズ
VAIOのハイエンドラインに位置付けたZラインに対して、メインストリームラインとなるのがSラインである。
2016年2月に発売した「VAIO S13」および「VAIO S15」は、それぞれ「VAIO Pro 13|mk2」、「VAIO Fit 15E|mk2」から製品名を変更。既に発売していた「VAIO S11」とともに、製品ポートフォリオを整理した。
「S」には、上質や優秀といった「Superior」の意味が込められ、レスポンス、インプット、アウトプット、質感・剛性という4つの差異化軸において、ベストな存在を目指したモノつくりが行なわれた。VAIOの売れ筋モデルに位置付けられる製品群である。
2019年1月には、VAIO SX14を発売し、13.3型液晶ディスプレイを搭載したS13とほぼ同じ筐体サイズに、14型液晶ディスプレイを搭載することで、可搬性を維持しながら生産性を向上。
さらに、同年7月には、他社にはない12.5型液晶ディスプレイを搭載したVAIO SX12を発売。メインマシンとして利用できるモバイルノートとして新たな提案を行なった。
このように新たなモノづくりにも積極果敢に挑戦し、新たな市場開拓に繋げる取り組みがVAIOらしいところである。この精神は今でも受け継がれている。
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